第46話
え?
えええっ!?
びっくりしすぎてナイフとフォークを落としそうになってしまった。
あぶないあぶない。公爵家でのお食事だしマナーに気をつけなきゃね。
「そ、それは、きちんとした婚約者が決まるまでの繋ぎってことですか?」
多分あおいさんの言い方的にそういうことだよね!?
きっと然るべきお相手が見つかるまで、今まであおいさんのお手伝いをしていた私に手伝って欲しいってことだよね?
さっき引っ越してきて手伝って欲しいって言ってたし。
「なぜそういうことになるのだ・・・。」
なんだかあおいさんがゲンナリした顔をしている。
「ふふっ。セレストの伝え方が悪いのよ。
男ならハッキリ言わなきゃね!」
エステルさん!
そうですよね!?
あおいさんがよくわからないことばっかり言うからいけないんですよ!
ほらっ!エステルさんもこう言ってますよ!とあおいさんの方を向くと、なんだかあおいさんがキリッとした顔をしてこちらを見ている。
宝石のような、きらきらと美しい青い瞳に吸い込まれそうになる。
「結婚を前提に、みどりには婚約者として私と共に公爵家の領地に来て欲しいと思っている。」
そう言うあおいさんの目は真剣だ。
「・・・な、なんで?」
だって私地味だし、可愛くないし。
身分だってないし。それどころか家族はみんな亡くなってて身寄りすらない。
こんなものすごいイケメンで、優秀で、身分もあるあおいさんには釣り合わない。
そんなことをバーっと言うと、あおいさんはいつも通りのツンとした表情でバカか。と言った。
「バカってなんですか!
私、真剣に言ってるのに!」
「お前のどこが地味で可愛くない?
身分だって、そもそもみどりは身分のないアーシスの出身だろう。
それにわたしだってこの間までは平民の母から生まれたからと公爵家から出ていたのだから。」
「そうよねぇ。みどりちゃんはものすごく綺麗よねぇ。」
なんてのほほんとエステルさんが言う。
「どこがです!?
だって私、ずっと地味女って、眼鏡でぽっちゃりしてて肌荒れも酷くて、可愛くないって言われてて・・・」
そういうと3人ともキョトンとした顔でこちらを見ている。
「眼鏡?
私は眼鏡をつけているみどりちゃんは見たことないわよ?」
そうだ。魔法を覚えてすぐに視力を強化できるようになったから。
エステルさんとヒンメルさんに会った時には眼鏡は必要なくなっていた。
「それにみどりさんは太ってもないよなあ?」
最近はバタバタしてて体重計には乗ってないけど、冒険者になってこっちで歩くようになってから痩せて筋肉も適度について引き締まった気がする。
「肌だって髪だって、私と作った化粧水とトリートメントで艶々ツルツルじゃないか。」
たしかにあれからずっと、手作りの化粧水とトリートメントを使っている。
魔法を使って作るとすごく効果があるのだ。
味を占めた私は、他にもハンドクリームやらシャンプーやら乳液やら、いろんなものを作って愛用している。
「みどりちゃんはとっても綺麗よ。
セレストなんて、ドレス姿を見るたびに見惚れていたんだから!」
「姉さん!!」
エステルさんは、あら、ごめんなさい。見惚れていたのが大好きなみどりちゃんにバレて恥ずかしいのかしら?
「・・・大好き?」
あおいさんが、私を?
「あら?みどりちゃん、気がつかなかった?
セレストったら、ドレスや洋服を用意するたびに自分の色を選んでいたのに!」
そう言われて思い返してみると、いつもあおいさんが用意してくれていたのは青と銀だった。
あおいさんの瞳の青と、髪の銀。
そう気がつくと頬が赤くなり顔がカッと熱くなる。
「でも、身分が・・・」
そう呟くとヒンメルさんが優しく微笑みながら言う。
「エステルとセレストを産んだ、私の愛したユスティアは平民だよ。
断りきれず隣国の王女を娶って、結局はエステルとセレストを悲しませて、ユスティアも失った。
私は大切な息子に私と同じような思いをさせるつもりはないよ。」
ドキドキと心臓が脈を打つ。
こんなに素敵な人の相手が、本当に私でいいんだろうか。
そう思いあおいさんの方を向くとあおいさんはこちらをじっと見ていた。
「本当に、私でいいんですか?」
「みどりがいい。」
その一言を聞いて温かい涙が溢れ出す。
「っ、よろしく、お願いします。」
私もあおいさんが大好き。
自分の気持ちに気がついたのは誘拐組織のアジトで助けてもらった時だけど、きっとその前から。
いつもは無表情なあおいさんがたまに見せる笑顔が大好きだった。
一緒に馬に乗った時はドキドキした。
最初にあった時、こんな綺麗な人が現実にいるのかと目を奪われた。
ああ、私、もっとずっと前からあおいさんが好きだったんだ。
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