第10話 手紙
キースとの出会いから数日後。
「お嬢様、キース様から手紙が届きました」
「ん」
ロウの封を開けてもらった手紙を受け取る。
(友達から手紙がもらえるなんて……この手紙は家宝にしよう)
前世ではもちろん手紙なんて一度ももらったことがなかった。
友達がいないから年賀状ですら親戚からしか届かず、正月はいつも苦い思いをしていた。
それらの思いもあって初めての友達からの手紙と言うことで凄く興奮している。
(どんな内容だろう。もしかして、遊びの誘いとかだったりして)
期待を込めて手紙を開ける。
『親愛なるディアナへ
先日のことについて、改めて感謝します。今までの私はただ父の指示通りに動くだけの人形も同然でしたが、あなたのおかげで自分の道を歩む決心がつきました。そのために、さしあたっては自分を磨き誰にも囚われない力をつけていこうと考えています。
学園に入るまでに今度は私があなたを支えられるほどに力をつけてみせるのでそれまで待っていてください。
次は学園で会いましょう。貴方の臣下キースより』
(え?)
いろいろ驚きだった。
そこまで感謝されるようなことをした覚えはなかったし、学園まで会わないみたいなことが書いてあった。
(それに臣下って……えっ、友達じゃなかったの!?)
どうやら友達になったと思っていたのは僕だけだったらしい。
キースと出会ってからの数日間、これから友達と何をしようか妄想していたすべてが前提から覆り白紙に戻った。
期待が大きかった分、書かれていた内容の数々のショックも凄まじいものであった。
そのあまりの落差に思わず頬に涙が伝っていく。
「お嬢様!?」
それを見たマリアが心配そうに声をかけてくる。
「やはり、あれに何かされて……」
普段、絶対に使わないような言葉遣いがマリアから聞こえた気がした。
「大丈夫ですよ、お嬢様。次来るようなことになったら全力で私含めこの城の全員で阻止しますから安心してください。」
「次、来る、こと?」
キースは来ないとは言っていないが、ディアナは何か裏切られた気分になっていた。
「はい、この城にいる全員がお嬢様の味方です」
「絶対、ぐすっ、会いに、来るってぇ……」
そう、近いうちに会いに来ると勝手に決め込んでいた。
「お嬢様!?」
ディアナが落ち着くまでの間、ずっとマリアは背を撫で続けていた。
「落ち着きましたか」
「うん……」
「それで、何があったのでしょうか。よろしければお聞かせいただけませんか?」
「キースと、学園まで、会えない、また一人」
「お嬢様……」
「マリアは……ずっと、一緒、だよね?」
「それは……」
真祖の寿命はおよそ500年。そのことを考えると素直に「はい」とはいえなかった。
マリアのためらいを感じたディアナの瞳が潤う。
「も、もちろん。ずっと一緒ですよ」
またこれで当分、真祖のことを打ち明ける機会を失ったマリアなのであった。
「よかった」
マリアがそう言ってくれたのはうれしかったが、結局はまた……
(はぁ、またぼっちに戻ってしまった)
戻るも何も最初からぼっちであったのだが、それを指摘出来る者はこの場にはいなかった。
(どうしてこうも友達ができないんだろう?)
なんだか誰もが僕を避けている気がした。
「マリア、私、魅力ない?」
「いいえ、誰もが振り向く絶世の美少女と言っても過言ではないほどに魅力的ですよ」
そう、自分で言うのも何だが容姿に問題はないことは分かっていた。
(やはり問題はこの臆病で慎重な性格にあるのだろうか?)
となると……
「わかった。私、勇者になる」
「勇者?」
「勇敢、強い、かっこいい」
「お嬢様はもう十分に勇者ですよ」
行商人の一件でマリアにはそう見えていた。
(お世辞かな? 今までの僕を例えるなら兎あたりが妥当なんじゃないだろうか)
最近は何かひやっとすることの連続で、震えていた記憶ばかりが思い出された。
(とにかく、学園に行くまでに一人は同年代の友達を作っておきたい。そのためにも今までの性格を矯正して勇者メンタルを身につけてみせる!それに勇者ならばあんな手紙一つでいつまでもうじうじしてはいないはず、とにかく行動あるのみだ)
沈んだ心を持ち上げるように、拳を握り絞め、空を殴る。
「マリア、探索、だ!」
「はい、お嬢様」
今日もディアナは友達を求めて駆け回る。
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