激昂の兎姫
hood
第一部 鳥籠の中の兎
第1話 深紅
十二歳とまだまだ若いことはわかっているが慎重にひたすら慎重にを信条にして、今まで特に大きな失敗をしたことが無いのが僕の密かな自慢だった。
今日までは……
その日は生涯で初めての友達になれそうな存在を見つけて浮かれていたのだろう。
いつもなら常に背後を警戒して帰るところをずっと前を見てスキップをしながら、なんなら鼻歌も歌っていたかも知れない。
そんな人生最大の不注意状態での帰宅時。
僕の常の状態なら致命傷をもらうことはなかっただろう。
「きゃー!!!」
背後で女性の甲高い悲鳴が聞こえる。
(何があった?)
と思った次の瞬間、背中に強烈な痛みと熱を感じた。痛みと衝撃から思わず倒れ伏してしまう。
(いったい何が……)
喉の奥からせり上がってくる鉄の味を吐き出す。
(血?)
体から徐々に熱が無くなり思考もままならなくなってきた。
地面に僕の血液が広がっていく。
――最後の光景は視界いっぱいに広がる深紅の血の色だった……
(――はっ!?)
急速に意識が浮上する。
どくどくと鳴る、激しい心臓の鼓動が生きていることを実感させてくれる。
徐々に心を落ち着かせると、不可解な今の状況が気になった。
(ここは、何処だろう……)
身動きがとれず、視界も不明瞭だ。
周りに人の気配も感じられない。
ひたすらに静かな雰囲気から徐々に不安が芽生えてくる。
(……ん?)
ふと、窓から差し込む光に気づいた。
窓からは満点の星々を浮かべた夜空が見える。
(!?)
その光景を見て一瞬、息が止まるほどの衝撃を受けた。
ありえないことに、そこには夜空にきらめく星々の中にあって圧倒的な存在感を放つ深紅と黄金に輝く二つの満月があった。
(ここは……日本ではない?)
ガチャッ。
(ひっ)
静かな足音を伴って誰かがこちらに近づいてくる。
無意識に体が震え、息が荒くなってきた。
今しがた死を間近に感じたばかりということもあり、この時の僕の心は緊張と恐怖で埋め尽くされていた。
足音は死のカウントダウンのように聞こえ、まるで死神が近づいてくるかの様に感じられる。
近くまで来ると足音は止み、僕の顔に影を落とす。
現れたのは見知らぬ女性だった。
(誰だろう……)
死神とまで思った人物は優し気な目で僕を見つめている。
女性の穏やかな雰囲気を感じ取り、徐々に落ち着きを取り戻してくる。
ふと、お互いに目があった。
――瞬間、女性の目が大きく見開く。
すると女性は、何かに驚いた表情で、来た時とは打って変わって足音を鳴らしながら焦ったようにドアから出て行ってしまった。
(な、何だったんだ……)
落ち着きかけていた心に不安が芽生え、また落ち着かなくなってくる。
体が動かず何も出来ないため、ただ不安だけが膨らんでいく。
女性が出て行ってから五分もしないうちにドアの外から複数の足音と声が聞こえてきた。
入ってきたのは先程の女性と二人の男性だった。
男性二人は入ってくるなり僕を見て驚きの表情を浮かべた。
(jadkflsl)
三人で何やら話しているようだが、いままで一度も聞いたことのない言語だ。
何を言っているのかさっぱりわからず、不安のあまり目に涙が浮かんでくる。
そこからは涙腺が一気に崩壊したかの如く涙が溢れてしまい、自分でも意外なことに声を上げて思いっきり泣いてしまった。
慌てて女性が駆け寄ってきて、僕を抱き上げる。
(あれ?)
泣いていて不思議なことに気づく。
(僕の声ってこんなに高かったっけ? それにこんな軽々と持ち上げられるなんて……これじゃ、まるで赤ちゃんみたいな……)
そこまで考え、今までのことが頭の中で結びつき一つの仮定が生じた。
――まさか、転生……した!?
その後、女性の絶妙な手腕で安心した僕は泣き疲れて眠気に誘われ、すぐに眠ってしまった。
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