閑話 そんな日もあるさ

警告・BL注意報発令中 



パイアールはディナイのコロニーに来ている。

どうやって報告をすればいいのか分からないが、まあ、本当のことを言うしかないだろう。


「よお」

頭に包帯を巻いて片目を覆っている姿で、片手を上げてみる。

「そ、その姿はどうしたのだ?」

(うん。まあ。色々とな?)


パイアールはハルミナを見送った後、直後に来ているから、傷だらけなのは自覚している。

報告書をディナイに手渡し、相向かいの席に座る。


アンドロメダのほうで、銃に撃たれたり、鞭で叩かれたりしたし。

挙句に眼球破壊じゃあ、怒られても仕方ない気がする。


報告書に軽く目を通してから、ディナイは溜め息を吐いた。

「…替えが造れるか分からんぞ?」

「ん。そうか。…困ったな」


案外片目は不自由で、ここに来れば何とかなるかと思ったのだけど。

困った顔で見ているディナイに、やはり困り顔で見返す。

しかし、思ったよりもディナイの影響が少ない気がする。

パイアールが生きて動いている事で、少しは何かが晴れたのか?


考えているパイアールを見ながら、溜め息を吐いたディナイは急にニヤリと笑った。

「…そうだ。今日は少しお前で遊ばせてもらうぞ?」

「へ?」

不意打ちの言葉に、パイアールが間抜けな声を出す。

「…いま、替えの問い合わせもしているしな」

「…遊ぶってなんだよ?」

まさか、そういうことをさせろなんて言わねえよな?


「パイアール。…服を脱ぐんだ」


(…まじか?

え?ええ?まじですか?

ちょっと待ってくれないか?そんな話言わなかったよな?

け、契約違反じゃあねえか!?言ってないから契約に関係ないとか、そんな話か!?

うわあ!無理無理無理!!)


ディナイが静かに微笑む。

「…抵抗をするのか?」

ぐっとパイアールが言葉に詰まる。

「…きたねえぞ、そんな言い方…」

「いいから、これに着替えなさい」

ばさりと服の束を膝上に投げ出された。

パイアールはその服の山を見降ろす。

(は?着替えろ?何で?

…いや、着替えるぐらいならするけどさ?)


パイアールが手渡されたのは、煌びやかな華やかな服の数々。

(何だかこういう趣味の奴、前にいたような)


「…変じゃねえか?俺、こういうのは…」

(なんでこんな、何とも言えないような服をさ、選ぶわけ?)

まじまじと見られている事にパイアールは戸惑うが。

「…」

無言でディナイがパイアールに触る。震える指で。


(…何だよそれ。まだ、悲しいのかよ。苦しいのかよ。

本当に人の気持ちは分かりづらい。見えても、見えなくても)


お人好しは少し学んだ方が良い。

ディナイが興奮のあまり震えている事を、良い方に解釈し過ぎる。




結局代わりの眼球は無いらしい。


仕方なくパイアールは、いましばらくの間片目だ。

(…まじで、不自由なんだよな)

船を見られて追及されるのが嫌で、リウに宇宙港に泊まらずに空に待機してもらっている。

そこに行こうとしたら。


「おや?パイアールじゃないかい?」

ステーション近くで声を掛けられた。

振り向くとあんまり会いたくない男が立っていた。


「…アスラン」

にっこにこの連邦軍少佐は、遠慮なく近づいて来る。

「その眼はどうしたんだい?コスプレかい?」

「何のだよ?」

「ふふふ。いい感じだね?」

「だから、何がだよ?」

相変わらず訳分からねえ男だな。


「最近は見なかったけど、いったいどこにいたんだい?」

「…アンドロメダ」

「はい?」


だよなあ。

パイアールだって何であんなところへ飛んだのかさっぱりなのだから。

まあ、おかげで船は手に入ったのだが。


「…良く帰ってきたねえ?」

「ああ。本当にな」

大袈裟に驚かれても、頷くしかない。

「どこかで食事でもしないかい?」

「…お前はさ、いつも安く上げようとするだろう?」

「いやいや、ハンバーガーを食べている口がね?」

「…俺の口がなんだよ?」

何言っているんだろうなこいつは。


早くそこらへんのご令嬢と結婚しちまえよ。

うっとおしいから。


うだうだ言っているアスランの後ろから、部下らしき軍服の男がやって来る。睨みつけてこれを持って帰れと手を動かすと、納得したようにアスランの腕を引いて軍艦の方に歩いていった。

アスランの悲しそうな声は、パイアールには関係ない。

溜め息を吐いてリウに連絡を取ろうとしたら。


(…あれ?何処かで見たような奴が。

こっちに向かって歩いてくる。俺の少し前で止まった。

…俺を真剣に見ている。

懐かしいな。

けど、これを俺だと分かって見ているのかどうか)


「パイアール」


(あ。分かってんのか。…そうか)


「何の用だ、ハンガ?」

「…久しぶりだ」

真面目な顔のまま、言葉を紡ぐ。

「…そうだな。お前が俺の船を降りてから会ってねえから、かれこれ6,7年ぶりか?」

「そうだな」

何もなかったかのように話し続けるハンガに少し腹が立つ。

(お前が降りた後、船は大変だった。皆だって混乱したし、俺だって書置き一つない事態に物凄く悩んだ)


「今更、俺に何の用だ?」

「…お前に話したいことがあって来たんだ」

「は!何を都合のいい事をいってんだよ!?俺達は物別れをしたんだ。それ以上の話は無いはずだ」

「…今なら話せる」


ち。

真面目な顔で、ハンガは言っているが。

「それは、お前の都合だ。俺は聞きたくねえな」

「…パイアール」

パイアールを掴もうとハンガが手を伸ばす。

「リウ!来い!!」

あたりに風が逆巻いて、パイアールの頭上に船が来る。


「じゃあな!」

パイアールはリウが下したコードに手を絡ませて、船に戻る。

そのまま、発進をさせた。

呆然と船を見上げるハンガを見ないように。


「…随分急でしたね?」

「頭に来たんだ。…いきなり来て自分の話を聞けだなんて、都合がよすぎる」

パイアールが言う言葉は、誰にも意味が分からない。

ただ怒っている事は分かった。

リウが入れてくれたコーヒーを飲みながら、パイアールは少し怒りを落とそうとする。香りと温度がどうしようもない怒りを少し収めてくれる。


(ああ、くそ。

今日はろくな日じゃねえな)


もう少し自分の容姿の事を顧みた方が良いぞ、パイアール。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る