光を求めて・1



自由な船を手に入れたパイアールは、行きたい所に行ける反面、自分の方向を少し悩んでいた。この先どうするか。運び屋は安定しているが、スリルも興奮もない。

元海賊に安定志向は程遠かった。

かと言ってゴート商会の手飼いなのは止められない。今の所は。


そんなパイアールは久しぶりの仕事の後に、届け先だった小惑星のステーション付近の、ジャンク街の方にリウと来ていた。

必要な部品を手分けして買っているところに、声を掛けられた。


「あのお~。私をかってくれませんかあ~?」


パイアールは多分、何回か瞬きをしたと思う。


部品を選んでいたパイアールの位置まで屈み込んだ、メイド服の女性がいたからだ。しかも、何だかひどい台詞つきで。

「…俺?」

「はい~。そうですう~」

「…いや、間に合ってるから」

嘘だけど。

「ええ~?でも、おひとりですしい~」

(一人なら、全員何かが足りないのか?

んなことはないよなあ?)

「いらん」

「でもう、買ってもらえないとお、こまるんですう」

(何がだ。誰が困るんだ)


「…今日中に買ってもらえないとお、借金のかたにい、つむされるんです」

「ん?なんて言った?」

聞きなおすパイアール。

「借金のかたにい」

「その後」

「つむされるんです」

「…正しい言葉で言え」


女性は、にこりと笑った。

若い可愛らしい少女だ。茶髪を二つのおさげにして、黒いメイド服に白いエプロン。薄桃色の瞳がこちらを見ている。

「つぶされるんです」

「…何で?ハンマーで?」

「いいえ。ろーらーで」

(……ローラー?え?この人が?)


眉を顰めてパイアールが質問する。

「…お前は何だ?」

「うう?メイドのお、ルミナスですう」

「…アンドロイドか?」

「いいええ。もっとかんたんなやつですう~」

(…簡単?)

「はっきり言え。分かんねえわ」


パイアールが言うとそのメイドは、にこにこと笑った。そして何かのアイドルのようにささっとポーズを連続して続けた。

「えへへ。いつでもばっちり~セクサロイドのルミナスですう~」

「そっち用をはっきり言うな!?そ、そうか。借金のかたにつぶされるのか」

パイアールはそのメイドを見る。

少女はパイアールに見られるたびに。

「うふふ」とか。

「えへへ」とか言っている。

確実にどこかの螺子が無くなってる感じだが。


(…ルミナス、か。…感傷的なのは昔からか)

「…わかった。俺が買ってやる」

「………えええ!?本当ですかあ!?」


すごいびっくりした顔で言われた。何だよそれ。


「あ~きらめて~ましたあ~」

ルミナスの眼から涙が零れる。

「…泣くな」

「あ、はあい」

(…本当に泣き止むなよ!?)


部品の手配の残りを終わらせて、ルミナスに道案内をさせる。

ルミナスを所有している店に行くと本当に傾いた店で、パイアールがルミナスを買うと言ったら店主に泣いて拝まれた。

…次に来たらこの店無いかもなあ。


「えへへ~」

やたらに笑っているルミナスは、トランクケース一つを持ってパイアールの後を付いてきた。丁度、道の向こうからリウがやって来る。

パイアールの後ろにいるメイドにリウは眉を顰めた。

「…それは、どうされたんですか?」

「いやあ、勢いでな」

リウに答えた途端。


「はああ~!?」

後ろで急に叫ばれて、パイアールは少し跳ねた。

「…何だよ?」

「ええ~?ご主人様はそっちけいですかあ?」

「は?何が?」

何を言い出したんだ、今度は?

「主従の禁断のお、びーえるですねえ~?はあ~いいわあ~」

(は?なんですか?)


そんなルミナスに向かって、パイアールの前では今までしたこともない、したり顔をリウがした。

(ん?)

「…あくまでも、わたしの気持ちは秘密にしてくださいね?」

「はああ~。りょうかいいですう」

(何故に何かの意志の疎通が成り立っているんだ?訳分からん)

脱力しかけているパイアールは、立って待っているリウに確認を取る。

「部品は買い終わったのか?」

「はい。おおむね」

「んじゃあ、帰るか」

パイアールはルミナスに手招きをして船に向かった。

大人しく後からルミナスがついてくる。

宇宙港に入り、自分の船に向かう途中、メイドを連れているパイアールは目立った。それはもう。整備員の殆んどが注視するぐらいには。


「うえ」

パイアールの船を見た途端に、変な潰れたような声をルミナスが出した。

「なにこれ。こんなの見た事無いわよ」

喉がごくりとなっている。

「…お前、まともに喋れんのか?」

「え?ええ~?まさかあ~?」

パイアールのじと目に、ルミナスがブンブンと手を振る。

「…キャラか」


パイアールが船の中に入ると、留守番をしていたぐみが出て来た。

「お帰り、パイ」

「ああ。ただいま、ぐみ」


「はああ~!?」

またか?

「今度は何だよ?」

「び~えるの受けでえ、ろりこん属性でえ、片目に包帯なんてええ。いったいご主人様は何をリスペクトしているのですかああ~!?」

「…な、何も?」

(俺は何かをしているか?)

「ご主人様のうそつきい~」

ルミナスがバタバタと走って船の奥へ駆けていく。

「こら?ルミナス?」

(どこへ行く?)

パイアールは走っていくルミナスの襟首を掴んだ。

じたばたと暴れている。

「…何処へ行くんだよ?」

「衝動的にい、はしっただけですう~」


はあ。

「…悪いがまだそっちにはいかないでくれ」

「ええ~?禁断のなにかが、あるんですかあ~?」

(…何だそれ。そんなもんはねえわ)

「もう少しお前を信じられたら、教えるから」

パイアールがそう言うと、ルミナスはえへへと笑った。

「…頑張りますう」

「本当に、そうしてくれ」

大人しくなったルミナスを、床に下ろして手を離す。

パイアールは状況について来れてない二人に改めて、紹介をする。


「今日俺が、…買ってきたルミナスだ」

「えへへ~。いつでもばっちり~」

ポーズを付けようとしたルミナスを止める。

「そこはいい!名前だけ言え!」

「え~。ルミナスですう」

そう言って頭を下げた。

自己紹介に来るまで何でこんなに時間が掛かるんだ。


「あはは。面白いな、ボクはぐみだよ」

「わたしはリウと言います。よろしくお願いいたしますね、ルミナスさん」

二人が名乗った後に、ルミナスがパイアールをじっと見た。

「…何だ?」

「ご主人様のなまえを~まだ聞いてませんん」

「そうだっけ?俺はパイアールだ」

ピタッとルミナスの動きが止まった。


「え?」

「ん?」

(俺なんか変な事を言ったか?)

「ぱ」

「ぱ?」

「ぱいあーるさん?」

「へ?…いや、パイアールでいいよ」


ルミナスが汗ばんで来たのは気のせいか?

「…大丈夫か?具合が悪いんじゃないか?」

パイアールが話しかけると。


「あなたが、あの、どんな女も見かけただけで全部食っちゃって、なおかつ男も自由自在に手玉にすると言う、たらしこみの海賊王パイアールさんですかあああ!?」

「誰だ!?そんな事を言った奴は!?」

言った奴でてこい!!ぶっころしてやるぞ!?


「ぎゃははははは!!」

ぐみが凄い勢いで笑いだした。

…リウまでが後ろを向いている始末だぞ!?

「ルミナス!?」

「ええ?ちがうんですかあ~?」


(本気で違うって分かって安心ってどうだよ!?

マジで?そんな噂、本当にあるんですか?

ええ~…ぐれてもいいかな、俺)





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