光を求めて・2



「ふふんん、ふ、ふ、ふふんんん」

訳の分からない歌を歌いながら、ルミナスが洗濯をしている。

メイドと名乗るだけあって、家事は普通に出来るらしい。

まだ、料理を見てないけれど。


「ご主人様あ。ご飯たべますかあ?」

「は?…ああ、食うけど」


パイアールはリウと3Dのチェスをしている。

「あ、そこは」

「待ちましょうか?」

リウがパイアールに笑いかける。

「う、ああ、でもなあ」

「…いくらでも待ちますよ?」

そんな二人を見つめていたルミナスが頬に手を添えて、身体を左右に揺らした。

「いやらしいいですう~」


(は?

今お前、俺に言ったよな?

そしてリウ、笑ってんな?)

「ああ。無理だ。…勝てねえなあ」

「パイアールは、直線的なんですよ戦法が」

「…そうか」

(そうかもな。昔っからそうかもしれないな)


先程まで身もだえていたルミナスがケロッとしてパイアールに聞いてくる。

「何を食べますかあ?」

「ん?リクエストが出来るのか?」

口に指を添えてルミナスが考える。

「…ある程度ならあ~」

「そうか?なら、中華的な何か」

「了解ですう」

(おお?作れるのか?)

ルミナスがキッチンに行く背中を眺めた。

パイアールは船の解説書を読みながら、ルミナスを待ってみる。

一時間後ぐらいにルミナスが笑顔でトレイを持ってきた。

「できましたあ」

「……ああ。同じか」


<そこに眠ると言う黄金を求めて数多くの冒険者がその地を訪れたが、その地を守る守護獣に勝てた冒険者は未だにいない。また冒険者の断末魔と守護獣の勝どきの咆哮がこだました。>


的な物が皿の上に乗っている。

何だろうな、これ。


「どうぞ、食べて下さいご主人様あ~」

そして今度は食えとすすめるか?

「…ひと口は、食うけど」

パイアールはフォークに刺して口に入れる。






…やっべえ!花畑がみえたぞ!?


「……無理。自分で作るわ」

「…え~?そうですかあ~?」

ルミナスはさっさと、ダストボックスに冒険者たちの苦悶の残骸を捨てた。

おい。

溜め息を吐きながらパイアールが3人分の食事を作ろうとして、思いついてルミナスに聞いてみる。

「お前は飯食うの?」

「あ~、はい~食べますう~」


さすがにリウは食べない。

じゃあ、3人分か。

そう考えてパイアールは首を傾げる。

…アンドロイドって食うんだっけ?

あれ?食わなかったような気がするけどなあ。

違うタイプだから食うのか?

ハルミナは特殊個体だったから、分かっていたけれど。

通常の機械体は食事をしない。セクサロイドでも。

何かを口に入れても、後で腹から取り出す。


パイアールは目の前でうまうまと食事をとっているルミナスを見ながら、やっぱり何かおかしいなあなんて考えている。


(アンドロイドは飯を食わない。

だって中身は機械だから。


俺とぐみは義骸だから、外側も普通の人間と同じ、中身も内臓が詰まった肉体で、俗に言えば生身だ。

だから食事はするし睡眠もとる。必要だから)


それに対して、リウのような人工的に作られた身体を持つ者は、中身は機械で構成されているから、食事はエネルギー体を必要とする。…リウの場合は船と一緒だから宇宙船用燃料になる訳だ。

アンドロイドやセクサロイドのようなものは中身まで機械だ。

リウのように他に頭脳を持っていないだけで。

生身のように食事は必要ないし、睡眠もいらない。


(…だからさ、おかしいだろ?

この、俺の目の前で美味そうに飯を食ってる奴はさ?)



「…リウ?」

「はい、何ですか?パイアール?」

後ろのリウが、読んでいた本を膝に置いてパイアールを見る。

前の二人は、食事と会話に夢中で、パイアールの呟きには反応していない。

「これ。サーチ」

パイアールは飯を食べているルミナスを、テーブルの下で足で指し示す。


「はい。…終了しました」

ぐみがリウの言葉に反応して、パイアールをみる。

パイアールは溜め息を吐く。

「これは何だ?」

「サイボーグです」

低いが良く通る声で、リウが答える。

パイアールの目の前で、ルミナスがぶはっと飯を吹いた。

…汚ねえな。

「はわわ?な、なにををう?」

「…お前、そっち用じゃねえじゃん」

「あ~…うう、すみません~嘘をつきましたあ~」

口を拭きながら肩を落として、ルミナスが答える。

(…サイボーグか。じゃあ、中身は人だよな?)



さっきの分類から言えば、サイボーグは生身と機械の中間だ。

機械の部分と生身の部分を、繋ぎ合わせて身体にしている。

つまり、両方の特性を持つわけだが。

何せ多種多様すぎて、一概にこうだとは断言できないもので。

だからどんな物かは、本人に聞くのが一番早いわけだ。


「…で?」

「う、あ、はい。サイボーグですう。…身体の半分は機械ですけどお、あとは生身ですう」

腕を組んで睨んでいるパイアールに、身体を縮こまらせてルミナスが答えた。

「何で違う事を言ったんだよ?」

「…サイボーグは、使わなくなると直ぐにスクラップ扱いになるからですう」

「……そうか」

色々と機械は入っているが、本人用にカスタマイズされているから、使い勝手が悪いと思われて壊されるのは知ってはいた。

…元は人間なのにな。


「…お前は、何が出来るんだ?」

ルミナスがパイアールを見た。

何だか真剣に。

「…私は、惑星ケフィアで作られました」

泣きそうな声で、そう告げる。

その答えは予想していなかったパイアールは、でかい溜め息を吐いた。


「…そうか」

その会話だけで完結している二人に、不思議そうにぐみが聞いてくる。

「パイ。ケフィアってどんな星なんだ?」

「…戦場の惑星だ。…永久に戦う事を義務づけられた、な」

ぐみが目を丸くする。

「そんな星があるのか?」

「…ああ。…以前そこは、別の恒星系と戦争をしていた。長い間。…どちらも戦争をやめたかったが色々な事情で止められない」

「色々な事情って?」

パイアールは水を飲んで話を続ける。

「企業とか商人の思惑かな。…それで双方で考えた結果が、和平条約の代わりに惑星を一つ、戦場にする事だった。…そこで色々な事を試せるように」


ぐうっとぐみが唸る。

「…下らないな」

「ああ。本当にな?…だがそこは存在し続けているんだ。もう何百年も続いている戦争を繰り返しながら」

「…人はいなくならないのか?」

至極当たり前な疑問を、ぐみが口にする。

「…犯罪者を送るんです。本当の犯罪者から冤罪の人まで」

いつもと違う口調でルミナスが答える。

ぐみはルミナスを見た。

「そこから来たのか。…そうか」

ぐみはそう言うと、隣に座っていたルミナスの頭を撫でた。

身長差があるから、ぐみは椅子に膝立ちをしたが。

ルミナスの顔が真っ赤になった。

…怒っているのか恥ずかしいのか。

しかし、俯いただけでその手を振り払う事はなかった。


「…じゃあ、戦闘が出来るんだな?」

「…はあい」

(そうか)

「何が使えるんだ?」

「自分の~体の中にい~入っている物を、出して使いますう~」

少し調子が戻って来たルミナスが、パイアールの質問に答える。

ルミナスの体の中?

パイアールはルミナスの身体を見る。

小柄な女性だ。

メイド服を着て身体のラインが見えにくいが、割と小さいとは思う。

見ているパイアールに、首を傾げる。


二つに分けて編み込んでいる茶色の髪が、ゆらゆらと揺れた。

そっち用と言われてもおかしくない容姿をしているが。

「…見せてくれ。本当には動かさなくていいから」

「分かりましたあ~」


ルミナスが席を立ち、そう言ってメイド服を脱ぎ落した。

(…は?)

下着姿になったルミナスは、パイアールを見てにこりと笑った。


「けっこう、ご主人様は過激ですねえ~さすが噂の」

「ええい!その噂は忘れろ!?」

「…では」


ルミナスが右手を後ろから前に大きく振るった。

その途端ルミナスの皮膚が裂けた。

瞬き2回分ぐらいの速さで、ルミナスの右手には本人の身長ほどの長さの銃器が装着されていた。

「いかがですかあ~?」

そのまま、にこにことしている。

いや、銃口は下げてくれ。

「…わかった。もういい、しまえ」

「はあ~い」

間の抜けた返事と共に、ルミナスはその武器をしまう。

…戻す時の方が時間が掛かるんだな。

いそいそとメイド服を着る。


「…脱がないと破けるのか」

「そう言うのがお好みならあ、そうしますう」

「言ってねえよ、そんな事は」

(…思いもせず戦闘要員が出来ちまったな)

望んではいなかったが、現在の船の人員では足りない要素だ。まあ、魔法使いと完璧機械体が戦闘できない分類かは悩みどころだが。


「では、ご主人様あ?」

「ん?」

(では、ってなんだよ?)

「お風呂にしますかあ?それとも、わ・た・し・にしますかあ?」


するするとパイアールの前に立って、ルミナスがそんな事を言う。

「…お前はそっち用じゃないんだろう?」

「でもう、出来ますようう?」

「いやいいから、寄るな!?服に手を掛けるな!?」

「ええ~?恥ずかしがり屋さんなんですかあ?」


「違う!俺はしたくねえから!?」

パイアールの服を脱がせかかっていたルミナスが、口を尖らせながら身体を離した。

「ええ~?本当にそういうけいなんですかあ~?」

振り返り、リウを見たルミナス。


(…何で微笑んでいるんだリウ。俺を助けろよ?)


ぐみが黙って皿を持ってキッチンへ引っ込んでくれたことに感謝しかない。



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