閑話 惑いの星
「ぐみさん!!」
自分の手を握っているぐみに、ハルミナが怒鳴る。
その声を聞いてパッと手を離したぐみは、混乱状態のハルミナを見上げている。
「ハルミナ落ち着いて」
「でも、パイアールが!」
「…ボク達が居ても、なにもできないよ」
「でも!!」
辺りを見回して、ぐみが溜め息を吐く。
「それに、ここから何処かへ行けないだろう?ひとりじゃさ?」
そう言われたハルミナは、見る見るうちに両目に涙をためる。
「ひどい…」
「うん。ボクが悪いのでいいからさ。何処かに入ろう?ここだと落ち着いて話も出来ないよ」
ハルミナは涙を拭って周りを見る。
「…此処は何処ですか?ぐみさん」
やっと落ち着いてくれたかと、ぐみは安堵してハルミナの手を握る。
通りの真ん中で騒いでいた二人は、町はずれのネットカフェに入った。
「ここは、なんですか?」
「多分、通信もできるカフェ、だと思う。ボクも初めてはいるし」
「へえ~」
きょろきょろと見ているハルミナを横に置いて、ぐみは背伸びをして入室の手続きをする。小さい女の子の方が色々しているのに、受付は職務に忠実に余分な事を言わず手続きをしてくれている。
どうしてかと、ぐみは悩んだが、パイアールの家族カードを出している事に気付いて納得する。どうやらパイアールが所属している商会は有名企業らしく、扱われ方も丁寧だ。
ブロックキーをもらって、ハルミナと部屋に入る。
さすがに、ぐみもハアッと大きな溜め息を吐いた。
緊張していない訳がないのだ。
ハルミナはメニューを見て選んでいる。端末に入力するとテーブルの一部がスライドして注文した物が運ばれてくる。
その機能に驚いたり喜んだりしているハルミナを見て、ぐみは不思議な気持ちになる。パイアールもいつも不思議そうな顔でハルミナを見ていたなあと、思いだした。
人型コンのはずなのだが。
人型コンは、宇宙船のメインコンピューターが、機械体に入っているものだ。実質、船長一人で全てをこなすのは不可能に近く、雑務や戦闘の補助などをする為に機械体を導入したらしい。
だから、その頭脳は船そのもののはず。
けれど、ハルミナはパイアールの船とリンクしていなかった。
「…ハルミナは駄目だ。つなげない」
ぐみはパイアールの言葉を思い返す。
「どうして?ハルミナはそのために買ったのだろう?本人からそう聞いてるけど」
「…ハルミナには、細かい作業は向いていない」
「それだけ?教えればいいじゃん」
ぐみの言葉にパイアールは苦く笑う。
「もう少し考えさせてくれ」
考えている間はパイアールが苦労する。悩むのも怪我をするのもパイアールだ。今回だってぐみが魔法使いでなかったら、捕まってパイアールが拷問を受けただろう。
女二人だって、何をされていたか。
そんな危険すら分からないハルミナ。
子供のように、感情が最優先の機械体。
食事をしてエネルギーに変えるという、特殊機能が元々備わっている変異機械体。
でも、ボクはハルミナ好きなんだよなあ。
それはパイアールもそうなのだろう。
だから、考えても身動きが取れない。
まあ、迷惑をかけないように発見されやすいようにカードの利用を増やしておきますか。
落ち着いたハルミナを連れて、ぐみは夜泊まるホテルを選んでいく。
まさか一か月以上この星に留まる事になるとは、ぐみですら予想してなかった。
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