閑話 とある一日

警告・BL注意報発令中



→知ってる人一人目。




「ああ。君は一体僕をどうしたいんだい?」


洗練された家具が並ぶ、大きな部屋。

そこに、家庭用では最大級であろうスクリーンモニターが飾られている。


いまはそこに、一人の少年の姿が映っていた。


「君に会った時は本当に衝撃的だったんだよ?」


何か買い物をしているであろう少年は、こちらを見ることは無い。

…隠し撮りの様だ。


「僕がどれだけ、我慢をして話したか分かるかい?どうやって君を襲わない様にしなきゃいけないか。…心の中で円周率を数え始めるほど悩んだのだよ!?」


そこまで悩む事も無いだろう。


少年が、椅子に座って何かを飲んでいる。

いかにもダルそうだ。


「ああ。君を膝の上に乗せて、***を触りたい。どうしよう、何だかもう押さえられないよ。今すぐ君を捕まえにいっちゃおうかなあ」


金髪の巻き毛碧眼の持ち主は、立って歩けば10人中10人の女性を振り返らせる美貌の持ち主なのに、今はすごく残念な感じ。


そこに、コール音が鳴る。


「…何だい?」

「…少佐、お休みの所を申し訳ありません。指令がお話があるとの事です」

「分かった。…用事を済ませてから行く。…30分で行くと伝えてくれ」

「はい。了解です」


テレビを振り返る。

そこに映っている、亜麻色の髪で毛先が赤く染まっている少年を、食い入るように見つめる。

「向かうのに10分着替えるのに5分。…15分あれば1回は出来るかな」




本日も通常運航中。次→


→知ってる人二人目。




朝露に濡れている、庭先の薔薇を、丁寧に摘む。

すでに何本か摘んでいる薔薇は、全て同じ色だ。


薔薇を摘んでいた女は、顔を上げて、その風景を眺める。


(…起きた時に驚いた顔をしていた。……まずいぐらい可愛かったな)


手元の花を生けるために、部屋へ向かう。


(そうそう、ここに寝かせたのだった。…造った時も綺麗だとは思っていたが、目を覚まして見ると、これがまた)


いつも使っている花瓶を手に持つ。


(あんなに眼差しが違うとは思わなかった。…今では昔の彼とは違うのは分かるが、あの目がまた)


花瓶に差し入れる花の高さを、考える。


(…捕まえて弄るのはいつでもできる。なにせあれはわしの物だからな。…次に来た時には、着せ替えでもしてみようか。…それはいいな。わしもなかなか)


ベッドの脇の小さなテーブルに、花瓶を乗せる。

まだ朝露を乗せた花弁が、僅かに開いたようだ。


(可愛らしい格好もいいが、少し厭らしい格好をさせて、恥ずかしがる顔を眺めるのもいいかもしれないな。…さっそく、店に連絡を)





こちらも通常運航中。次→


→知らない人一人目。



「はああ!?なんだって!?パイアールが商会に入っただと!?」


大きな宇宙船の甲板に、しつらえられた円型の部屋で、長椅子に寝そべっていた男は大声を上げる。


「はあ。そうなんっすよ」


報告に来た部下は、慣れているようで普通の応対をする。


「あいつは、俺様を出し抜いていつも獲物を横取りできるような男なんだぞ?いつ何時でも必ず狙った獲物は逃さないような男なんだぞ?それが商会になんか下る訳がないだろう!?」


…いや、それはお前がさ?

部下は細い眼で自分の親分を見つめる。


「でも、本当らしいっすよ。これらしいんっすけどね?」


写真を男に手渡す。


「こ、これはっ!?」


写真を見た途端固まる。


「こ、こんな子供が、いや、すげえ可愛いが、子供がパイアールの訳が、いや、そうだったらいいかも、いやあ、無いだろう?」

「…まだ、写真あるっすよ」

「そ、そうか」


素直に手を出す。


「いやあ、有り得ねえな。…そうだな。長年の因縁もあるんだ。こいつを探し出せ!!顔を拝んで白黒つけてやらあ!!」

「へい!親分!合点承知の助!」


部下が走り去る。

男は手に持った写真を見る。


「…ええ~?もし本物だったら、この容姿であの中身なんだよなあ?…やばい、俺様のド真ん中じゃねえか」




これでも通常運航中。次→


→知らない人二人目。


彼は写真を眺めた後、天を仰いだ。

そして高々と両手を天に掲げる。


「…神よ。俺の心を理解していただいて、感謝します」


涙ぐみながら大事そうに写真を胸のポケットにしまう。


「…待っていろよパイアール。今度はもう離れないぞ…絶対にだ」




…通常運航、か?次→


→本人。




ハルミナがパイアールの頭に冷却材を張り付けた。

何だか今日は、朝から背中がぞくぞくしてて、自分でも熱が出るのかとは思ったが。熱が出る気配は一向になく。

その代り、背中の悪寒は収まらない。

何だこれ。


「私、頑張りますからね」


ハルミナはそう言って、胸の前で両手をぐっと握りしめた後、台所に入って行った。


いやいや…今日の格好は反則だろ。

下に着ている服が見えないようなフリルのついたエプロンをしていて。

…いわゆる、*エプロンに見えるだろう!?

なあ、青少年の心理を分かっているか?

(うわ、また悪寒が。

…断続的にくるから、やっかいだな)




「…どう、でしょうか、今度は」

「……いや、こ、れは」


<この地は既に魔王に蹂躙をされつくした。歴戦の戦士たちも今では物言わぬ屍となって、地に伏している。…この町も、もうその名を歴史に刻まれることはないだろう>


みたいな物が皿の上に乗っている。

パイアールも何も言えない。何だろうな、これは。

その反応にハルミナが肩を落とす。


「…駄目ですか?」

「…ひと口は、食うから」

パイアールはフォークで刺して、口に入れる。







…やっぱり、意識がとんだ。


「……無理。…パックがあるだろう?それを温めるだけでいいから」

「…うう。分かりました」


すごすごと台所に入るハルミナ。ダストボックスに流される歴戦の戦士のなれの果て。


ボン!!

「きゃあ!?」

物凄い音がした。

パイアールが慌てて台所に駆け込むと。


頭から、なにやらいけない物に見える液体を被ったハルミナが、半泣きでパイアールを見上げた。

(お前は機械だろう!?何で機械音痴なんだよ!?

悪いから言わないけどさ!?)


「…風呂入ってこいや。飯は自分でやるからさ」

「う、す、すみません。役立たずで…」

「そんなことはねえよ。…良いから行って来い」


ハルミナを追い出してから、掃除をして料理を始める。

はあ。

溜め息がつい、パイアールの口から出た。


悪寒もまだしてるし。


ああ、もう。

今日はどうしょうもない日だな?


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