第26話「サタナダンジョン」

「まず、吾輩の目的を話そう。サタナダンジョンはかつて吾輩が挑み、そこで異世界のスキルを手に入れた場所だ。だが、それは不完全な文字化けスキルだったのだ。今はシグノくんやウルラくんのおかげで、100%ではないけど、かなり扱えるようになった。けれども、吾輩はなぜ失敗したのかそれを知りたい。それを知らない限り、真の意味では前に進めない気がするのだ!」


 その話に一番共感したのはやはりウルラだった。


「わかります! そうですよね! なぜ失敗したのか、それを知らないままでは前へは進めません!! 研究の基本です! 研究者ならば当然の欲求です! もちろん。ボクは協力させてもらいますよッ!!」


「ありがとう。さて、もう1つ、キミたちのメリットだが、まずシグノくん。キミは王都を目的としていたね。サタナダンジョンは王都の近くに隠れるようにある。もしかすると旧友にあえるかもしれない。

さらにダンジョン内は強力な魔物が出るから、いいトレーニングになると思うけどね。他にも文字化けスキルについての壁画もある。どれを取っても、キミらにはプラスじゃあないかな。それと――」


 ミトはホルンをジッと見つめる。


「ホルン。キミは半分とはいえ、魔人の血を引いている。もし、シグノくんが完璧に異世界からのスキルを理解できたなら、キミも異世界のスキルを覚えられるのではないかな? そうなれば、いまよりもっとシグノくんの役に立てると思うけど?」


 確かにメリットではあるのだけど、言い方が悪役っぽいのが気になる。

 だけど、ダンジョンの攻略は腕試しも兼ねてやらない手はない!

 皆も同じ考えのようで、レアンにいたってはむしろ断ったら、僕がボコられそうだ。


 あっ! でも1つ問題があった。


「双方メリットがあるし、行くのはOKだよ。でも王都に近いってことは、移動費が……」


 ここ一月はミトが持ってくるダンジョン内に落ちていたと言う武具をウルラのスキルに頼って、ミトのダンジョン―カンビャメント洞窟-の前の露店で、売りさばいて生計を立てていた。

 生活は充分に送れる額だったが、王都へ行くには不十分だった。


「にゃはは! そこは心配ご無用」


 ミトは転移魔法を行い、一瞬消えると、すぐに戻って来た

 手元には金銀財宝が大量に握られていた。


「これは、ダンジョンを攻略した冒険者へのご褒美用の財宝だ。吾輩たち魔人はそこまで人間の金に興味はないが、数多の戦闘でいつの間にか財が増えていて、使い道に困ることが多い。その為に魔人の作るダンジョンは一攫千金の可能性が高いのだよ」


 そして、「好きに使うがいい」と言ってウルラに渡す。


 これがあるなら、初めから出してくれれば、露店で売らなくても良かったのに……。


 僕の考えが読めたのか、


「露店で武具を売ることにも意味はあったのだよ。まず武具の良し悪しを把握する為、そして、ここに根ざして商売すればこれから先も拠点として機能しやすい。また冒険者、商人の話から様々な情報が貰えるなど、有用なことが多いからね」


 なんか、取って付けたような理由の気もするけど、異世界の文字という知識とのギブアンドテイクとはいえ、そもそも貰う立場なんだから、そう文句も言えない。


「あとは、こいつを」


 ミトから手渡されたのは一匹のネズミ。


「そいつは吾輩の目となり口となる、その名も、ミットーマウス! 何かあったときにきっと役に立つはずだよ」


 なぜか分からないがミットーマウスは凄くギリギリな気がする。

 僕が呼ぶときは、ミットと呼ぼう。


 お金の問題も解決し、こうして僕らはサタナダンジョンへ向かう事となった。



 ミトの財宝のおかげで、王都にまで向かう馬車を手配できた。

 その際にアイテム屋で必要なアイテムを揃える。


 馬車は王都の門前で停まる。

 王都へ入るには通行税が掛かる為、普通の馬車は門の前で乗客を降ろすのだ。


 王都へ行く必要がない僕らは王都の門を前にクルリときびすを返し、目的のダンジョンへ向かって歩き出した。


 ミトの事前の細かい説明もあり、僕らは程なくして、サタナダンジョンの入り口を見つけることが出来た。


「地面にいきなり階段があるなんて……」


 確かに王都の近くではあるが、知らなければ見つけるのが困難な程、巧妙に隠されており、ここを見つけることも1つの試練のようだ。


 僕らはお互いにアイコンタクトを行い、ダンジョンへ入って行く。


 ダンジョン内では僕が先頭で進み、すぐ後ろにホルン、ウルラ、殿しんがりをレアンが務める。


 階段を降りきると、そこから先の通路はご丁寧に明かりが灯っている。

 いったいどういう原理かは分からないけど、異世界の蛍光灯のような灯りに見える。


「異世界の力を召喚する場所なだけはあるってことかな」


 僕は独り言を呟き歩みを進めた。


 少し歩くと、三つ又に別れた道が現れる。


「シグノ。どっちに進むか分かるのか?」


 レアンが一番後ろから顔を覗かせ、僕へ訪ねる。


「いや、わからないけど、大丈夫。ちょっと見てて」


 僕は手を上げて、スキルを発動させる。


「スキル。案内標識!!」


 目の前に標識が現れる。

 そこには3つそれぞれ、どこに繋がっているかが書かれている。


「右が儀式場、真ん中が行き止まり。左がトラップって露骨だね」


 僕らは苦笑いを浮かべながら、右の道へ進んだ。

 それからも分かれ道の度に使うと、魔物に一度も出会わず、かなり奥まで来れてしまった。


「なぁ、シグノ」


 最後尾のレアンから声が掛かる。

 正直、そろそろ言われるだろうなと思っていた。

 というか、正しい道でもせめて少しくらい魔物が出るべきだと思うんだよね。


「わかってる。わかってるけどさ。わざわざ魔物に会いに行くってどうなのさ」


「腕試しに来ているのだろう? だから、次の道はMPの温存も兼ねて、スキルを使わずに進むっていうのはどうだ?」


 確かに、MPが多くなったとはいえ、温存するに越したことはないか。

 僕はレアンの案を了承して、次の別れ道に差し掛かる。


 再び三つ又になっている。だけど、先ほどと違うのは、そのうちの1つから剣戟けんげきの音が聞こえる。


 普通なら来られないはずのサタナダンジョンで一体誰が!?

 僕は理論的にあらゆる可能性を考えようとした、その時、


「おっ! 誰かが戦っているようだぞ! そっちだ。左の道だ!! 行くぞシグノっ!」


 レアンは隊列を乱し、最後尾から先頭に踊り出ると、左の道へ駆け出した。


 

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