第22話「復活」
僕はコラナの遺体を背負い、気絶している3人をレアンが抱えた。
本来の体重以上の重さが背中へと掛かる。
重い足取りで辞典部屋から出ようとしたとき、急に耳元で見知らぬ声が囁く。
「にゃはは。重そうだねぇ? 吾輩でよければ手伝おうか?」
「なっ!」
さっきまで、僕ら以外いなかったはずなのに!! いったい誰が!?
バッと振り返ると、そこにはネコ顔の人物が、燕尾服に身を包み、優雅に立っている。
「ま、魔人ッ!! なんでここにッ!」
一見獣人にも見えるかもしれないが、手足が人間のそれと全く同じところから、ネコ顔の魔人と見て取れた。
「なんでと言われてもねぇ、ここは吾輩の部屋だしね」
ネコの魔人は周囲をぐるりと見回す。
「しかし、吾輩が不在中に訪れた者は、全員、帰さないよう申し付けていたのに、どういうことかな?」
魔人は僕らの後ろで丸焦げで、真っ二つになっているネズミの王を見つける。
「にゃにゃっ! セリオが真っ二つになって死んでいる」
まずい。この魔人、あのネズミの王の仲間、いや主人か!?
「キミたちがやったんだよね?」
にこやかに告げるのが逆に恐ろしい。
何が恐ろしいって、今の言葉に、恐ろしさの欠片も感じられず、むしろ安らぎを覚えている自分が恐ろしい。
「キミたちも被害がないわけではないけど、たった1人か。素晴らしいね。でも、吾輩がいればこんなことにはならなかったのに、実に残念だ」
いつの間にか僕の横に立ち、コラナの顔を覗き込む。
そして、すぐに興味を失ったように、その場を離れる。
「ところで、キミたちはどうやってここに来れたんだい? 普通ならダミーのクモの方へ行くはずなんだけど? もしかして、読めたのかな?」
一番読めそうに見えるウルラのすぐ横にいつの間にか現れると、「キミかい?」と優しい声で尋ねる。
ウルラは首を横に振ると、ネコの魔人はすぐに移動すると、今度はホルンの横へ現れる。
今のはしっかりと見えた。何度も気軽に転移魔法を使っているんだ!
いや、呪文を唱えていないから、なんらかのスキルか?
とにかく瞬間移動で動いている!
「ふむ。キミは半魔の娘か。なるほど、なるほど」
さらに、再び、僕の前へ現れる。
「キミかな? 彼女は絶対違いそうだし」
ちらりと魔人はレアンの方を見る。
「で、どうなんだい? 喋らない? 喋りたくないかな? なら仕方ない。実力行使に出させてもらうよ」
ネコの魔人はネズミの王の亡骸の側まで移動すると、魔法を唱えた。
「光のマナよ。MP50を使い、身体を回復させよ」
手をかざすと、ネズミの王は死んでいることを除き、僕らと対峙したときの姿を取り戻す。
さらに、魔人は、
「光のマナよ。MP500使い、蘇生させよ」
光の粒子が舞い降りると、「ヂュゥゥ」とネズミの王は息を吹き返す。
「蘇生魔法ッ!! そんな使える人がいるなんて」
ただでさえ、やっとの思いで倒したのに、そこに魔人も加わったら、僕らに勝ち目はない。
ネコの魔人はまっすぐに僕を指差す。
「さて、どういう状況か理解できたかね? 理解できたのなら、大人しく吾輩の質問に――」
その瞬間、レアンの剣がネコの魔人を襲った。
ザシュン!
腹部に深々と剣が突き刺さる。
「あっけなさ過ぎる!」
レアンは本来なら優勢のはずにも関わらず、その場から飛び退いた。
「にゃ~。せっかくの一張羅なのに、穴があいてしまった。キミは少し大人しくしててくれないかな」
刺されたことよりも服のことを気にし、ダメージがあった
「闇のマナよ。MP30使い、拘束せよ」
影が実体を持ってレアンへと襲い掛かり、身体を押さえつける。
「くっ。これしきぃ!!」
無理矢理、筋肉の力で影を引きちぎると、再び魔人に攻撃を仕掛ける。
「ふむ。キミも興味深い。鍛え上げた筋肉により、レベル関係なく物理攻撃を無効にしているのか。なら、こういうのはどうかな?」
「闇のマナよ。MP40使い、毒を与えよ」
紫の霧がレアンを襲う。
「それはさっき、克服済みだッ!」
レアンはディスクから回復薬を取り出すと口に含んだ。
そして、毒にかかると同時に飲み込む。
「回復薬にもカロリーがあるとは初めて知ったが、有効に使わせてもらう!!」
先の戦いでも、ウルラが回復薬を飲ませてカロリー摂取させたのだろう。
レベルアップさえすれば、全てのステータスが回復する。
それは毒や病も例外ではないんだけど、普通の人間はその状態で魔物を倒せないからレベルアップで回復するなんて方法は非現実的なんだ。レアンのスキルがなければ!
「にゃんと! レベルアップして毒から回復した! どういうスキルかはわからないが、なるほど、セリオでは相性が悪かったね。さて、物理も効かず、毒も回復するとなると、もう、殺すしかないじゃないか」
「光のマナよ。MP50使い、吾が手に剣を!」
ネコの魔人の手に光の剣が現れる。
なんだかわからないけど、あの剣はまずい気がする。
「ホルンっ! レアンを止めるよ。水を出して、溺れさす!! スキル! クラクション!!」
「水流!!」
ホルンから放たれた魔法の水がレアンに炸裂する。
「ガァ、ガボボっ! シグ、ノ! ホ、ルン! 何をっ、ガボッ!」
2分程、水を浴びせかけると、レアンは大人しくなった。というか気絶した。
「ふぅん。やっぱり、キミだね。今のは文字化けスキル特有の異世界の力だ」
ネコの魔人の手から光の剣は消えている。
そして、ネズミの王に寄りかかるように座り、笑みを浮かべる。
「そこの文字化けスキルを持つ者よ。吾輩の話を聞かないか? もし、聞いてくれれば、そこの男? いや女? を生き返らせてやるよ」
さらに、前金だと言い、コラナに回復魔法を掛け、キレイな身体に戻した。
悪魔の甘言のようだけど、僕にはこの魔人の話しを聞く以外の道はないように思えた。
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