第2話「パーティとの別れ」

 教会の中には許可を発行するスペースが特設で作られており、その前には今か今かと時刻を待つ人たちが並ぶ。

 日の光で後光が差す神様の像を横目に、その列の最後尾に並ぶ。


 そして、ついに10時を迎え、先頭から声が発せられた。

 声を発した人物を見ると、修道服に身を包みながらも筋肉の隆起が分かる程マッチョなおっさんだった。

 神職には見えない出で立ちだが、誰もそこには突っ込まず、おっさんの話に耳を傾ける。


「まずは君達が今日という日を迎えたことを祝福させてもらいたい。これから神さまの加護を受けるであろう前途ある君たちにはより多くの神に反する魔物及び魔人の討伐を期待している! 生産系スキルが出た者は街の発展に精を出し、冒険者たちを支えてくれ! また戦闘系スキルを得た者たちには最低2年の間、強制的に討伐に参加することになるが、より多くの敵を倒し、生きてまたこの場に戻ってくることを切に願っている!」


 僕達へ向けた祝福の言葉や儀式のことなど、全員に共通する説明をこなす。


「最後に、前例は限りなく少ないが、Sクラスのスキルが出たら名乗り出ること。教皇猊下よりお言葉がある。またこれまた前例は少ないが、ランク不明のスキルが出た場合も名乗りでるように。ではこれより、洗礼の儀を執り行う。先頭の者、前へ」


 とうとう始まった。僕とレイは思わず口角が釣り上がる。


 いいスキルを授かっていた者からは歓喜の声が響き、そうではなかった者からは悲壮なため息やすすり泣きが聞こえてくる。


 そして、僕の番がまわってきた。

 儀式は銀の器に入った液体で手を洗い、その液体を真ん中に穴が開いた円盤へと掛ける。

 そして儀式を取り持つ教主様が洗礼の言葉を掛ける。


「では、これを。汝に祝福があらんことを」


 僕はディスクと呼ばれる円盤を受け取る。

 先の説明では、このディスクを体のどこでもいいから差し込むと僕の情報が見れるそうだ。そこにはスキルだけでなく、今の僕のステータスを数値化したものまで見れる。

 さらにディスクにはオマケの機能でアイテムを5つ収納する機能がついている。


 さて、僕の能力はっと。

 僕はディスクを頭に差し込んだ。


・シグノ=メーラ

 Lv:1

 HP:105

 MP:36

 パワー:D スピード:C スタミナ:D 器用:C 魔力:C

 適性属性:地・風


 適度に平均的な能力。

 まぁ、ここまではある程度わかっていたから、そこまで落胆はしない。

 最後にスキルだ。


 スキルもA~Eまでランクがあって、一瞬で、どれだけいいスキルかが分かる。Sランクもあるらしいけど、ほとんど御伽噺の世界だ。なにせ今まで1人しかいなかったらしいし。

 さて、僕のスキルは――


 スキル:? ■□▲□ ~■□▲□≠□◇〇5~ MP10


「うそ……だろ……文字、化け……」


 文字化けスキルは、スキルなしよりも下とされているスキルで、先のおっさんの説明にもあったスキルだ。ランクは『?』とされているけど、実質Fランクと言っていい。

 僕はあまりにも悲惨な事実にその場に崩れ落ちた。


 そのとき、会場がワァーッ!! と沸いた。

 何事かとゆっくりとそちらを向くとレイの周りに人だかりが出来ている。


「おいっ! シグノ聞いてくれッ! 俺のスキル、Sランクだ。ヒーローアドバンテージってスキルなんだが、ってシグノ聞いてるか? おーい?」


 は、ははっ。レイが高ランクスキルは当然だけど、まさかSランク、いや、それ自体は喜ばしいことだけど。僕がよりにもよって文字化けスキルだなんて……。


「おっ! シグノ。サキとリルのスキルもBランクだってよ」


 皆高ランクで喜ばしいところだ。僕の所為で皆のお祭りムードを壊してしまうのは、大変申し訳ない。だけど、文字化けスキルを言わない訳にはいかない!


「ごめん。レイ。僕――」


 なんとか笑顔を作って努めて明るく言おうと思ったけど、自分でもわかる程声が震えている。たぶん、顔もだいぶ引きつっているだろう。


「文字化けだった」


『文字化け』その単語を聞いた瞬間、あれだけいたレイを取り巻く人々が一斉に距離を置いた。


「なっ!! いや、でも、それでも、俺はお前と――」


 レイは本当にいいヤツだ。普通なら軽蔑の目で見て、さっさと僕のことを切り捨てるところなのに。まだ、僕とパーティを組もうとしてくれる。


「ダメだレイ。さっきの修道士の言葉、最後のは文字化けスキルを表しているのは誰だってわかるだろ。そして続きは、スキルの発動条件が分かるまでパーティを組むことを禁ずるだ。Sランクのレイはもちろん、サキやリルもいる。文字化けスキルが居ていいわけがない」


「だけど――」


「レイも知っているだろ。文字化けスキルは能力無しよりも劣る味方も巻き込む自滅スキルだ。せめて使用条件がわからなくちゃ、人権すら危うい存在だ」


「ぐっ!」


 レイは歯を食いしばり、血が滲むほど拳を強く握りしめる。


「……わかった」


 レイは静かにそう呟いた。

 そう、それでいいんだ。それがきっとベストな選択だ。


「でもよぉ!! ちゃんと使い方が分かるかもしれないだろ! そうすりゃまた一緒に戦えるッ! 歩む速度は違うし、違うパーティになるかもしれないけど、ボスモンスターとの戦闘ならまた一緒に戦えるかもしれねぇ!!」


 ふっと今度は自然と笑みが浮かぶ。

 

「ははっ。そうだね。そうだよね。この程度で諦めるなんて僕らしくもなかった。僕はこのスキルを解明して、レイに追いつくよ。ま、そのときは別のパーティを組んでなきゃ辿り着けないところまでレイは行っているだろうから、それこそボス戦でしか共闘は出来ないだろうけどね。僕の活躍を見て、パーティに入って欲しいって言うレイを振るくらいになってやるよ」


「ああっ!! その息だぜ!」


 僕らは拳同士をぶつけ合い、再会を約束した。



 サキとリルに事情を説明すると、2人とも複雑な表情を浮かべたが、僕とレイがつとめて明るく振舞った為か、僕がパーティから外れることを納得してくれた。


「皆、本当にごめん。でも、そのうち追いつくからっ! ただ1つ気がかりなのは僕が抜けた後に誰が入るかだね。信用出来て、良いスキルを持っている相手なんてそうそういないだろうけど。まぁ、レイが居れば入りたいヤツはいっぱいいるか」


「ひひっ。話は聞かせてもらったぜ」


 突如僕らの前に現れたのはゴーンだった。

 ゴーンはレイへ自分のディスクを渡すと、ステータスの確認を促した。


「こ、これはランクAのスキルじゃないかッ!!」


「実力は申し分ないだろ。だから、おれを連れて行け」


 レイはいぶかしんでゴーンを見つめる。


「どういうことだ?」


「あ~、察しが悪いな。お前一人ならおれはもしかしたら負けてなかったかもな。つまり、嫌われ者のおれならいつでも切り捨てられるだろ。万一シグノが追いついたら、おれと交換すればいい」


「ッ!? ゴーンなんでそこまで」


「おれは恨みは3倍にして返すが、恩もちゃんと返すんだよ。それだけだ」


 ゴーンは照れているのか、顔をうっすら紅潮させるとそっぽを向いた。


「サキ。リル。俺はこいつを信じてもいいと思う。2人が良ければ、ゴーンを入れた4人でパーティを組もう」


「アタシは完全には賛成できないわ。こいつがレイとシグノにしてきたことを考えたらとても信用できない。けど、シグノと一緒にパーティが組める可能性があるなら……。はぁ、仕方ないけど我慢してやるわ」


「わ、わたしも信じていいと思い、ます」


 2人の同意もあり、ゴーンがレイのパーティに加わった。

 レイは修道士に申告しに言っても温かく迎えられるだろう。その後は教皇猊下から言葉をもらって王族や貴族なんかとも会うのだろう。

 貴族の息子ゴーンもいるし、レイのことは心配することはないだろう。


 さて、あとは、僕か――。

 


 屈強な修道士に文字化けスキルのことを話すと、意外にも、友好的だった。


「そうか……。辛いと思うが、まずは発動条件を見つけるんだ。それまでは残念ながら味方はいないと思った方がいい」


「あ、はい。頑張ります」


 そう言って油断した瞬間。

 ガッと胸ぐらを掴まれた。


「この首輪は文字化けスキル保有者を周囲へ知らしめる為の物だ。手荒な真似をしてすまないと思うが、これを着けようとすると9割の奴は逃げ出すからな」


 修道士のおっさんの手には首輪というよりネックレスに近い大きさの輪が握られている。


「いえ、お気になさらず理論的に考えて、9割も逃げるなら当然の処置ですよね」


 僕は大人しく首輪をされると、修道士のおっさんが掴む手がゆるんだ。


「使い方がもし分かればまた来くるといい。ちゃんと使えると証明されれば、その首輪を外そう」


「わかりました。ついでに外れた人ってどれだけいます?」


「3人だ」


「……3人」


「ま、まぁそう気を落とすな。Sランクより多いぞ。1人だが」


「大丈夫です。僕が4人目になればいいんですもんね」


 なんとか、気丈に振る舞いつつ、修道士のおっさんに別れを告げた。


「格好つけたのはいいけど、マジでどうしよう……」


 思わずため息と共に声に出してしまった。

 未だ受け入れきれず、めまいにも似た感覚に襲われてふらつく。


 ドンッ!


「あっ! すみません!」


 ふらついた瞬間、後ろから来ていた人にぶつかってしまい、とっさに謝る。

 僕がぶつかった相手は、ボロボロのローブを被りった小柄な人物だった。


 ぶつかったことに対し、声を上げることもなく、怯えたように1歩後ずさると、なぜか深々と頭を下げて、走り去った。


「いや、謝るのは僕の方なのに……」


 ずいぶんと謙虚な人がいたものだと、ローブの人物の素性を知らないこの時の僕はそんなことを思っていた。


「とりあえず、アイテムを揃えて、このスキルを試しに行こう」


 このあと、僕は楽観視していたことを後悔すると共に、文字化けスキルの恐ろしさを味わうことになるのだった。

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