使い方次第の訳あり冒険者達!

タカナシ

パーティ追放からのはじめの一歩

第1話「シグノのパーティ」

 朝日が僕の顔にうっすらと差し込む。

 その光りを感じて僕は飛び起きた。


「朝ッ!!」


 待ちに待った今日という日、いつもは時間を告げる仕事につく『ノッカー・ウール』という人たちのノックの音で起きていたのだけど、それよりも幾分いくぶんか早く目を覚ました。


 何度も言うようだけど、本当に今日という日を楽しみにしていたんだ!


 15歳になると僕らは冒険者として外の世界へ旅立つ許可がもらえる。

 もちろん、街に残って農業に精を出してもいいし、職人として職を極めてもいい。

 けれども、男だったら、一度は外の世界を見てみたいと思うものでしょ!!


「でも、その前に……」


 僕はちゃちゃっと身支度を整え、木剣を手にすると、家族にも黙って家を後にした。


 皆がまだ寝静まる中、街の中を疾駆しっくする。

 街外れの舗装もされておらず、未だ自然が残る人気ひとけのない僻地へ辿り着くと、周囲の風景を頼りに、呼び出された場所の目星をつける。


「レイが呼び出されていたのは、だいたいこの辺りかな」


 隠れられそうな手頃な樹を見つけ、その上へと登って潜む。


 これからの行動を理論的に、的確に動く為、状況を一度整理しよう。


 今日の10時、僕らは冒険の許可をもらう儀式を受ける。

 それまでに会場に辿り付く必要がある。

 僕の親友のレイがそんな日に決闘を申し込まれた。しかも、こんな人目のない場所で。

 相手はレイや僕を目の仇にしている、貴族の息子、ゴーンだ。たぶん、正攻法ではこないだろう。

 相手が正々堂々レイと決闘するようなら、僕はこのまま立ち去る。そうでなかった場合は――。


 さらに僕は、相手がおこなってきそうな手段とその対抗策を考える。


 そうこうしている内に、レイがやってきた。

 細身の体躯だが、筋肉はしっかりと付き、未舗装のデコボコ道だというのに体幹にふらつきは一切なく、舗装された道路を歩くかのように悠々と進む。

 まっすぐ前を見つめる顔つきは、男の僕から見てもカッコイイと思うほどだ。

 さらに剣の腕も立つし、正直、全部平均的な僕と、なぜいつまでも親友でいてくれるのか不思議なくらいだ。


 レイが約束の場所へ着くとすぐにゴーンも現れた。

 ゴーンはレイとは対照的に、ぽっちゃりとした体を引きずるように現れる。

 その脇には案の定、屈強な大男がしっかりとついている。


 やはり、ゴーンとの決闘というのはウソだったか。


 レイは大男を見ると眉をひそめた。


「おいッ! 俺の相手はゴーン、お前だと思ったから来たんだ。隣の男はなんだ?」


 レイは当然の質問をぶつける。


「ひひっ。おれは決闘と言っただけで、誰とは言っていないのさ。だから、一度受けたなら仮にスキル持ち相手でも勝負するよなぁ? それとも相手が自分より強そうだとわかったとたん断るのかぁ?」


 ゴーンは下卑た笑みを浮かべる。


「チッ! いいぜ。受けた以上やってやるッ!!」


 レイは木剣を構える。

 素の身体能力なら、レイに勝てる相手はそうそういないだろう。

 けれども、外の世界へ出る冒険証明と共に得られるスキル、それも戦闘系のスキル持ちだと話は違ってくる。

 剣と魔法以外の神さまからもらう力、それがスキルなのだけど、すごいスキルが当たれば、剣も魔法もダメダメだった奴が英雄になったって話があるくらい重大な力だ。


「ひひっ。こいつは身体強化のスキル持ちだ。いくらレイ、お前が強くても、勝てないだろうぜッ!」


「ハッ! 俺はこれから仲間と共に英雄になる男だぜ。こんなところで負けるかよッ!」


「やれっ! レイをぼこぼこにして儀式に出れないようにしてやれ! ひひっ。そうなればお前はスキルなしの無能者になるんだぜぇ!!」


 やっぱり、ゴーンの狙いはそれか。

 スキルは元々僕らに備わっているらしいけど、それを使えるようになるには儀式を受けなくてはならない。そしてその儀式は特別な理由がないかぎり15歳のこの日にしか受けられない。


 レイは僕と共に英雄になる男だ。こんなところでつまづかせない!!


「こんなガキを相手にして勝てば、大金がもらえるだなんてボロイ商売だぜ!」


 大男は棍棒を手に取ると、レイに向かって力任せに振るう。


「はやっ!」


 レイはなんとか木剣で受けるが、


「このパワーはっ! ぐっ!!」


 防御したにも関わらず、レイは木剣の上からブッ飛ばされる。


 ちょうど、いいことに僕が隠れている樹の真下に飛ばされてきた。


「チッ! そんな図体の割りに随分素早いじゃねぇか」


 言葉とは裏腹にレイに焦りの表情が見える。


「強いと言っても所詮子供! これで終りだ。喰らえッ!!」


 大男からの2撃目が振るわれようとした瞬間。


「地のマナよ。僕のMP3消費しての壁を作り出せ!」


 レイと大男の間に砂の壁が競りあがる。


「なっ!? この魔法は、シグノかっ! なんでここにっ!」


 ゴーンは一瞬で僕の存在に気づくと、声を張り上げた。


「理論的に考えて、ゴーン。君がちゃんと決闘するとは思えなかったからね。悪いけど果たし状の中身を見せてもらったよ。書き方から、こうするのは目に見えていたからね。ま、普段の行いが悪かったね」


 僕は悪びれることなく、語りかける。


「こんなの壁ごときッ!」


 大男はそのまま棍棒を振りぬく。


「さて、壁は、その一撃で壊されると思うから、レイ、一緒にぶっ壊せ」


「OK!!」


 レイはすぐさま反応し、壁を反対から叩く。


 ぐらっ!


 もろく出来た砂の壁は大男へと倒れ掛かる。


「ぐっう。ぺっ! これくらいなんてことはっ」


 ダメージはせいぜい口の中に砂が入ったくらいだが、砂に包まれた大男の動きが数秒遅くなる。


「なるほどね」


 すぐに僕の作戦を理解したレイは、大男が鈍くなった一瞬を狙い、木剣を叩き込む。

 顔面を捉えた一撃に、少なくないダメージを受ける。


「もういっちょ!」


 レイは返す刀で、もう一度顔面を捉える。


 バキッ!


 身体強化の恩恵なのか、それとも先の一撃を受けた際に折れていたのか、無防備であるにも関わらず、その強度に耐えかねた木剣が砕け散る。


「レイっ! 受け取れ!」


 僕は自分の木剣を投げ渡す。


「サンキュ!」


 レイは木剣で身体強化なんか関係ない程に滅多打ちする。


「やれやれ、いっちょあがりだ!」


 すっかり気絶し大人しくなった大男を満足げに見つめながら、レイは息を吐いた。


「さてと、あとはゴーン、お前だけだぜ!」


 レイは木剣を突きつけた。


「ひ、ひぃ~」


 木剣を鼻先に突きつけられたゴーンは尻餅をつき、後ずさる。


「お、お前ら、おれを殴って儀式に行かせない気だろッ!? そんなことしたらパパに言いつけてやるッ! そうなったら、お前らは終りだッ!!」


「お前、いっつもそう言うよな」


 レイが呆れたように肩をすくめている間に、僕は樹をよいしょよいしょと降りる。

 僕は降り切ると、レイへ声をかけた。


「レイ。時間に余裕を持って着きたいから、そろそろ行こうよ」


「こいつはこのままでいいのか?」


「理論的に考えよう。確かにゴーンはレイをめようとしたけど、幸いなんとも無かったし、ゴーンが無能力になるより、生産系なり戦闘系なり、なにかしらスキルを得る方が巡り巡って得だと思うんだよね。まぁ、最終的に決めるのは襲われた当人だと思うけど」


 レイの方を見ると、すでに木剣を下げていた。


「お、おれを見逃してくれるのか?」


「そうなるな。ほら立てよ。これで遅刻したら元も子もないぞ」


 レイは手を差し伸べ、ゴーンを立ち上げる。


 僕らは揃って儀式の会場へと向かうべく歩き出した。

 ゴーンは一番後ろでいつまで経っても浮かない表情を浮かべていた。

 それを見かねたのか、レイはため息を1つ吐きながら、歩みを遅め、ゴーンの隣に付く。


「微妙な顔だな。さっきのシグノの説明じゃ納得いっていないって感じだ」


「ッ!?」


「シグノはこれを言われるの嫌がるだろうけど、実は意外とお前の事キライじゃないんだぜ。お前、パパに言いつけるとかよく言うけど実際にそうしたことはないし、いつも俺にする嫌がらせ、さっきの大男含めてだが、それらも全部自分の力でやっているだろ。

 手段を選ばないが、目的に対して全力を尽くすって、まぁ、悪いことじゃねぇよな」


「レイ、シグノ……」


 ゴーンはぎこちなく笑みを作ると、前を向いた。


 さて、そろそろ外へ出る為の儀式の会場。街の中央に位置する教会へと辿り着いた。

 まだ時間には余裕があったが、すでに結構な人が集まっている。

 冒険許可証とスキルが得られる儀式を受けられる場所は、ここエスパダみたいな大都市に限られ、近くの村や町からもこの街に集まってくるため、見知らぬ顔が多くなる。


 僕は周囲の人物を眺めていると、


「あっ! レイ~ッ!! シグノ!」


人垣を掻き分けて2人の少女が僕らの名前を呼びながら現れた。


 一人はこの大衆の中、大声で僕らを呼んだ、サキ。赤髪のショートヘアで快活な印象を周囲に与える。

 もう一人はサキの後ろについて控えめな印象のリルだ。


 二人とも、僕とレイの友達であり、4人でパーティを組もうと話している間柄の仲間だ。


「げっ! なんでゴーンも一緒にいるのよ」


 サキは明らかに嫌悪の表情を浮かべる。


「まぁ、まぁ、ちょうどそこで会ったんだ。別にいいだろ。そんなことより、ほら、行くぞ」


 レイはそう言うとサキの肩に手を回し、そのまま会場へと連れて行く。


 僕は目の前にそびえ立つ教会を見上げる。


「とうとう、この日が!」


 ここで強いスキルに目覚めてレイと共に英雄になるんだ。

 きっと僕らなら大丈夫だろう!


 僕は、僕の物語を始めるべく、一歩を踏み出した。

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