第31話「レイとSランクスキル」

 サラマンダーを退けた僕らは、ようやく炎の中にいるレイたちの姿が見える位置にまで辿り着いた。


「この位置なら、ホルンかウルラの水が届きそうだッ!!」


 僕は二人に目配せして、視線が来るのを待つ。

 しかし、その行為が行われる前にカローレの炎が収まった。


 炎が消え、立ち込める煙が風に流されると、そこにはたった一人、男が背を向けて立っている。

 ゴーンは盾も武器も全てを防御に回し、それでも防げなかった分は自身の身体をもって防いでいたのだ。


 炎が収まったのを確認したからなのか、ゴーンはそのままゆっくりと傾く。

 そして、地面へそのまま倒れようかというすんでのところで、手が差し込まれた。


「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 レイはゴーンを抱えると、こちらにまで響き渡る程の雄叫びを上げる。


 それだけで、僕らにゴーンの重傷具合が分かる。


 雄叫びをあげ、悲しみを背負ったレイは、カローレを睨みつける。

 その瞬間、オーラとでも言うべき、青い光を纏い、髪が逆立つ。さらに一瞬で筋肉量が肥大したかのような錯覚を受けるほど、身体全体に力が漲っているように見える。


 もしかして、スキルの文言の1つにあった、『仲間が危機のとき、能力がさらに上昇する』の効果か!?

 ここまで壮絶なパワーアップをするの!?


 レイは、一躍でドラゴンの鼻っ柱まで跳ぶと、剣を振り下ろした。


 先ほどまでビクともしなかったカローレだが、この一撃に限っては違い、顔を地面へと叩きつけられる。


「ぐぅぅぅうう!! なんだ、このパワーはッ!」


 レイはドラゴンの腹部に潜り込むと、剣を突き立てる。

 剣は根元まで入り、確かなダメージを与える。


「くぅ! クソがぁぁぁ!!」


 カローレは口から炎を吐き出す。


「…………」


 レイの口元が何か動く。たぶん魔法を唱えているのだろう。


 レイが手をかざすと、水の弾がいくつも発射され、炎を相殺そうさいする。


「ぐぬぬっ! なんだその急激なパワーアップはッ! クソッ! クソッ! クソッ!! 我の本気はこんなものではないぞ!!」


 再び周囲の空気が変わり始める。


 しかし、傍目はためにも先ほどの攻撃がレイを襲ったところで、防がれるのは目に見えている。それなのに、その攻撃を行う理由は一体……?


 僕が考えていると、まず、後ろに控えるサキとリルがパタリと倒れる。


「炎は吐かれていないし、攻撃らしい攻撃も受けていなそうなのになんでっ!?」


 レイならばすぐに二人を助けに向かうかと思いきや、レイも顔をしかめ、片膝を着く。


 バサリッ!


 カローレはその炎のような翼を広げ、空へと羽ばたき飛び上がった。

 完全に制空権を手に入れ、有利に立つ。


「ふぅ~、正直焦ったぞ。チクショウ。やはりSランクスキルを侮ったのは間違いだった。最初から我のスキル『火属性魔法最大強化』だけでなく、異世界スキルも使うべきであったな」


 カローレは苦しそうにしながらも、睨みつけることを止めないレイを嘲笑するように見下す。


「もはやここまで跳ぶ力もあるまいし、ましてやここから我を落とすことも不可能。だが! 念には念を入れて、確実に息の根を止めておこう」


 大きな口を開け、炎を吐き出す準備段階に入る。


 一撃で消し去るつもりだ!


 あと、もう少しで僕の声が届くのに。

 そうすれば、合流であそこまで辿り着ける!

 だから、あと少しだけ、持ってくれッ!!


「喰らえッ!! サンライトイエロー・ブレス!!」


 炎が口元で収束し、太陽のようなオレンジ色の炎の球体が生まれる。


 レイの口元には薄笑いが浮かぶ。

 あれは、なにかする顔だッ!!


 レイは全力を振り絞り、カローレの高さまで、跳ぶ。

 周囲には風が渦巻き、レイが跳ぶのを補助する。


「ぬぅ! 風魔法まで使い、ここまで来るかッ!!」


 そして、開いた口を閉じるように、鼻っ柱を叩いた。


「なるほど! 上手い!!」


 確かに、これなら口を閉じさせるだけのパワーで大ダメージが狙える!

 さらにトカゲとドラゴンを一緒にしていいかわからないけど、爬虫類は口を開く力はそこまで強くない。なら、閉じさせるだけならば、強力な一撃でなくても、今の満身創痍まんしんそういのレイでも閉じさせるのは可能だろう!


「クククッ! バカめッ!!」

 

 口を閉じられ、口内で爆発が起きてもおかしくないはずにも関わらず、炎は発射されないどころか、再び口を開き語り始める。


「身体の中から炎を出すなぞ、サラマンダーに近し下等なドラゴンが行う芸当よ! 真に最強のドラゴンにそのような器官は存在せぬ。なぜなら、そのような無駄な体力、器官を使わずとも、それより数倍いや数十倍は強い魔法を使えるのだからなぁ!! さらに我は異世界のスキルもモノにした、真に強き魔王であるぞッ!!」


 先ほどから炎を吐いているにも関わらず、声を発せていたのは、炎自体が魔法だったからかッ!

 なんでそんな簡単なことも見抜けなかったんだ!

 ドラゴンは炎を吐くものという先入観があった。


 後悔しても遅い。

 それに、気づいていたからといってレイには伝えられなかったんだ。

 今は切り替えて、一秒でも早く進むんだ!


 僕は体力を残すことなんか考えることを辞め、エスカレーターを降りるスピードを上げた。


 レイは悔しそうな表情を浮かべながら落ちていく。

 万策尽きた状態のレイたちに、カローレは無慈悲に、最大火力の炎を撃ち放った。

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