第30話「火竜の咆哮」

 僕らはレイたちを探すように周囲を探索する。

 ゴツゴツとした山肌やまはだに足を取られる中、レアンだけはぐいぐいと進んでいく。


「レアン! 少し慎重に行こう。ここがどこかわからないし、分断されただけじゃないかもしれない! ウルラは、どの辺か検討はつく?」


「しゃらくせぇな。しっかし、全然、あのトカゲ見つからねぇ! 山頂まで行けばわかるかなぁ?」


 まだ、ここは3合目くらいなんだけど、ここから山頂っていったらどれだけ歩くんだ。

 それじゃあ、間に合わないかもしれないし、そもそも間に合っても体力が残っているか怪しい。


 僕は不安にかられていると、爆発音が響き渡った。


「山の反対の方かっ!?」


 確かに聞こえた音のありかを辿って僕らは走り出した。


 やはりレアンが一番早く、次いで抱えられているウルラが先行する。



 音のした方へ走ると、山を降りた先、別の山のふもとに小さくレイたちのパーティが見える。

 それと敵対するのは、真っ赤な鱗に炎を彷彿とさせる翼を持つドラゴンだ。


 ドラゴンは軽く息を吸い込むと、咆哮ほうこうと共に炎を吐き出す。


 危ないッ!

 

 助けに行きたいけれども、僕に対して誰も視線を通していない。それに吐き出された炎には対処できない!

 

 しかし、その炎に対し、ゴーンは大盾をディスクから取り出す。

 なんらかのスキルが働いているのか、その大盾はひとりでに宙に浮き、自動的にゴーンの前へ出ると、炎を防ぐ。


 いったいどんなスキルか気になるところだけど、それより先を急ごう!

 レイがいるから大丈夫だと思うけど、僕らが行くまで無事で居てくれよ!!


 レイのパーティはゴーンが防御している間に、サキが弓を構えると矢を射る。

 一回の射出のはずだったが、矢が複数ドラゴンに飛んでいく。

 その矢はドラゴンの羽ばたきで瞬く間に方向を変えて堕ちていく。


 後方に控えるリルは先ほどから祈るように手を組んでおり、全員に対し強化魔法が掛かっているのがわかる。


 ゴーンのスキルはわからないけど、たぶんサキのスキルは、多重射出。リルは魔法対象複数化のようなスキルだと推測できる。


 ドラゴンの鱗は硬く矢くらいならば通らないはずだが、流石に強化された矢では分が悪いのか羽ばたきで落としたのだろう。


 だが、その羽ばたく行動は明確な隙であった。そして、皆の連携で生まれた隙を逃さず、レイが斬りつけに掛かる。


 確実に頭部を捉えた一撃だったのだが。


「ククッ。クククッ! クワァーハッハッハッ!! Sランクスキル持ちの実力がどれほどかと思えばこの程度か!? 我が龍鱗りゅうりんに傷1つつけられぬ程軟弱なんじゃくとは、嬉しい誤算だ!」


 ドラゴンの声は遠く離れた場所にも関わらず、こちらにまで届く。

 レイが何か言ったのか、ドラゴンは再び口を開く。


「そうだ! 我は七曜の火を司る魔王ッ! カローレ=ロッソとは我のことであるッ!!」


 そうだ、確かあのドラゴンはトカゲのとき、魔王と言っていた!

 カローレと名乗る魔王は余裕の表情を見せ、声をあげる。


「だが、こちらもスキルだけでは押し切れないのも事実のようだ」


 その瞬間、こちらまで分かる程、周囲の空気が変わる。


 なんだ? 何かわからないけど、ヤバイ気がする!


「レイ逃げろッ!!」


 僕の声が届かないのは百も承知だが、それでも叫ばずには居られなかった。


 カローレの口から再び炎が吐き出された。

 

「この威力っ! さっきまでの比じゃないッ!!」


 ゴーンの盾が炎を防ぐが、盾自体が溶解していく。そこでレイたちの姿は炎に包まれ見えなくなる。


「急いで行かないと!」


 僕は足に力を込め、走りづらいことなど気にせず、全力で足を上げる。

 この速度じゃあ、埒が明かない!

 何か方法はないか?


 僕は知識を総動員する。


「これなら行けるか? ホルン!!」


 僕のすぐ後ろを走るホルンに声を掛け、僕を見てもらう。


「エスカレーターッ!!」


 この世界に異世界の物が出てくるかは賭けだけど。


 その瞬間、ホルンの前に、自動で動く下り階段が現れる。

 異世界の鉄のような質感はなく、土が動く、地属性の魔法のようである。


「これなら早く行けるはず!!」


 本来なら動く階段に乗っていれば下まで着くのだが、今は急いでいる為、動いているにも関わらず走って降りていく。

 皆も後ろから着いて来ているかと思ったが、ホルンは乗り口のところで、オロオロとしている。

 そして、意を決して、えいっという感じで、エスカレーターに飛び乗る。

 動く階段にバランスを崩しそうになりながらも、なんとか堪え、動きに慣れると、僕同様に走り出した。


 一方レアンの姿は見当たらず、周囲を探ると、僕の真横をエスカレーターを使わず、ウルラを抱えたまま、山肌を僕と同じくらいの速度で降りている。


「その身体能力、いまはマジで羨ましい!」


「そうか、シグノも筋肉の素晴らしさに気づいたか。この戦いが終わったら、一緒に筋トレするぞ!!」


「いや、それは遠慮しておくよ。とにかく先を急ごう!」


 そのとき、不意にレアンの方から声が聞こえた。


「いいや、そいつは無理だぜぇ。我がなんの為に分断させたと思っているんだ? 貴様らは我が眷属けんぞくが相手しよう!!」


 レアンの足元には1匹のトカゲがおり、サタナダンジョン同様、そのトカゲが喋っていた。


「はっ! こんな雑魚にアタシが足止めできるかよ!!」


 その言葉に刺激されたのか、トカゲはその外見が爬虫類特有のねっとりした肌から炎へと変化していく。そして、それはいつの間にか、足元からレアンの眼前に瞬間移動していた。


 パチパチッと炎が弾ける音がする。


「こいつっ! 上等だ!」


 そうだ、このトカゲは僕らを分断する為、転移を行った。きっとそういうスキルを持っているんだ。そして、今、レアンの眼前に飛んだのだ。

 このままでは確実にレアンが攻撃を受ける!


「サラマンダーですね。炎から炎へと移る習性があって、そういったスキルを持っているんですよね。そして、水が弱点です」


 レアンに抱えられていたウルラがディスクを構えながら、敵の説明をする。


「運が悪かったですね」


 ウルラはキレイな顔でニコッと微笑む。同時にディスクから大量の水がサラマンダーを襲った。


 ジュッ! 


 水に飲み込まれ、サラマンダーは消え去った。


「サラマンダーにドラゴンがいる山と言ったら、フィアンマ火山ですよ! きっと!」


「なるほど、ホームへご招待ってことか。有利な地形で闘うのは理に叶ってる」


 ウルラの推測に僕も納得する。


「さぁ、あとは本命の魔王だけですね!」


「ア、アタシの獲物がぁ~」


 心なしかシュンとするレアンと共に、僕らは山を下り、レイたちの元へ急いだ。

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