第32話「合流そして着地」

 カローレから炎の魔法が放たれようとした、その瞬間、レアンが僕に尋ねた。


「なぁ、坂道よりも階段よりも早く、下へ行く方法って分かるか?」


「えっ? こんなときに何を?」


「正解は落ちるだ」


 レアンはボールを投げるように大きく振りかぶった。


「な~ん~で~で~す~か~」


 そして放たれたのは、ボールではなく、先ほどまでレアンに抱えられていたウルラだった。


「非常時だ!」


「そうか! レアンの考えが、わかった!」

 

 僕はレアンの意図を読み取り、声を上げる。


「ウルラ、こっちを見ろッ!!」


 ウルラは空中で必死にこちらを見る。


「良しッ! スキル発動! 合流」


 僕ら全員の前に道路標識が現れる。

 次の瞬間、ウルラの元へ全員が集まる。


「えっ!? シグノさん、どうしてここに? ボクを引き寄せるんじゃないんですか?」


「いいや、この位置がいいんだ。ここがベストなんだ!」


「でも、このままじゃ地面に激突しますよぉ!」


「ん? このくらいの高さなら平気じゃないか?」


 レアン基準で、耐久力を考えられても……。

 僕らなら普通に死ねる高さだ。


 でも!!


「こっちを見ろ。レイ!!」


 この位置なら、僕の声がレイに届く。


 お互いが上空におり、尚且つレアンが投げて近づいた結果だ。


 レイの顔がこちらを向いたのを確認してから、僕は指を着き立てながらスキルを発動した。


「合流」


 地面から伸びる標識を見るよう指を差すと、視線を誘導されたレイは標識を見る。

 そして、僕らも標識を見ると、レイの元へようやく到達する。


「なんで、こっちに来るんですか? レイさんをこちらに引き寄せれば。あっ!」


 なぜ、僕がこちらに来たのかウルラも察したようだ。


「僕は誰も諦めない! 皆無事にここから帰るんだッ!!」


 僕はドラゴンへ向かって睨みつける。


「おい! トカゲ野郎! お前みたいに新たな魔王が出ないよう待ち伏せする小者に魔王なんか勤まらないよ!」


「な、なんだと、キサマッ!!」


 カローレは怒りでプルプルと身体を震わす。


「今の移動を見たか? 空中なら僕らは逃げられる! ほら! さっさとその魔法を放てッ!!」


「ならば、着地時を狙うまでよ! キサマら全員、塵一つ残さず、消し去ってやる!!」


 そろそろ地面も近くなってきた。

 そんな場所までこっちをガン見してくれるおかげで、助かった。


「安全地帯!」


 カローレに道路標識を見せ、あの炎からの安全を確保する。

 さらに、その安全地帯をレアンにも見せる。


「レアン、申し訳ないけど、僕を殴ってくれないかな?」


「あいよ!」


 一切の躊躇なくレアンは僕を殴る。

 安全に着地する為に必要な動作で、躊躇なくやってくれて助かるんだけど、仲間を殴るんだから、もう少し悩んでもいいよね!


 ここに飛ばされたのは、元を辿れば、レアンがウルラを投げるという攻撃をしたから。そして、そのあと僕を殴って加速がついた。それら全てレアンの攻撃と見なされれば、安全地帯でダメージを受けないはずだ。

 あくまで理論的に僕のスキルを考えた場合の仮説で完璧ではない。

 一応責任を取って僕が一番下になるよう身体を入れる。


 これで、最低でもホルンとウルラはなんとか安全だろう。


 レアンはもともと、このスキルから除かれているので、ダメージを覚悟してもらわないといけない。

 レアンなら食べてレベルが上がればなんとかなるという打算があるけれど、それでも犠牲にすることに罪悪感を感じる。


 ドンッ! 


 けたたましい音を立てて、僕らは着地する。


「うん。仮説通り大丈夫だ!」


 僕らはスキルの効果でダメージはないけど、レアンは?


 心配して彼女を見るが、何事もなかったかのようにケロッとしている。


「いや~、流石シグノのスキルだな。ノーダメージで済んだぞ!」


「えっ? いや、たぶん、レアンはダメージ受けるはずなんだけど。あれ?」


 レアンだとスキルの効果でダメージがなかったのか、それとも筋肉が強くてダメージがなかったのか、マジでわからない。

 ま、まぁ、ダメージがなかったなら良しとするか!


「シグノ。まだだ来るぞ。奴の攻撃がッ」


 レイは顔を苦痛で歪めながら、僕の心配をする。


「大丈夫だよ。僕のスキルは、相手にルール通りの事象を与える。今はここが安全地帯になっている。だから」


 炎はまるで僕らを避けるようにして周囲を燃やし尽くす。

 その範囲内にはもちろん、ゴーン、サキ、リルも含まれる。


「今のうちにウルラは皆の回復をお願い」


「はい。わかりました!」


 ウルラは小走りに倒れた皆の下へ向かう。

 そのとき、僕の懐から、モゾモゾと動くものが。

 一匹のネズミ。ミットが顔を出す。


「にゃはは。まさか、サタナダンジョンの中があそこまで繋がりが弱くなるとは予想外だったね。直接の配下セリオならまた違ったのだろうけど。さて、吾輩がしばらく見ないうちに随分、ピンチみたいだね。もともと吾輩の願いだ。吾輩も手伝うとしよう」


 ミットはこちらの返事なんか聞かず、僕のもとをぴょんと去ると、ウルラを追いかけるように走っていく。

 ミトは回復魔法が得意だから、きっとウルラを補助しに行ったのだろう。


 僕はウルラから1つ回復薬を投げてもらい、受け取ると、レイへ渡した。


「…………」


 レイは回復薬を見つめたまま、複雑な表情を浮かべる。


「俺たちじゃあ、勝てなかった。確かにシグノは頭が切れるし、今までもそのおかげで幾度となく助けられてきた。でも、今度ばかりは――」


 レイが全て言い切る前に、ホルンが僕の裾を引っ張って、小首を傾げる。


『いつ? 負けた?』


 唇の動きがそう言っていた。


「ねぇ! 僕もそれは思った!」


「その娘はなんて?」


「レイはまだ戦えるし、皆も死んだ訳じゃない。いったいどの辺が負けたんだって」


 レイは、僕とホルンの顔を見比べるように交互に何度も見た。

 そして、噴き出すように笑った。


「ぷはっ! なんだよ。そのシグノと似た考え! そうだよな。確かに、俺は。俺たちはまだ負けてないっ!!」


 レイは回復薬を一気に飲み込む。


「こっから反撃だ!」


「ああ! 第二ラウンドの開始だね」


 僕、レイ、ホルン、レアンは炎の向こう側に位置するカローレに武器を向けた。


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