第12話「レアン」

 ざわざわっ。がやがやっ! と店内が騒がしくなる。


 僕は耳を澄ませていると、Sランクスキルの話が上がる。


「おっ、お目当ての話がありそうだ」


 僕はもっとしっかり聞きだすべく、エールを1瓶追加で頼み、それをもって話していた冒険者に近づく。


「すみません。今、Sランクって聞こえたんですけど」


 エールを振る舞い、一通り話しを聞くと、僕はホルンが待つ席へ戻った。


「お待たせ。僕が追ってる仲間たちは、今、やっぱり王都にいてそこで修行中らしいね。教皇様や貴族から言葉があるって聞いていたときから予想はしていたけど」


 ホルンはまだ状況が飲み込めないようで、目をパチパチとしばたかせている。


「ここから王都までって馬車を使っても10日間くらいかかるんだよね。徒歩ならさらにもっとだ。レイたちは特例のVIPだから転送魔法を使って一瞬で行ったのだろうけど、転送魔法を使ってもらうのってメチャクチャお金が掛かるんだよね。

つまり、僕が追いつくには、王都まで向かうパーティが必要だ。信頼出来るパーティが。ホルン、君の力がっ!」


 全てを理解したホルンはコクンとゆっくり頷いた。

 そして、コミュニケーションボードを指差す。


『そ・の・あ・と・?』


 その後? つまり僕がレイに追いついたあとのパーティってことかな?

 答えは決まっている。決まってはいるんだけど……。

 僕はなんて伝えようか悩んでから、正直に話すことにした。


「そこまで一緒だったパーティを捨てるなんて出来ない、と、思う。いや、いつもの理論的に考える僕ならきっとレイのパーティに合流したと思うんだけど」


 無意識に一瞬ホルンの目を見てしまった。


「理論や理屈じゃないものもあるからね。でも、実際に会うまでは、やっぱりわからないんだ」


 僕の正直な気持ちを聞いたホルンはまるで母親のような優しい笑みで受け入れてくれた。


『あ・り・が・と・う』


 どういう意味の『ありがとう』なのか、分からないけれど、全てが許された気がして、思わず涙が溢れそうになるのを、目頭を押さえてこらえる。


「ちょっと、目にゴミが入ったみたいだ」



「ふぅ~~」


 大きく深く呼吸して落ち着くと、もう1つの目的を思い出した。

 やはり、酒場といえば最大の目的はこれだ。


「それで、王都に行くためにはしっかりとパーティが必要だ。あと2人。信頼出来る仲間が欲しい! 酒場は色々な理由でメンバーが足りない人も集まるらしいから、ここであと2人探そうと思っているんだ。できれば1人は前衛が出来るような人が理想だね」


 とは言ったものの、つい先日儀式が終わったばかりで、前年からの冒険者は人員補充されているだろうし、僕らの世代も、だいたいがすでにパーティを組んでいるはずだ。少なくともあの教会であぶれていたのは僕とホルンくらいだったと記憶している。だから酒場とはいえ、そんな都合良く欠員がいるパーティなんてないよね。


 そんなことを考えていると、後ろ隣の席から怒声が上がった。


「ふざけんなよッ! お前ッ!! お前なんかクビだ。クビっ! この無駄脳筋のうきん女っ! がはっ!!」


「誰が無駄脳筋女だっ!」


「そういうところだよ! なんで口と同時に手が出るんだっ! その所為で色んな問題起こしやがって!」


 そのやりとりに思わず、背後の席に目を向けると、そこで拳を振りかざしていたのは、さっきホルンを助けてくれたビキニアーマーの女性だった。

 相手の男性は装備から見て冒険者だろうから、さっき言っていた、仲間なのだろう。


「ちゃんと手加減はしたし、お前の口が悪いのがいけないのだろう!」


 まぁ、いまのやり取りだけ聞いていれば女性の方が100%正しい。


「わかった。そこは、まぁ、俺も織り込み済みで仲間にした訳だし、まだいい。だがな! 前衛がスキルを使わないってどういう了見だっ! おかげであいつら2人は病院行きじゃねぇかッ!!」


 男の言葉に、ビキニアーマーの女性は、顔を怒りに歪め、叫んだ。


「ふざけるなっ!! アタシのパーフェクトボディを崩せというのか!? だいたい前衛としての仕事は全うしているだろう! お前らがアタシのことを信用せずに立ち回るのが原因じゃないのか?」


「そんな防御力に疑問が残る装備だからだろ!」


「なっ! お前、この格好でもいいと言ったではないかっ!!」


「そりゃあ、スキルを使うならの話だ! スキルを使わないお前みたいな変態は、どこもパーティになんか入れやしねぇさ!」


「言ったな貴様。アタシの実力さえあれば、秒で新しいパーティを見つけられるからなッ! 見ていろっ!」


「へいへい。せいぜい泣きついてこないことを祈るよ」


 女性は啖呵たんかをきると、赤髪を揺らしながらきびすを返す。


「あっ!」


「おっ!!」


 僕らと目が合った。


「おおっ! お前らは! もしかしてパーティ2人だけか? それならアタシを入れないか? 役には立つと思うぞ。ほら、これで確認してみるといい」


 ビキニアーマーの女性は僕らの前にディスクを差し出す。


 僕は恐る恐るディスクを受け取ると、頭に差した。


・レアン=ムスコロ

 LV:8

 HP:481

 MP:48

 パワー:B スピード:B スタミナ:B 器用:D 魔力:E

 適性属性:なし


 スキル:B カロリーエクスペリエンス~摂取したカロリー分レベルが上がる。

                     消費したカロリー分レベルが下がる~


 レアンの能力を見た感想は、


「めっちゃ強いっ!」


 僕の感想に割り込むように先ほど口論になっていた男性が口を挟む。


「おい! 騙されるんじゃあないぞ! こいつはもう2年目で、このレベルだ。どんだけ経験値消費してるか分かったもんじゃねぇぞ! それにさっきも言ったが、こいつはスキルを使わない。つまり食べないんだよ」


「さっきから、元パーティがうるさくてすまんな。アタシが秒で新パーティを見つけたのが気に喰わないんだろう。ついでにちゃんと筋肉をそこなわない様に食べてはいるぞ。それより消費量が多いというだけだ」


 僕は少し悩んでいると、なぜか知らないはずのダイエットについての知識が流れ込んでくる。


「チートディ。血糖値低下防止。たんぱく質」


 これっていけるんじゃ。

 口角が上がっている自覚はあったけど、レアンに、


「おい。なんか悪どい顔になってるぞ。だが、そういう顔をするってことはOKってことだな」


「うん。よろしく!」


 僕は手を差し出すと堅く握手をした。


「おい。お前、本当にいいのかッ!?」


「はい。大丈夫です」


 僕はハッキリと答えると、男はたじろぎながら、「まじか……」と呟いた。


「アタシは本当に秒で新パーティを見つけた訳だ。まぁ、わざわざ言わなくてもいいんだが、ちゃんと言ってやるのも優しさだからな」


 レアンは満面の笑みを作り、男の肩を叩いた。


「な、なんだ?」


「ハッ! ざまぁ!!」


 その瞬間、ほんの少しだけ、仲間にしたのは早まったかなと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る