第11話「新装備とご飯」

 僕は手持ちの金額を確認しつつ、武器・防具屋に向かう。


 目的は2000ゴールド以内の盾だ。

 文字化けスキル、道路標識のおかげで自分がどう立ち振る舞えば良いかは分かった。

 それだけに、盾の必要性が増してくる。


 このスキルは援護と妨害に特化していて、攻撃力はあまりないだろう。

 それよりも、攻撃はホルンに任せ、僕がホルンを守って戦う方が効率的だ。

 剣で受け切るには限界があるし、僕の身体じゃ盾にもならない。


 正直なところで言えば、剣や鎧も欲しいところだけど……。

 僕はとなりのホルンを見る。


 デフォルメされた魔物の顔がゆさゆさ揺れ、その下ではニコニコと笑顔が生まれている。


 一片の悔いなしッ!!


 そのまま、武器・防具屋へと入ると、壁には高級な品が掛けられ、縁遠い世界になっている。僕らは店の一角に行くと、セール品と書かれた商品を見る。

 僕がいま持っているような錆びた剣や刃こぼれが酷く切れるのかも怪しい剣が樽に押し込まれ、その隣の薄汚れた宝箱には一撃で粉砕してしまいそうな盾や凹凸の激しい鉄の籠手こてなどが乱雑に入れられている。


「う~ん、掘り出し物があればいいんだけど」


 僕が必死に盾を探していると、背後からつんつんとつつかれる。


「ホルン?」


 振り向くと、ホルンはコミュニケーションボードで、


『た・て・?』


 と聞いてきたので、僕は頷いた。


「そうだね。予算は2000ゴールドで探しているんだ」


『さ・が・す』


 ホルンは僕とは違うところで盾を探すようだ。

 

「なかなか良いのがないね。これは良さげだけど、ちょっと高すぎるし……」


 僕が悩みに悩んでいると、裾が引っ張られる。


「ん? 何かいいのがあった?」


 僕が振り向きながら聞くと、ホルンの手には鉄製の丸盾バックラーと僕が持つ物より明らかに錬度の高いハガネの剣が握られていた。


「いやいや、流石に2つで2000ゴールドはないでしょ。盾だけだといくらなのかな」


 僕は丸盾をまじまじと見るが、値札らしきものは見当たらない。


「えっ? もしかして……」


 僕はハガネの剣の方も見ると、そちらも値札は見当たらない。

 値札がない理由は1つしかない。


「ホルン、これ買ったの?」


 コクリとホルンは頷く。


『ぎ・ふ・と』


 ギフト? プレゼントってこと?


「僕に? いいの?」


 どうみても3万ゴールドはくだらない品だけど、嬉しそうにコクンと頷くホルンをみると、悪いからいいよとは言い出せなかった。


「ありがとうっ!! 大切にするよッ!!」


 こうして僕の装備は新たに。村人の服・皮のブーツ・ハガネの剣+・バックラーになった。


 ホルンの装備は、魔物ポンチョ・ブラウス・ショートパンツ・ニーソックス・瘤付き杖。


 現状とれる万全の装備になると、僕は次なる目的地へ向かった。



「ホルンには前にも言ったけど、僕には追いつきたい相手がいるんだ。Sランクスキル持ちだからどこにいるか噂になっていると思うんだよね!」


 という訳で、レイの現状を知る為に僕らは酒場へと向かう。

 冒険者同士の情報なら換金所でも集まるかもしれないけど、あそこは主に魔物やダンジョンや森みたいな素材採取場所についてで冒険者自身の情報を得るには酒場の方が手っ取り早いらしい。

 それにもう1つ目的もある。


 酒場はいままで訪れたこともなかったので、これらの知識は本に依るところ大きい。


 酒場に着くまでの道中、ホルンは不安気な表情で足取りも重い。


 たぶん、これはあれを気にしているんだな!


 ピンっときた僕は詳しい説明は酒場でするとして、不安を取り除くべく、要点だけ述べた。


「ホルン。大丈夫。僕がホルンとパーティを解消することはないから」


 ホルンは理由が分からないからか未だ納得した表情ではないが、足取りは格段に軽くなっていた。


 酒場に入ると中には、まばらにしか冒険者が居らず、噂話を耳に出来る様な状況に無かった。


「流石にくる時間が早すぎたかな。ご飯でも食べながら少し時間を潰そうか」


 考えてみれば、死にそうになってばかりで、食べ物のことを考える余裕すらなかったな。


 文字がまだしっかり読めないホルンの代わりに、僕はスープと円形のパンに様々な具材を乗せたピザと呼ばれるものを2人前、頼んだ。


 料理がほどなくして運ばれてくると、ホルンは真っ赤なスープに拒否反応を示す。

 まぁ、確かに赤っていうと血か辛いものだよね。


 僕は先に一口飲んで、味の説明をする。


「酸味がある赤い野菜の色でこうなっているんだよ。このスープも程よい酸味にじんわりと広がる野菜特有の甘みが効いてて美味しいよ」


 そこまで説明するとおっかなびっくりではあるけれど、スープに口をつける。


 パッと表情が明るくなると一気にガツガツとスプーンを口に運び、あっという間に皿を空にする。


「あっ、あ~、いや、いいんだ。ごめん。僕がちゃんと説明すれば良かったんだけど」


 そう呟いた瞬間、次の料理、ピザが運ばれてきた。

 すでに8等分されたピザにも赤いソースがあり、ホルンはこれも同じ野菜かと尋ねるように視線を寄こす。


「そうだね。同じ野菜だね。これも酸味が効いてて美味しいよ。さらにチーズが塩味を聞かせつつも、全体をマイルドにしてるね。パン生地自体もソースのおかげで硬くなくて食べやすい。焦げもないから苦味もないよ。うん。上手く作られてる!」


 実はピザは僕の好物で、実際に何度か作ろうと頑張ったことがあるんだけど、火力不足でつい長い時間やりすぎて焦がしたり、半生だったりで、あまり上手く出来なかった。ちゃんとした窯さえあればとは思うのだけど。


 思わず2口、3口とかぶり付く僕を見て、ホルンも慌てて1つを口に運ぶ。


「ッッ!!!!」


 あまりの美味しさに興奮したのか、目をまん丸に開き、2口目で全部を頬張った。


「ホルン。最後の端っこは硬いから、こうやってスープにつけて柔らかくすると尚美味しいんだけど……、ほんと、ごめん、先に言っておけばよかったね」


 ホルンはそんなことないと首を横に振るが、僕が食べ辛い。


「僕ので良ければ、スープつける?」


 ホルンの顔はもう後光がさしているんじゃないかと思うほど明るくなった。

 こうして、僕らが充分に食事を楽しみ終わった頃、酒場も冒険者で賑わいを見せてきた。

 そろそろ、噂話の1つでも聞けるんじゃないかと、周囲に気を張り巡らせた。

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