第18話「辞典部屋」
レアンを先頭にどんどんと歩みを進めて行く。
道中に現れる魔物はことごとく切り伏せられ、レアンの強さをただただ見ることしかなかった。
「また分かれ道か」
分かれ道に来るたびに壁には文字化けの文字が書かれていたが、やはりどれもが少しづつ間違っていた。
この分かれ道でも僕が前に出て、文字を読む。
「えっと、『推す』?」
このメンバーならホルンを推すけど、そういうことじゃないよね。
そのホルンは何やら後ろを気にしてキョロキョロとしている。
これは、たぶん、『押す』かな?
その文字が書かれた壁を押してみると、
「…………」
何も起きない。
いや、そんなはずはない!
僕は諦めずに押し続ける。
理論的に考えるんだ。もしここが少し押した程度で何かあるなら、これまでの冒険者がたまたま手をついたとかで見つかっているはずだ。
そういう話は未だに出ていない!
ならばっ! ここは押し続けるっ!!
ズズズッゥ!
数十秒押し続けた結果、壁は音を立てて動き出した。
「う、動いた」
僕は自分の行動が合っていたことを喜ぶと同時に安堵した。
これで何も起きなかったら延々壁を押す変な男になるところだった。
壁が開くと、すぐに下へと続く階段が。
そこはかとなく嫌なプレッシャーを感じ
「階段は降りるときのほうが筋肉を使うのだったな」
少し嬉しそうなレアンを前に毒気が抜かれたように一同の気が緩む。
彼女がいれば多少のことならなんとかなるだろう。
階段を降りるとそこには部屋と呼べそうな大きな空間があった。
「すごいですね! あっ、中を見てくださいよ文字がビッシリ書いてあります! なんて書いてあるんですか?」
ウルラは絶好の研究材料を見つけ、興奮が隠せない。
ここに至るまでも、僕が訳した言葉を全て書き留めている。
僕はウルラに促されるまま、中の文字を見ていく。
「う~ん、何の意味もない文字の羅列なんだけど」
その言葉に、ウルラは首を捻りつつも、ぬかりなく全ての文字を見ていく。
「これって、1つも同じ文字がないですね。もしかしたら、便覧みたいなものですかね?」
そう言われると、『あ』から始まる文字の羅列から始まっていて、便覧というよりは辞典に近いかもしれない。
その旨をウルラに伝えつつ。
「でも、これだけじゃあ意味が書いていないから、正しい使い方は出来ないね」
「文字1つ1つに意味があるんですか!! なるほど、なるほど、ボクらの文字は文字が並んで始めて意味をなす形態だから今までそんな発想は無かったです。先人たちも同じ過ちに陥っていたのですね」
そう言いながら、壁にある文字を、あっという間に紙へ書き込んでいく。
ウルラのスキルに速記を加えてもいいんじゃないかな。
一通りその辞典部屋をウルラが書き写していくと、さらにその先に扉があることに気づく。
明らかな人工物に皆が気を取られていた、その時ッ!
ホルンが急に僕に体当たりしてきた。
そのまま、ホルンが覆いかぶさるような形で僕らは倒れこむと、そのすぐ後にホルンの頭上、先ほどまで僕がいた位置に何か物体が高速で通り過ぎる。
「あらん? バレてたのかしら?」
男性が無理矢理声を高くして出す、不気味な高音な声が部屋に響く。
誰だ? 敵? いや、どんな可能性であれ、理論的に考えると、行う行動は1つ!
僕はすぐに松明を投げ捨てた。
「なかなか、機転が利くわね」
僕が真っ先に狙われたのは、灯りを持っていたからだ。
でも、逆に僕が灯りを持っていなければ、スキルの発動条件、相手が見ていることが満たせない!
僕が次の行動を考えていると、
「ウルラ! 松明をあるだけ出して、周囲を明るくしろっ! あとはアタシがなんとかするッ!!」
レアンの指示に従い、ウルラはディスクから、あるだけの松明に火をつけ、周囲へ放り投げる。
部屋が灯りで満たされると、敵と思しき者の姿が見えてくる。
「……えっと、マジ?」
僕が見た相手の姿は、明らかに筋骨隆々の男なのにも関わらず、扇情的なボンテージに身を包むオカマの3人組みだった。
こんな人物がそうそう居る訳ないよね。
ということは……。
「あっ! ボクをパーティに誘った人たちです!」
「なんだぁ? アタシがボコった2人じゃないか!?」
レアンとウルラが同時に声を上げた。
ですよねー!
オカマの一人が一歩前に出て、レアンを指差す。
「あんた、この前はよくもやってくれたわね! あのときは不意をつかれたから負けたのよ! 今日は妹分のウンギアに加えて、コラナ姉さんもいるのよっ!!」
オカマの一人、長髪が印象的な人物が怒声を上げると、髪が勝手にムチのようにしなり、長さが変幻自在に変わる。そして意思を持つかのようにレアンに襲い掛かった!
「わたしの髪は自由自在ッ!! 逃げられると思わないことねっ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます