第6話「スキルの発動と危険の接近」

 僕らはさっそく昨日の草原へと向かう。

 道中、北門の前を通ると、門兵と目が合う。ホルンと一緒にいるところを確認した門兵は力強く頷く。

 それは、僕にとってか、ホルンにとってかはわからないけど、良かったなと言っているようだった。


 そして、草原。

 今日もホーンラビットが数匹。


 実はさっきホルンのディスクを見たとき、気になることが1つあった。

 そして、その気づきは僕のスキル解明に繋がるかもしれない!


「ホルン、まずはスキルが失敗しても死なないようにレベルを上げようと思う。だからスキルを使わないで戦うからサポートお願い」


 ホルンはコクリと頷くと、こぶのついた杖を構えた。


 僕はホーンラビットの前へ出ると、先手必勝で斬りつけた。

 この前のスピードを加味すると、もしかしたら避けられるかもしれないと思ったけど、クリーンヒットし、その場に倒れた。


「良しッ! いける!」


 攻撃さえ受けなければ、なんとかなりそうだ。


 ホルンは僕の後ろにホーンラビットが回らないように倒してくれている。

 僕ももう1匹ッ!


 今度はじっと見合い、同時に動く。

 ハガネの剣での一撃が当たると思った瞬間、草陰からもう1匹のホーンラビットが飛び出し、僕へと突撃する。


 わき腹にもろに攻撃が入る。


「ぐっ! いってぇ!」


 けれど、そのまま剣を振るい、2匹をまとめて斬る。

 計3匹のホーンラビットを倒したところで、ディスクが光る。


 良し。レベルが上がったみたいだ。


「ホルン。レベル上がったし、一回退こう!」


 僕らはホーンラビットから距離を取って、安全圏へと逃げた。


「ホルン。怪我はない?」


 ホルンはコクリと頷き、逆に僕の体を心配そうに見る。

 

「僕はレベルが上がって回復したから大丈夫。それに予想通りホーンラビットの一撃も大したことなかったよ」


 そう、僕はあらかじめ予想していたのだ。ホルンのステータスを見たときから。

 ホルンは魔法に関しては一流だけど、身体能力は僕と大差なかった。それなのにホルンは勝てて、僕が負けた理由は1つしかない!


「たぶん、僕のスキルはあの槍みたいのを見た相手を強くする能力だと思う」


 スキルの文言もんごんにあわせると、『見た相手に身体強化を与える』ってところかな。

 確かに敵味方問わず強化してたら自滅もするよね。


「ホルンが僕にディスクを見せてくれたから分かったんだ。ありがとう! あとは出し方だけだね」


 希望が見出せた僕は自然と笑みがこぼれる。

 ホルンもなぜか満面の笑みでニコニコとしていて、まるで太陽のように眩しい。


 出し方も実はある程度目処がついている。

 ポイントは視線だ!

 初めて出せたとき、ホーンラビットが僕を見ていた。その状態で僕は戦う意思を持って剣を振り上げた。だからその状況を再現しつつ細かに検証していけば確実な出し方が分かるだろう。


「ちょっと僕を見ててもらっていいかな? たぶんスキル発動には誰かが見てることが必要だと思うんだよね」


 ホルンは頷くと、その大きな瞳で僕を見つめる。

 改めてジッと見られると、なんだか気恥ずかしいものがある。


 いやいや、恥ずかしがっている場合じゃない!


「スキル発動ッ!」


 僕は叫びながら腕を振り上げた。

 その瞬間、再び例の槍のような物が現れる。


「やった。1発で成功したッ!!」


 ホルンは不思議そうに、槍のような物に書かれた図を見つめる。

 僕の予想では、ホルンに力がみなぎるはずなんだけど……。


「どう? 強くなった感じはある?」


 ホルンは大きく首をひねる。ついでに体もひねる程分からないようだ。


「えっ? もしかして、僕は何か間違えた?」


 MPの消費を抑える為、スキルを仕舞おうと、仕舞い方を探す。

 とりあえず逆をやればいいかな。


 手を振り下ろしながら、スキルが消えるよう念じると、考えた通りに槍のような物が消える。


 発動と停止に成功はしたけど、思っていた能力と違うことが引っかかる。

 もしかしたら、僕はものすごい勘違いをしているんじゃ……。


 鼻下に指を当てて考えていると、ホルンが慌てて裾を引っ張る。


「ん? なに?」


 ホルンが指し示す先からは、なぜかホーンラビットが群れでこちらへ向かってくる。


「なんでッ!?」


 とっさに僕はホルンを抱きしめて庇う。


 けれど、拍子抜けというと語弊があるかもしれないけど、ホーンラビットたちは僕らに構うことなく、走り抜けていく。


「へっ? スルー? なんで?」


 いや、落ち着けパニックになるな。こういうとき程、理論的に考えろ!


 動物が集団で動く風景なんて見たこと……。いや、あった! そうだ。あれは羊飼いが羊を柵の中に入れるときだ。犬を使って追い立てていた。羊はちょうど、今のホーンラビットみたいに一心不乱に走って――。


「マズイ! ホルン。逃げるよ!!」


 結論が出た時点で、僕は考えるのをやめ、抱きかかえたホルンの手を取った。そのとき、ホーンラビットが走ってきた先に巨大な影が見え、悪臭が鼻をつく。

 姿がしっかりと見えてくると、思わず僕は叫んだッ!


「あれは、トロールッ! こんな草原に出てくるなんて聞いてないぞッ!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る