英雄への道

第25話「修行と新たな冒険」

 ミトは僕の協力を取り付けると、バァンと扉を開いて、皆の前に出た。


「ニャハハ! この力はまだ制御できないところがある。だから吾輩がこの力を使いこなすまで、キミたちのレベルアップを全面協力しよう! 修行と勉強の始まりだ!」


 この言葉にウルラとレアンは瞳を輝かせた。



 あの日から早一月。

 僕はミトが出した本を解読しながら、戦い方を一から教わり、独自のスタイルを築いていた。

 それは僕に限った話ではなく、全員が一様に強くなった。


「にゃ~、それじゃあ、吾輩の異世界スキルの試運転も兼ねて模擬戦でもやるかい。スキルは『医学』の力しか使わないから安心してかかってくるといいよ」


 僕らも視線を通わせ、戦闘準備を万端にする。


「いいよ! 皆いくよ!!」


 僕はまず、ホルンとレアン、それから自分のディスクを差し込む。

 これでいつでもHP・MPを管理できる。


「レアンッ!!」


「応っ!」


 レアンは剣を構え、ミトへと突っ込む。


「にゃは。以前より遥かに筋肉の質が良くなっている。今ならセリオの爪でも傷一つつかないだろうね。でも」


 ミトはニヤリと笑うと、レアンの攻撃を受け流し、そのまま腕を取ると、関節を逆に決めた。


「くっ!!」


「いくら力があっても、生物には動かせない方向がある」


 完全に身動きが封じられたレアン。

 けれど、これも計算のうちだ。


「ホルンっ!! …………」


 僕はホルンを呼んだあと、口元だけを動かす。

 この一月で、僕はホルンの唇の動きで何を言っているか分かるようになった。ただ驚くことに、ホルンも僕の唇の動きを読めるようになっており、お互い声を発さなくても意思疎通が出来るようになっていた。


 クラクションの標識が出ると、ホルンは叫んだ。


「水の」


 そこまでしか言わずに、ホルンから水の龍が現れる。

 ホルンのスキル、『魔法詠唱省略』は一言さえ言っていればよく、属性はわかってしまうが、どういう形状で襲うかまでは相手には分からないのだ。


 水の龍はレアンを器用に避けて確実にミトを狙う。


「これは、離さないと無理だねぇ」


 ミトはレアンを離すと同時に蹴飛ばし、距離を稼ぐ。

 水の龍を避けたかに思えたが、龍は曲がりくねると、ミトを追う。


「ふむ。これは一筋縄ではいかないかな。光のマナよ。MP10使い、吾輩の動きを助けよ」


 ミトは魔法を使うが、表立って変化は見られない。

 しかし、ミトは信じられない速度で水の龍を避け続け、ホルンへと向かってくる。


「人体は電気信号によって動く。それを魔法でサポートしてやれば。まぁ、でも吾輩もここまで早く動けたのは計算外だね」


 僕が気づいた瞬間にはすでにホルンの目の前にまで迫っていた。


 ホルンに向かって足刀が振られた瞬間、僕はスキルを発動した。


「スキルッ!!」


「にゃは! シグノくんのスキルは見ていなければどうということはないっ!」


 確かに、ミトみたいにスキルの性質がばれている相手には効果が薄いだろう。

 だけど、今、僕が狙っているものは、そうじゃない!


「合流!!」


 道路標識が、ホルン、僕、レアンの元に同時に3つ現れる。

 これが僕が新たに手にした力!

 同じ道路標識なら複数出せるようになった。『道路標識セーフティ』だ。


 ミトの足刀より早く、僕とレアンはホルンの元へ合流する。


「単純な力比べなら、今のアタシは負ける気がしないぜ!!」


 レアンはミトの足を難なく受け止める。

 僕も同時に斬りかかるが、ありえない姿勢でその一撃をかわされる。


「にゃ~。危ない。危ない。関節を外していなければ今頃斬られていたねぇ」

 

 ミトは僕らの成長を喜ぶように目を細める。

 だけど――。


「まだ、僕らの攻撃は終わってないよ!! ウルラッ!!」


 ミトが関節を再び入れようとした際の隙を突き、ウルラがディスクを構えた。


「出てください! 水よっ!!」


 ディスクからは大量の水が溢れ出し、ミトをずぶ濡れにする。

 ウルラのスキルは1種類のものなら延々に収納できる。それならば量も関係ないと考え、試しに水を入れてみたところ、いつまでたっても飲み込み続け、反対に放出するときには恐ろしい威力と量で溢れ出たのだ。


「にゃあ~ん。吾輩、あまり水は好きではないのだが……。でもこれくらいでは吾輩にダメージは与えられないが?」


「いいや。これでいいんだよ!! ホルン!」


 再び内容は口パクで僕とホルンだけに通じるようにして、スキルを発動した。


「氷の」


 部屋中が凍りつき、一気に周囲の気温が下がる。


「にゃにゃ! これはもしかして!」


「そう! 『医学』をある程度解明しているミトはもう分かるよね! 極寒の中、水を浴びた生物の動きがどれほど鈍るかってことを!」


「光のマナよ。MP――」


「させないよ! レアン、ホルン!!」


 レアンは斬りかかり、ホルンは氷の龍を放つ。


「にゃっ!!」


 ミトはなんとか避けるが、レアンはすぐに距離を詰める。


「なんで、この寒さの中、そんな格好で動けるの!!」


「筋肉に不可能はないっ!!」


 まぁ、事実なんだけどレアンが言うと、とんでも理論に聞こえる。

 身体の熱は筋肉で作られるから、筋肉量が多ければ多いほど寒さには強くなるのだ。レアン程のパーフェクトボディなら、これくらいの寒さは問題にもならないだろう。


 逆にネコは身体を温めるのが不得手な為、この戦略は効果的だ。ミトを一般のネコと同じに扱ってもいいかは疑問が残るところではあったけど。


 そして、ついに、レアンの剣がミトを捉えた。


「にゃはぁん! イタタっ! 降参にゃ!!」


 胴体に深く傷が残るが、ミトは気にする素振りも見せず、すぐに回復魔法を掛け万全の状態へ戻る。


「まさか、『医学』を使って負けるとは思わなかったよ。これなら……」


 考え込むミトに僕は手を差し伸べながら告げた。


「でも、ミトがスキル『魔法継続』も使っていたら、完全に負けてたけどね」


 ミトの本来のスキルは『魔法継続』一度自身に唱えた魔法の効果が常に継続するというモノだ。最初にあったときも、転移魔法や回復魔法を事前に自分に掛けており、まるで呪文を唱えずに瞬間移動したり、刺されても平然とし回復していたらしい。

 このスキルの欠点は、発動までに1時間掛かり、半径1キロまでしか効果が及ばないということらしい。


「にゃ。確かに一緒に使えていれば、電気信号の操作+血流操作、視野拡張、聴覚強化etc……が使えたんだけれど、そうしていたらシグノくんは戦略を変えていただろう。それでも吾輩が勝つとは思うが、もしもを言っても仕方ないのだよ。吾輩は自分が課した条件で負けた。それだけだ」


 ミトは僕らをしっかりと見ると、口を開いた。


「キミたちはかなり強くなった。今なら、あの場所へ探索に行っても生きて帰れるはずだ。吾輩の為、キミたち自身の為に、異世界スキル召喚の儀を行うダンジョン、『サタナダンジョン』へ行ってくれないか?」

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