第24話「医学」
ウルラとミトが扉の先に消えてから、1時間が経過した。
気絶している面々はまだ、誰も目を覚まさない。
僕はホルンと
「う、う~ん。ハッ! シグノ! ホルン! あの魔人はッ!?」
目覚めたレアンは開口一番に僕らを心配する。
「レアンっ! 僕らは大丈夫だよ」
僕は少し、距離を取りながら告げる。
「大丈夫だ、シグノ。アタシは冷静だぜ。確かに水をぶっかけられた直後はぶん殴ろうと心に決めていたが、冷静になれば、あのとき、ああされていなければアタシは死んでいただろう」
僕はほっと胸を撫で下ろし、レアンの無事を喜んだ。
倒れているレアンを立てあがらせようと手を差し出す。
「だが、感謝はしても、殴ると心に決めたことを撤回するのは気持ちが悪い」
「えっ?」
次の瞬間、僕の横っ腹に拳が決まる。
「ぐへっ! ちょっ。酷く、ない……」
「ちゃんと手加減したぞ?」
確かに、殴る場所とか、一応左手だったりとか、気を使ってはいるのだろうけど、レアンの力で殴られれば、正直、めちゃくちゃ痛い!
「まぁ、あれだ。お互い無事でなによりだ」
「そ、そうだね。僕はつい今しがた無事じゃなくなったけどね」
脂汗を浮かべながら、よろよろと椅子へ戻る。
心配したホルンが額の汗を拭ってくれる。
「で、これは今、何待ちだ?」
僕はレアンにこれまでの経緯を説明する。
「レアンには魔王討伐の是非を聞いていないんだけど、もし反対なら……」
「いやいや、だいたいの冒険者が魔王討伐を目指しているだろ。普通。まぁ、前のパーティじゃ笑われたけどな。アタシの最初の目的から何1つ変わらないさ」
「それじゃあ!」
「ああ、引き続きよろしく」
そんな会話をしていると、「う、うぅ」と2つの呻き声が聞こえ、オカマの2人が起きたことを悟った。
※
「こ、ここは……」
長髪のオカマ、カペリが周囲を見回しながら、状況を確認する。
そして、レアンの姿を見つけると、軽い叫びのような声を上げる。
「なんで、あんたら、まだいるのよッ! もしかしてわたしたちの体が目当てでっ!」
「そんなことするわけないだろっ!!」
僕が叫んで否定するけど、信じていないようで、胸と股間を手で隠す仕草をする。
「はぁ~。そんなことより、コラナのことを介抱してよ」
深いため息と共に告げると、2人はすぐにコラナの元へ駆け寄る。
「2人を守って死にかけていたんだ」
僕はしっかりと確かに、2人にコラナの生き様を伝える。
そして、コラナが本当に回復しているのかはミトにしか分からない。僕らはただ目を覚ますのを待つことしかできない。最悪の事態も覚悟するように
「アネキ……」
カペリとウンギアの瞳に涙が浮かぶ。
2人の涙がコラナの頬へと落ちる。
「こ、ここは、地獄?」
「ア、アネキィ!!」
コラナは2人の顔を見ると青ざめる。
「あんたら、もしかして死んだの!? それじゃあ、皆、ネズミに負けたの……」
このまま放っておくと、延々と勘違いしそうなので声をかける。
「違うよ。ネズミの王は倒したし、その後いろいろあって、コラナはギリギリこっちに戻ってこれたんだ。誰も死んでないよ」
コラナは周囲の風景が、ネズミの王と戦った部屋だと認識すると、「ふぅ」と安堵の息を吐いた。
「本当にあたしは死ななかったようね。それよりも喜ばしいのは、妹たちが無事で、悲しい顔をさせずに済んだことね」
コラナは肩をすくめて、和やかな笑みを浮かべた。
※
すでに2時間ほど経つが未だにウルラとミトは戻ってこない。
さらに言えば、レアンの元パーティの男も未だに目を覚まさない。
蘇生されたコラナより起きないって、いったいどれだけダメージ受けてるのさ!
僕はレアンをジトーっとした目で見てから、注意を扉へと移す。
そのとき、扉はキィ~っと音を立てて開いた。
「にゃ~、ウルラくん、素晴らしい解釈だよ」
「いえいえ、ミトさんの研究があったからですよ!」
二人は意気投合し、肩を組み合って出てくる。
この二時間の間にいったい何が······。
困惑する僕を他所に、ミトは両手を広げ宣言した。
「にゃはは!! ついに吾輩のスキルが解明された! 祝福しろ! 次期魔王の誕生を! 驚愕しろ! 異世界のスキルに!」
ミトは一拍置いてから、高らかに叫んだ。
「スキル発動! 『医学』」
するとミトの手に一冊の分厚い本が現れた。
「医学とは異世界の治癒術! これさえあれば、吾輩は不老不死すら不可能ではないと考える! 開け本よ! 吾輩に
本を開いたミトは、その瞬間固まり、ヒゲや耳がみるみる垂れ下がる。
そして、とぼとぼと扉の先へ戻ると魔法を唱えた。
「闇のマナよ。MP50使い。シグノを引き寄せろ」
「へっ? 僕? う、うわぁぁぁ!!」
その魔法が発動すると、僕は影に捕らわれ、強制的にミトと扉の先へ向かう事となった。
※
扉の先は当然ながら部屋になっている。
部屋には長机の上や壁に膨大な資料が置かれている。
まさしく研究の為の部屋といった感じだ。
僕が部屋を観察していると、ミトから先ほどの本を手渡される。
それを開くと、ビッシリと文字化けの文字が並ぶ。
その瞬間先ほどのミトの表情の理由を理解した。
「あ~。なるほど。中も延々、解読しないといけないと。僕が解読してもいいですけど、ただやるというのも······」
その言葉を聞くと、ミトは深々と頭を下げ、
「魔王討伐以外もあらゆる面でサポートさせていただきます!」
こうして、これから先の冒険におけるパトロンを僕らは手にいれた。
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