第28話「合流と目的地」

 レイを加え5人で再び先ほどの分かれ道へと戻る。

 左の道は先ほど魔物を倒した通路の為、除外して、今度は真ん中の道へ入っていく。


「どうやら、こっちもハズレみたいだね」


 すぐにその道は行き止まりになっていた。

 最後に右の道を選び、僕らは進んだ。


「ん? あれは?」


 目の前には悪魔を象った動く石像『ガーゴイル』らしき像が道の真ん中に鎮座ちんざしている。


 敵にしてはあからさますぎて、逆に罠を疑う。かといって他に道はないし、一度戻って僕のスキルを使うべきかな?

 慎重に行動しようとする僕とは対照的に、レイとレアンは我先へと飛び出す。


「こりゃあ罠だな」


「ああ、罠だろうな」


「「だから先手必勝!!」」


 もうなんなのキミら、初対面なのに息合いすぎじゃない!?


「ここから――」


 2人から振るわれた拳により、ガーゴイルが破壊される。


 あのガーゴイル、なんか、最後喋ろうとしていなかったか?

 全く聞き取れなかったけど、大丈夫かな?


 ゴゴゴゴゴッ!!


 ガーゴイルの奥の通路から何かが動いたような音がする。

 もしかして、あのガーゴイルを倒さないと先に進めないってことだったのかな?


 真実は分からないが、そう解釈して先を急いだ。


「ところで、ずんずん先に進んでいるけど、皆が先にいるって保障はないんだよね?」


 それとなく僕はレイに聞くと、


「あっ! た、確かにそうだな……。でもあいつらなら自力で最後まで来るだろうし、そこで待っていればいずれ会えるんじゃ」


 レイのスキルがあるから、僕のふとした疑問は杞憂きゆうに終わる。


 ガーゴイルがいた通路を抜けると、そこには男1、女2、計3人の先客がいた。


「おおっ! 皆、良かった! やっぱり先にいたんだな!!」


 レイは先客に向かって話しかける。

 そにはかつてのパーティである、サキとリル、それから……。


「え……? そこのイケメン誰?」


 僕の見知らぬ人物に思わず声を上げる。


「その声、シグノか? 久しぶりだな。その様子じゃあ、もう文字化けスキルを克服したのか? 流石おれのライバルだ!!」


 僕に馴れ馴れしく話しかけてきた男性は、8頭身のスレンダーな体型に甘いマスク。金髪を撫で付けるようにオールバックにしており、ダンディさも兼ね備えている。レイとはまた違ったタイプのカッコイイ男性だ。

 僕にこんな知り合いはいないんだけど、本気で誰だ?


 僕が警戒心バリバリでその男性を見ていると、


「あっ、そうだよな。わかんねぇよな。おれだよ。ゴーンだよ」


 ゴーン? 僕には確かにゴーンっていう貴族の息子の知り合いがいるし、レイのパーティにゴーンが入っているはずなのも知っている。

 でもゴーンはふとっちょで、とてもこんなイケメンではない!

 理論的に考えて、そこから導き出される答えは1つッ!!


「お前、ゴーンの偽者かッ!? ゴーンをどうした食ったのか? 擬態できるスライム系の魔物か? それとも妖狐? いや、似ていなさ過ぎるし、ただの詐欺師かッ!」


「いや、だからおれがゴーンだって!」


「この後に及んで、見苦しいぞっ!」


 僕は剣を構え、ホルンにアイコンタクトを送る。


「いや、待て待て。シグノ。本当にゴーンなんだよ」


 僕の前にレイが割り込む。


「ほ、本当に?」


「信じられないかもしれないが、本当だ。これでも相当キツイ特訓や修羅場を経験してて、自然と身体が引き締まっていったんだ」


「レイがそういうのなら」


 僕は剣を納める。


「やっと信じたか。シグノ、お前少しみない間にバカになったのか? 今だったらおれでも勝てそうだな」


 ヒヒッ! と笑うゴーンを見て、確かにその下卑た笑い方はゴーンだと確信した。


「それで、シグノあの約束だが――」


 ああ、僕が文字化けスキルを使いこなせるようになって、追い付いたら交代するってやつだね。確かにそんな約束はしたけど……。


「その話はこのダンジョンを攻略した後で、ゆっくり話そう」


 僕の提案に、ゴーンも、「そうだな」と了承し、僕らは先へ進むことにした。



 8人の大所帯になったこともあり、より安全に進もうということになった。

 当然、戦いたいというレアンは無視し、僕のスキルで行き先を示す。


 いくつかの別れ道を通ったところで、壁面にビッシリと文字が書かれている通路へ出る。


「この文字は……」


 そこには文字化けスキルと同じ、異世界の文字が描かれていた。


「わぁ!! すごいですね!! ミトさんはこれを見てるんですよね!!」


 ウルラは今にも噛り付きそうなほど壁に張り付くと、文字を一つ一つ記録していく。


「えへへ~! 幸せだなぁ!」


 もう完全に周囲を忘れ、研究に没頭するウルラに、ゴーンはかなり退きながら、


「顔がいいのに、残念過ぎないか? いや、シグノのパーティっちゃパーティっぽいんだけど」


「おい。今失礼なこと言っただろ! 僕はいいけど、ウルラのことをバカにするのは許さないよ。だいたい、この文字を探りに来たのが、僕らの目的なんだから」


 ゴーンに詰め寄って言うと、そこにレイも加勢する。


「ゴーン。ウルラのことは本当にバカにしないほうがいい。Sランクスキルを持っている俺でも、あのプレッシャーには負けたんだ。

本当に好きなものを貶されるのは辛いことだ。お前だってリルをバカにされたらムカつくし辛いだろ」


「あ、ああ、そうだな。すまなかった」


 なんで、今リルの名前が出てくるんだ?

 僕は思わず、リルを見るが、リルは恥ずかしがっているようでありながらも、レイへ強い殺気を送っていて、どういう心境なのか、さっぱりわからない。


「まぁ、よく分からないけど、分かってくれればいいよ。それで、ここからだけど、僕らはここを調査するけど、レイたちは?」


「俺らは魔王を倒すピースが何か分からないし、一通り見て周るから、ここで一旦お別れかな。もし、そっちの文字に何か有益な情報があったら後で教えてくれ」


「了解。報酬はあとで、僕らにメシでも奢ってくれればいいよ」


「金取るのかよ!」


「当然っ! 情報はただじゃないからね」


 僕らは久しぶりに笑いあう。

 別れ際。


「気をつけろよ」


「そっちこそ」


 拳と拳をぶつけ、お互いの無事と武運を祈った。


 レイたち一行を見送ると、ウルラが噛り付いていない壁面を眺めた。

 ここにミトさんが失敗した理由があればいいんだけど……。

 ウルラにばかり任せていないで僕もしっかり見ないとね。

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