新パーティ結成

第9話「文字化けスキル解放とビキニアーマー」


「さて、感動に浸っているところ悪いが」


 門兵さんはトロールの頭を僕らの前へドスンと置く。


「これを持って行けばそれなりの金になるだろう」


「でもこれは門兵さんも」


「オレが倒したことになると、仕事として扱われてタダだからな。お前らが持っていけ。オレは今回の経験値だけで充分だ。レベルも上がったしな」


 門兵さんは手をヒラヒラとさせて別れを背中で告げながら、北門へと戻って行く。


「いや、流石にタダはウソってわかるよ」


 門兵の仕事は確かに魔物の討伐も含まれているけど、強い魔物を倒したときにはプラスでボーナスが出るくらい常識だ。そしてトロールはまごうことなき強い魔物だ。


「格好付けすぎだね」


 ホルンもコクンと頷いて同調する。



 僕らはレベルアップの効果もあり、体力は全回復している。

 装備はボロボロだけど、トロールの頭を持って帰ることはなんなく行える。


「僕らってどれくらいレベル上がったんだろう?」


 ディスクが何回か光っているのは見たけど、どれくらい上がったかを見ている余裕はなかった。


 ディスクを差して確認すると、


「おおっ! レベル11にまで上がってる。ホルンは?」


 ホルンは指を1本と2本立てた。


「12レベルだね! 他がどれくらいかは分からないけどかなりのハイペースなんじゃないかな?」


 ホルンも僕の言葉にコクコクと頷く。


「それじゃ、トロールの報奨金と、それから僕の文字化けスキルの汚名をそそぎに行こう!」


 僕らは北門を門兵さんにお礼を言いながら通り、街の中心にある、あの教会へ1日ぶりに戻って来た。


「むっ。君は確か」


 改めて見ても、修道士に見えない筋肉の隆起っぷりを見せるおっちゃんに、僕は自信満々に伝えた。


「文字化けスキルを解明してきました」


「そうか。では見せてもらおう。ただし、それがウソだった場合――」


 修道士に見合うメイスという打撃武器をきらめかせる。


「脅す意味合いも兼ねているのでね。本当なら何も気にする事はないさ。だが、大概がウソをつきなんとかその首輪を外してもらおうという者達で、野放しにした場合はどうなるか。君はもう分かっているのだろ?」


 そうだ。僕のスキルだって誤って街中で使おうものなら、周囲の人間を巻き込み、危険が襲いかかる。

 今なら当然の処置だと容易に受け入れられる。


 僕はしっかりと頷く。


「じゃあ、修道士さま、僕を見ててください。それから攻撃しようとしてきてください」


「それが発動条件か。いいだろう」


 修道士のおっちゃんは、メイスを軽々と持ち上げ、僕へと振り下ろす。


「スキル発動! 止まれ」


 目の前に道路標識が現れ、修道士の攻撃がピタリと止まる。


「なにっ!? 動けないだと」


 僕はメイスが当たらない位置へと動く。

 3秒後、先ほどまで僕が居た位置にメイスが振り下ろされた。


「ふむ。確かに使いこなせているようだな。いいだろう。これからいくつかの手続きがあるが、その後には首輪を外そう」


「良しッ!!」


 僕は思わずガッツポーズを取った。


 それからスキルの詳細な能力、発動方法。ディスクに載っている文言などを記入し、さらに面談まで受け、審査が行われた。約1時間後ようやく解放された。


「それでは、シグノ=メーラ。君を文字化けスキル解明者として、この首輪を外そう」


 パチンッと音を立てて首輪が外れる。


「それと、これを」


 僕は手渡されたカードに目を落とす。


「この先、身分証としてディスクを見せる場面があるはずだ。その際にそのカードも一緒に見せれば、文字化けスキル保持者としては扱われない。そして我々の見立てで、君のスキルはCランク相当としての扱いを受ける」


 最後に修道士のおっさんは、「君のこれからの活躍を期待している」と言って閉めた。


「ありがとうございます!」


 僕は深々と頭を下げて、お礼を告げた。 


 この後はトロールの報奨金をもらいに行く予定だ。もちろんホルンと一緒でなければ意味がない。

 さて、だいぶ遅くなっちゃったけど、ホルンは大丈夫かな。


 教会から意気揚々いきようようと出ると、広場で待っていたホルンは人波に慣れないのか、キョロキョロとしている。

 僕は急いで声を掛けようとすると、どうやらホルンは人波に慣れず辺りを見回しているのではないようだった。


 ホルンの目の前には赤髪の女性が立っており、ホルンに対し何か言っている。


 キョロキョロしていたのは助けを求めて周囲を見ていたんだっ!!

 そう解釈した僕は、すぐに駆け出し、ホルンの元へと戻る。


「す、すみません。何かありました?」


「何かですって? あるに決まっているじゃないッ!! こんなところで華奢きゃしゃな女の子が一人でふらふらとして、ぶつかって怪我でもしたらどうするのよ! ぶつかった相手がそこの巨漢ファッティだったから怪我しなかったモノのアタシの様な、パーフェクト・ボディの持ち主だったら骨の2、3本は折れていたわよ」


 改めてその女性を見ると、確かに腹筋は割れ、くびれが綺麗に出来ている。上腕筋も綺麗に隆起し、足も四足動物のような引き締まり方を見せる。確かにパーフェクト・ボディと言うだけはある。あるんだけど……。


 なんでビキニアーマーだけの装備なんだ!?


 普通、この装備は、ビキニアーマーに付属するように服や別の鎧などを着ける。けれどこの女性はまるで身体を見せびらかすように、肌をあらわにしていた。


 僕がまじまじと見ていると、頬を膨らませながらホルンが裾を引っ張る。


「あっ、ごめん。そうだよね。ホルンがぶつかった人を確認しないとだね」


 ビキニアーマーの女性が先ほど指し示したところに、ふくよかな男性が横たわっている。


「えっと、そこの人は大丈夫なんですか?」


 見たところ気絶しているようだ。


「ふん。安心しろ、たぶん生きている。だが、女の子にぶつかった挙句、ボロ雑巾が邪魔だと言って殴ろうとしていたから、アタシがぶん殴っておいた。まぁ、アタシの強烈な一撃なら一発ノックアウトだな」


「そんなことが。ありがとうございます。ホルンは声が出せないから僕が代わりにお礼を言わせてください」


「何、気にするな。アタシが巨漢ファッティが嫌いというのもあっただけだ」


 僕はお礼もそこそこに巨漢ファッティの元へ駆けつけ、身体をまさぐるとディスクを取り出す。

 そして、そこに書かれているステータスを読み取る。


「何をしている?」


「僕の仲間を傷つけようとしたのでちょっとお仕置きを」


 僕は巨漢の身体の上に文字を残した。


『私は女の子に手をあげようとして逆にのされた軟弱モノです』


 これでホルンだけでなく、この男は女性に手を上げることはなくなるだろう。

 巨漢の名前はあえて伏せる。これは、もし僕らやビキニアーマーの女性に手を出そうとしたら、名前を公開するぞと脅す用だ。


「ぷっ! お前、なかなか面白いな。今日はいい日だ。人助けも出来たし、面白いものも見れた。それじゃあ、アタシも仲間を待たせているんで、そろそろ行くよ」


 こうして、僕らは謎のビキニアーマーの女性と邂逅かいこうしたのだった。

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