第15話「4人目」

 図書館で、『文字化けスキルと私』(著:コルニクス=イオ)を借りてから図書館を後にした僕らはそのまま酒場へと向かう。

 昨日レアンと会った時間より早いが、早めの夕飯を取る目的もあり、構わず向かう。


 ホルンは昨日のスープが気に入ったのか、『す・う・ぷ』と期待した表情で指し示す。


「了解。それじゃ、あとはパスタにしようか」


 パスタを知らないホルンは小首を傾げ、コミュニケーションボードで『?』を指す。


「パスタっていうのは、小麦粉に水を加えて練った物を焼いて、その上に昨日のピザのソースに色んな具材を入れたものを掛けたものだよ。最近は茹でるのもあるらしいけど、まだまだ焼くほうが主流だね」


 僕が一通りの説明をすると、ホルンは瞳を輝かせた。


 お客が少ない為かすぐに料理は運ばれ、僕らは2日連続で美味しい夕飯を取ることができた。


 満腹になって、レアンが来るのを待っていると、だいたい昨日と同じくらいの時間に酒場のドアが開いた。


「おっ! お二人さんはもう来てたんだな」


 明るく砕けた口調のレアンは小脇に人一人抱えているというのに、全くそれを感じさせない。


「レアン、その人は?」


 僕が尋ねると、あっけらかんと、「ん? 拾った」と言ってのける。


「あの、誰か助けてください」


「えっと、レアン、とりあえず、離してあげようよ。ほら、せっかく椅子もあるし。ねっ!」


 僕の言葉に理解を示したのか、レアンは小脇に抱えた人物を椅子の上に置く。

 その人物は、まだ少年のように幼い顔立ちだが100人中全員が美少年と答える顔に女性のように華奢な身体付き。学者のようなコートを着ているが全く似合っていない。


「はぁ、やっと助かりました」


 少年はテーブルに置かれた水を勝手に一口飲むと、息をついた。


「えっと……」


 僕がその少年に話しかけようと口を開きかけ、名前がわからず口ごもる。


「あっ、すみません。ボクの名前はウルラ。ウルラ=イオっていいます」


 ウルラ=イオ? どこかで聞いたような名前だけど、どこだっけ?

 それよりもこの状況を把握しないとっ!


「レアンは拾ったって言っていたけど、どういうこと?」


「それはですね。ボクがいたパーティに問題がありまして――」


 ウルラの話しを聞くと、ウルラのスキルは戦闘系ではあったが、あまり役に立たない能力で、どこにも入れないと思っていたら、ウルラのことをどうしてもパーティに加えたいという人物が現れた。


「ボクで良ければと思って、しばらくそのパーティと一緒に冒険していたんです。最初は紳士的で、良いパーティだと思ったんですけど……。昨日の夜、急に――」


「そこからはアタシが話そう」


 ウルラの話を引き継いで、レアンが語る。


「アタシはどこかに良い仲間候補はいないかと、裏路地を探していた。そしたら、逃げ惑うウルラの姿と、その後ろから追いかけてくる、ボンテージ姿のオカマが2人。そんなんが、美少年を追いかけてるなんて怪しいだろ? 普通ぶん殴るだろ?」


「それで2人を倒して、ウルラを拾って来たと」


 だいたいの話は分かった。

 けれど、1つだけ今の話で気になったところが。


「レアンって、筋骨隆々きんこつりゅうりゅうなのが好きだと思ったんだけど、ウルラのこと美少年って思うんだ?」


「当然だ! アタシは美しいものが大好きだ。筋肉も美しいと思うが、それと同時にシンメトリーの整った顔立ちもキレイだと思う。自分で言うのもなんだが、アタシの顔もそこまで悪くはないと思う。むしろ普通ならギリギリ美少女の部類に入るだろう。だが、絶世の美女とまではいかないからな。だから、もう1つの美しいもの、つまり筋肉を鍛えた。筋肉は素晴らしいぞ! 付き方に差はあれど、鍛えれば誰でも美しい肉体を手に入れることが出来るッ!」


 そこからレアンの筋肉談義がしばらく続き、30分もした頃、いい加減に本題に移りたいと思って、強引に話しに割って入る。


「ちょ、ちょっとレアン。筋肉の話は後でしっかり聞くけど、今はウルラを優先させてもらってもいいかな?」


「ん? ああ、そうだな。シグノも筋肉には詳しそうだったし、その顔ならこの前の情報の元を突き止めてきたのだろう?」


 僕は不敵に微笑む。


「良しッ! ならば、今はウルラだな」


 僕らは一斉にウルラに視線を移す。


「で、レアンに半ば無理矢理ここに連れてこられたみたいだけど、もしウルラが良ければ僕らのパーティに入らない? とは言っても、このパーティはだいぶ訳アリだから、まずはその訳を話してからになるんだけどね」


「わ、わかりました。でも、ボクに選ぶ権利はあるんですかね?」


 ウルラは神妙に頷いた。


「それはこれを見てから決めて」


 僕はディスクをウルラに渡す。

 それを指したウルラは、予想外の声を上げた。


「こ、これは。やった!! 見つけたッ!!」


 先ほどまで敬語を崩すことが無かったウルラが感情的に声を出した。けど、それよりもその内容の方が気になった。


「えっと、文字化けスキルを喜ばれたのは初なんだけど。どういうこと?」


 ウルラは取り乱した自分を恥じて、顔を赤面させながら、居住まいを正した。


「すみません。実はボクは学者を目指していまして、本当ならスキルが生産系なら引きこもって研究したかったくらいなんですけど……。それで、ボクの研究というのは文字化けスキルの解明なのです。

これは両親の代から続く研究であり、ボクの悲願なんですッ!!」


 両親という言葉を聞いて、僕は思い出した。どこでウルラの名前を聞いたのかをッ!!


「もしかして、ウルラの両親のって、小説家のコルニクス=イオ?」


「あっ、母をご存知なんですね。嬉しいです。コルニクスは父の名前なのですが、母も文字化けスキルだったので、世間に作品を出すには父の名前で出すしかなかったのです」


 確か、解明者になれていなかったはずだから、世間からの風当たりは厳しかったはずだ。


「ですから、文字化けスキルの解明者に出会えたのはボクからすれば僥倖ぎょうこうなのです! 是非、ボクをこのパーティに入れてください!」


「えっと、ちょっと待って、他にもホルンが……」


「文字化けスキル解明者と同じパーティになれるなら他がどうでも構いません!!」


 グイッとテーブルに乗り出し、興奮気味に答えるウルラに負けて、ホルンのことは伝えられないまま、ウルラがパーティとなった。

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