第16話「ウルラ」

「あっ、すみません。ボクばかり夢中になってしまって。ところで、実はボクも秘密がありまして」


 そういうとウルラはディスクを差し出す。

 僕はその情報を読み取る。


・ウルラ=イオ

 LV:5

 HP:150

 MP:52

 パワー:D スピード:D スタミナ:D 器用:B 魔力:C

 適性属性:水・光


 スキル:C 収納術~ディスクにしまえるアイテムが6▲になる~


「こ、これって。一文字だけ文字化け!?」


 思わず声を出して、ウルラのスキルを喋ってしまう。


「そうなんです。文字化けスキルは遺伝するのかどうかわかりませんが、ボクは一文字だけ読めなくなっていました。けれど前後の文脈から、ディスクにしまえるアイテムが6個になるということが分かるので、文字化けスキルとしては扱われませんでした。まぁ、アイテムが1つ増えるだけのスキルでCランクなのは腑に落ちないのですが……」


 ウルラはこう言うけど、文字化け部分が読める僕からすると、これは充分にCランクのスキルだ!


「ウルラ、落ち着いて聞いてね。今、僕が読んだ能力は6個じゃなくて、6種なんだ。どういうことか分かる?」


 ウルラは上を向いて少し考える。


「6種ということは、もしかして同じアイテムなら無限に収納できるって事ですか。それは試してみる価値があり……。え? 今、文字化けを読んだって言いました? ど、ど、どうやって!? 今までの解明者はトライ&エラーで自分の能力を解明しています!! 読める人なんて、今までの歴史で見ても誰も居ない筈です!! なんていう逸材ッ!! 人の文字化けも読めるなら、これから文字化けスキルで自滅するパーティが居なくなりますよっ!! シグノさん。ボクと一緒に学者やりませんか?」


 ウルラの美麗な顔が僕の目と鼻の先にまで迫る。

 男とはいえ、ここまでキレイな顔つきだと、思わずドギマギする。


「僕には夢があるんだ。親友のレイ、いや、今はこのパーティと共に英雄になるって夢が。これはキミのお母さんが僕に見せてくれた夢だ!」


 ウルラは僕の言葉に驚くほど素直に従った。


「それじゃ、仕方ないですね。では、冒険しながら、なぜ文字化けスキルというものがこの世界にあるのかを探求しましょう! そうすればシグノさんの目的もボクの目的も果たせます! あとはレアンさんとそちらのホルンさん次第ですが……」


 ホルンはCボードで、『し・ぐ・の・と』と指差す。

 僕と? 僕と一緒についてきてくれるってこと?

 思わず、口から、「ありがとう」と感謝の言葉が漏れる。


「アタシはシグノの筋肉講義も気になるし、身体を鍛えるには実戦が一番だからな。冒険に出て、結果身体が鍛えられれば構わんぞ」


 二人の答えを聞いて、ウルラはパァっと表情が明るくなる。

 そんな笑顔を見せられたら、女性ならイチコロになるんじゃ?

 事実、酒場のウェイトレスは


 ホルンを伺うように見ると、いつも通りの表情で、僕の視線に気づくと、こちらに微笑みかける。

 その微笑の方が、ウルラの笑顔より何倍も可愛く、動悸が早くなるのを感じる。


「それじゃあ、よろしくお願いします。それで、差し当たっての目的としまして、このダンジョンの攻略なんてどうでしょう?」


 ウルラは懐から1枚の紙を取り出す。

 そこにはダンジョンの情報が書かれており、冒険者ならば、換金所の掲示板で手に入れることができるものだ。


「ほぉ! ダンジョンの攻略だな! ちょうどアタシもその案を出していたところだ! やはり美しいもの同士、意見が合うなッ!!」


 レアンはちょうど、自分が言っていた案と同じモノが出たので、上機嫌にウルラの話しを聞く。


「このダンジョンは中級冒険者用くらいなのですが、ボスらしき魔物は何度も討伐されていますが、住み心地がいいのか、頻繁にボス魔物が現れます。なので基本的には空振りする確率が低いダンジョンなのですが、ボクが目をつけたのはそこではなく、ここのダンジョンを訪れた冒険者たちの噂話です」


 ウルラが言うには、なんでも、ここのダンジョンには壁に謎の文字のような図形があり、それが何を意味しているのか、未だに分かっていない。

 ウルラはせっかく冒険にでなくてはならないのならば、それを調べたいと言う。


「確かに、もし、これが文字化けスキルと同じ文字だったら、僕が読めるかもしれない」


「はい! そして、明確にどの文字がどういう意味に対応しているかが分かれば、翻訳することが可能になります!」


 もし、運が良ければ隠し部屋に財宝などが眠っているかもしれない! そうなれば王都まで辿り着ける。レイに追いつけるかもしれない!


 こうして僕らの次の目的が決まった。

 

 この大都市からほど近いところに、洞窟がある。そこが今回の目的の中級ダンジョン。

 ボスの魔物が入れ替わることから、と呼ばれている。


 そうと決まったら、準備と、そして、レアンのスキルを最大限に使う為の説明をしないとね。幸い、異世界の知識だって言っても、ウルラが後押ししてくれるだろう!

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