第18話 プチ家出騒動 1

 事務所、自宅、駐車場に毎月お金が掛かるのに夫はなかなか仕事が増えず家事ばかりしていました。


 そんな時に夫は幼馴染みから測量の手伝いを頼まれて働くことになりました。


 やっと事務所にしていたマンションを解約してもらいました。車も中古軽自動車に買い替えました。


 夫の両親が中古の安いマンションだけど買ってくれて、家賃も掛からなくなり生活も落ち着いて、2人目の子どもも生まれて幸せな時期を送っていました。


 私は夫が測量のアルバイトの日は、お肉たっぷりのお弁当を作りました。クタクタに疲れて帰ってから製図の仕事を遅くまですることもありました。


 この時期の夫は本当に良く頑張っていました。測量が夜勤の日に朝帰ってから製図の仕事をすることもあり心から尊敬出来ました。


 そして、この頃は家族でお金の掛からないキャンプに嫌々ながらでも毎年行ってくれました。


 子どもたちには、なんでもパパを最優先して見せ、パパが働いてくれているから生活出来ることを尊敬を込めて言い聞かせました。

 

 私はパートを辞めて家事と子育て、ピアノの先生をして家族で幸せに暮らしていました。


 そんな時、夫が

「もう無理、身体がしんどいから測量は辞める。」と言いました。


 それなら他の仕事をしてくれたらいいかと思い、私は特に何も言いませんでした。


 そこから、夫は製図の仕事しかしなくなり生活費が足らなくなりました。


「お前が働いたらいいんじゃない?」

と言い時々入る製図をしながら節約に取り組むようになりました。


 私がパート代わりに小学校の有償ボランティアに行き始めると夫は寝転んでテレビ三昧でした。

 茶碗洗いと掃除機かけは時々してくれましたが、節約でボロボロの作業着を着て週に2、3回行くパチンコと週一で友人と安い居酒屋へ飲み会に行くその姿はまるで浮浪者のようでした。


 それでも私は文句は言いませんでした。言えなかったという方が正しいかもしれません。


 真正面から言い合いになれば男性の大きな声でビビリ泣いてしまいます。


 自分ばかり忙しくて納得いかない時は、大きな音を立てて雑に家事をして子どもに当たり不機嫌を表しました。

すると、気を使ってか少し手伝うのです。


 そんな時、長女が県内一の公立進学高校に受かりました。私はテンションが上がり入学式には夫婦で参加したいと嫌がる夫を説得しました。

 私にとって夫婦で学校行事に参加することは憧れでしたし、良い家庭の証しのように感じていました。


 入学式当日、流石に進学校だけあって夫婦揃って参加しているご家庭がほとんどで父兄で溢れていました。


 久しぶりに夫は背広を着て、夫婦での晴れ舞台に興奮しました。

 入学式では、校歌の楽譜付きの歌詞も配られていて、初めて聴くその校歌を保護者も大きな声で歌う人が多く、さすがハイレベルな高校だと驚きました。

 もちろん、楽譜の読める私も大きな声で歌いましたが、その横で周りに合わせ声を出して歌う夫を誇らしく思いました。


 そんな嬉しい入学式でしたが、私は頭痛がし始めました。

 高校は歩いて30分ほどの場所にあり、私と娘は歩いて行きましたが夫は禁止されているのに自転車で行き、高校の近くにあるスーパーに駐輪していました。


 頭痛がすると夫に伝えて、でも帰ってお昼ご飯を簡単に作り茶碗を洗っていると夫は掃除機をかけ始めました。


 私が午後3時からピアノのレッスンがあるのを伝えていて知っていたからです。

えらく気がきくなぁと有り難く思いました。 

 もう午後2時でしたが、私は晩ご飯の買い物に行きました。

 

 そして帰って来たら夫は居ませんでした。


 パチンコです。

 居ない時はパチンコに行き、そのまま友達を誘って居酒屋へ行くのです。 

お金は無いはずですが。


 午後6時半にピアノのレッスンが終わり、頭痛が酷かったのですが食事の支度をしていると夫から

「今日はご飯いりません。」とメールが入りました。

 私は軽く食べて頭痛薬を飲んでから

「死にたい。」と返信しました。


 子どもたちには、

「ママは出掛けて来るね。」と伝えて家をでました。


 夫に頭痛がすると伝えていたのに私を労わらないことに腹が立ちました。

私だけ忙しいことに腹が立ちました。

晩ご飯の支度を手伝わないことに腹が立ちました。

お金がなくて外食も出来ず、お弁当を買うのも惜しく、我慢して子どもたちの食事の支度をしているのに夫は飲み代を使うのです。

自分が可哀想過ぎて情けなくなりました。

娘の入学式の感想や娘の気持ちを聞きながら家族で食事したかったのです。


 仕返しをしなければ気がすまないので家出をしてみました。

           つづく

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る