第7話 私のクズぶり 1
付き合い始めて一ヶ月経った頃に、夫は
「結婚しようか?」といきなり言いました。
「へ?」私は24才でしたから、結婚願望はあってもずっと先のことだと思っていたし、付き合って一ヶ月でプロポーズされるほどに夫から興味を持たれていると感じたことはありませんでしたので、驚きました。
「結婚したらずっと一緒にいられるよ。」という夫に
「いや、知り会ってまだ一ヶ月しか経ってないし、私は30才くらいで結婚したいと思っているんだけど。」と返すと、「じゃあ別れる。」と言いました。
「なぜ、結婚がしたいの?」と聞くと
「親が結婚しろとうるさいから。」
「私が好きだから結婚したいというなら、私がまだ結婚したくないなら別れるというのはおかしくない?」
「好きだけど、結婚するために次を見つけないといけないから別れる。」
「その程度の好きなら別れた方がいいね。」
「えっ別れるの無理。俺のこと好きじゃないの?」
みたいな話をグルグルと3回くらいしていると、
フッと『親から離れるチャンスじゃないか』とひらめいたのです。
でも、ちょうどその時期にとあるホテルの専務取締役をしている38才の独身男性M氏から「仕事の話がある」と食事に誘われていました。仕事というのはその男性が経営に関与しているキャバレーのピアニストです。
別のホテルのフランス料理のお店でも週3日ピアニストをしていたのですが、交代でするもう一人の女性ピアニストがキャバレーでピアニストもしていたので、M氏に私のことをA氏の娘だと教えたのです。(それを知ったのはだいぶ後でした)
私に会いたいと女性ピアニストを通じて近付いてきました。日給一万円出すからキャバレーでピアノを弾いてくれないか、と言われ引き受けました。
その後、食事に誘われることがありましたが好意を持たれているのがわかっていたのでお断りしていました。
ところが、「仕事の話がある。」と言われて「忙しくて食事を取る時間にしか会えないので食事に付き合って欲しい。」と言われ仕方なく食事に付き合いました。
このM氏も、ものすごくイケメンでした。
スタイルも良く品の良い身だしなみで、頭の良さそうな人でした。一つだけ私を躊躇させることがありました。
M氏は身長が158cmしかなかったのです。私は164cmあるので私より小さい人でした。M氏は細身で身体のバランスが良く、M氏だけを見ていると彼の小ささはわからないのですが、自分と並んだ時のバランスの悪さが気になってしまいました。当時、バニーガールをしていた時の癖で私は12cmのハイヒールを履いていたのもあるでしょう。
M氏も結婚をしたがっていました。両親がすでにいないので気が楽であるとか、妻には自由で美しくあって欲しいので束縛したくないとか、今思うと惜しいことです。
食事の後、30分だけでいいからとM氏の経営しているバーに連れて行かれ、椅子を引いてもらい座ると洒落たお酒のわからない私にお勧めのカクテルを注文してくれました。帰り際に
「今日は、ありがとう。早く帰らなきゃいけないのは彼が待っているから?」と問われ、
「そうなんです。ごめんなさい。」と答えると
「いや、君と食事ができてとても嬉しかったよ。仕事の話だと言って悪かったね。彼によろしく。」だって。
もう~当時の私のばか~!
アパートに帰ると夫が待っていました。
なんだかホッとしたのを覚えています。素の自分でいられる感じでしょうか。
両親から離れることを目的に夫との結婚を決めました。
それから一週間後、夫はジャニーズ系のクルクルふわふわした髪の毛を角刈りにしてアパートにやってきました。
えっ?どういうこと。いや、確かに顔は悪くないけどその髪型じゃあ結婚できない…。したくない…。
本気で結婚をやめたくなりました。
私が結婚したかったのは、ジャニーズ系の…。
もう、当時の自分のクズっぷりもハンパないです。
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