第22話 子は鎹(かすがい)2
夫は急に立ったまま泣き始めました。
毎晩かなりの量のお酒を飲みますので酔っていたとは思いますが泣くとは思いませんでした。
声を出して泣く夫を初めて見ました。
とりあえず、ダイニングテーブルの椅子に座るように言い座らせました。
「普通に受け答えしただけなのに怒鳴られたから怒鳴り返したけれど、今言ったことは本当だからね。お情けて結婚してあげたんだから。
それからいつも大きな声で私に文句を言うのは私から見たら怒鳴られたのと同じだからね。
子どもたちに喧嘩をしているところを見せるのは良くないから酔ってない時に話し合いをしたいんだけど。
悪いけどお酒飲んでいる人と話し合いはしたくないから。」と言ってその日は寝室に行きました。
というようなことがありました。
次の日、長女が一人旅に行くのを送って行って帰って来て次女が寝てから夜の話し合いで「離婚」の言葉がでかかったところで、まさかの娘からの電話。
「ママ‥福岡に向かうバスが来なかったの‥」
泣きながら電話してきました。
「今、何処なの?」
「バスセンター‥」
「すぐに迎えに行くね。バスセンターの北口に立ってて。」
「うん‥」
すぐに夫に電話の内容を話して夫婦で娘を迎えに行きました。さすがに夫は何も言わなくてもついて来ました。
迎えに行くと娘は雨の中、傘もささずに濡れて立っていました。
夫は車の中で
「無理だと思ってた。」と一言。
こういう言葉を言う夫も嫌でなりません。
子どもを成長させたくて子育てをしている私をなんだと思っているのでしょうか。
娘に詳しく聞いたところ、いくら待っても福岡行きのバスが来なかったとのこと。本当は前日に見に行った時の確認不足で乗り場を間違えていました。
帰って娘にお風呂に入るように言いました。
娘がお風呂に入っている間に夫がまた言います。
「もう二度と行かすべきじゃないな。発達障害があるのに無理に決まってる。可哀想に。傷ついた娘を見るのは心が痛む。」
ところがお風呂から上がった娘は、すぐに明日の新幹線の時間表をパソコンで見始めました。
「悔しいから明日朝1番で福岡に行ってくる。
いいでしょう?旅館も予約しているし。このままじゃ自分がダメになる。行かせて!」
と言うじゃありませんか。
私は止めることは出来ませんでした。この子からこんな前向きな気持ちを聞いたことがなかったのです。
夫も驚いていました。
大人しく座って絵ばかり描いているイメージの長女が自分から旅行を計画して失敗して1人で何とか立ち直ろうとしている姿は親として嬉しいことでした。
夫も行っていいと言い始め、娘はこの一人旅を成功させました。(デジカメが無くなったとか買ったお土産が無くなったとか色々と電話がありましたけどね。財布だけは体から離さないように言ってありました。)
娘のこの騒動で、離婚の話はしないままになりました。
離婚の言葉を出す寸前、
絶妙なタイミングで娘が泣きながら電話してきたことは今でも神がかり的な何かを感じてしまう出来事でした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます