第5話 結婚相手の選び方

 スナックでお互い酔っ払って出会って、そこでデートの約束をし、動物園で初デートで手を繋ぎ、その日の午後9時頃、とある公園でキス。


 下手くそ過ぎるキス…。


 胸を触られてキス…。


 ガサッ!


 後ろを振り返ると、おじさんが木の影から覗いていました。

 「ホテル行く?」と聞いてみたら、なんと

「今日はやめておこう。」と言ったのです。


 私を送ってくれる車中で、夫は黙っていました。

 私は、もしかしたらフラれるかもしれないと不安になりました。


 デートの最中、夫の子ども時代、学生時代、社会人になってから、家族のこと、子どもが好きか、等など質問攻めに合わせたのが嫌だったのかもしれないと思いました。


 結婚するなら相手をよく知っておかねばと思い、いろいろと聞いてしまったのですが、結論としては「結婚は無理」でした。


 地方の美大に入学して、一ヶ月で大学に行かなくなり4年間遊んで暮らしたそうです。その間に真面目に付き合った彼女を妊娠させて、親が100万円持って相手の親に謝りに行ったとか、大学4年目で卒業できないことが親にばれてすぐに就職して一ヶ月で行方不明騒ぎを起こしたとか、ろくな話はありませんでした。


 話していて、それはこれから付き合う私に言わないでおいた方がいいだろうと思える話をする鈍感さにも驚きました。


 唯一、救われた話はイラストレーターになれたことでした。大学生活にも就職に失敗し、アルバイトで30才まで生活。29才の時にたまたま見つけたテクニカルイラストレーターの通信教育に申し込み、その実力を認められいきなりその通信教育の会社が経営している専門学校の講師に抜擢されたそうです。


 そして、講師をすることが決まった頃に私に声をかけたのでした。

 

 本業は、やはりアルバイトでした。とある設計事務所で図面を描いているとのこと。4人くらいの小さい事務所で働き始めて1年ほど。夫の人生が上手く回り始めた時に出会ったのです。


 私は、もう一度イケメンの夫と並んで歩きたいと思いました。でも、「この人は遊び相手のキープ君にしておこう」くらいの気持ちでした。

 それなのにフラれるのはプライドが許しませんでした。


 そこで、夫を繋ぎ止めることにしました。最低の手段です。このことは恥ずかしくて誰にも言ったことはありません。

 夫に自分の有名な父親の名を明かしたのです。


 夫は驚き、明らかに私に興味を持ちました。

 帰り際、「また会いたいね~。」と言い次の約束をすることができました。


 私は夫の顔を、夫は私の父親の名を好きで、結婚したと言えます。


 結婚した後に、姑から聞いたのです。

 私とデートして家に帰った夫は両親に

「A氏の娘と知り合いになった。絶対に結婚してみせるから待ってて。」と言ったそうな。

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