第11話 子どもの顔見てね。
結婚して2年ほど私はピアノの練習とピアノ教室と家事をして、夫の仕事も順調で幸せでした。
夜は、二人でファミコンのロールプレイングゲームにはまり、ワクワクしながら架空の世界で過ごしました。
そろそろ子どもが欲しいと言うと
「男が生まれたら困る。」と言います。何故か聞くと、自分のようないい加減な人生を歩んで育つのかと思うと嫌だというのです。そして、自分などが、父親になる資格はないと言いました。多分、過去に堕胎させていることが頭にあるのです。
私は、案外に自分をわかっているじゃないかと思いました。それなら大丈夫とも。所詮、男尊女卑の世代なので、子育ても母親次第、私がしっかりしていれば良いと思いました。
しかし一つ、気がかりがありました。
夫は気がついていないのです。自己肯定感の低さや考え方の甘さ、道徳感の低さが育てられ方からきているということを。
夫の両親は共働きでした。父親の収入だけで質素にやっていけるだけの収入があるにも関わらず、同居の義両親に4才の長男と生まれて間もない次男(夫)を預けて母親はフルで働いていました。
当時、男は家事をしないのは当たり前のことでした。
義両親と夫の家族は同居していましたが、姑は嫁ぎ先で姑との関係が悪くて出戻りだったということでした。そのおかげなのか両親夫婦の生活には一切口出しせず、夫の母親は遠慮なく我が子を姑に預け働いていました。
姑に子どもを見てもらえても、昔の生活は今ほど便利ではなく家事は大変なものでしたし、畑仕事もありました。
夫の母親は睡眠時間を削って頭痛を抱えながら一人でフル稼動し、子どもには、美味しいものばかり食べさせ言いなりになり我慢などさせなかったのだろうと推測できます。
そして、夜になると夫と義兄は両親の激しく言い争う声と茶碗の割れる音に恐怖したそうです。この経験は大人になってからも悪夢を見て苦しむという弊害が起きていました。
夫達兄弟は小学校低学年から塾へ行っていたそうで、そんな家庭はその地域には無かったそうです。
夫は小さい時からお小遣をたくさん貰っており、同級生にお菓子やお金をやって使い走りにしていたと言います。
夫の母親は夫が赤ちゃんの時、あまり抱っこしていなかったと想像でき、子どもを育てていない様です。お金を与えて放置。塾へ入れて放置。子ども達は塾をサボりお金で友人達を従え気分良く毎日遊んでいたのだろうかと想像します。
当時、夫の小学校では担任の独身の女性教師が毎日、クラスの男子をビンタしていたそうです。殴る時に「あんたの父親はあんな仕事をしているからあんたも馬鹿なのよ!」というようなことを言い罵倒しまくり毎日、毎日、すべての男子が理由をつけてはビンタされていて、それを知っている親は「教育熱心な先生」として尊敬していたそうです。
海の近くに住んでいる人々は生活ゴミは海へ捨てて当たり前のことで、私が結婚した当初でも下水道もなくて生活排水は海へ流している地域でした。
夫の母親も義兄たちの子どもの前で当たり前に海へゴミを投げ入れていました。(私の子の前ではさせませんでした。)
しかしながら、私達夫婦に長女が生まれたら、夫の両親はとても可愛がってくれました。ものすごい勢いでお金を使うのです。その使い方を見ていると、夫の母親はお金を使えることこそが一番の幸せだと思っているようでした。女学校に通えるような家庭の出身だそうです。ここにも何かしらの問題があったのだと想像できます。
ところで、父親になった夫ですが、仕事から帰って来ても我が子をチラ見して素通りです。生後一ヶ月の赤ん坊はあまり面白いとは言えませんが、我が子ですよ。
素通りして奥の部屋へ行き新聞を広げるのです。
「まず帰ったら我が子の顔を見たら?」と言うと
「え?見たよ。」
チラ見を見たという始末。全く、我が子を可愛いと思っていませんでした。可愛がり方も関わり方も分からず知識もなく…
ここから、夫をお父さんにするべく私の奮闘が始まります。
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