お昼は〝お〟のつく

 お昼近く。

 このところの疲れが抜けない我が家には、気だるげな空気が漂っていました。


 体がしんどい時こそ、ご飯をきちんと食べねば……と思いつつ、お昼は簡単なものでいいかな、とも思っていました。

 母様も同じことを考えていたようです。



「まるちゃん。お昼、お風呂で良い?」

「えぇと……お熱があるので、お風呂はちょっと……」


 疲れからくる言い間違いだと、わかっているんですけどね。

 家族の気安さと言いましょうか、応答せずにはいられません。


「間違えちゃった。『おうどん』て言おうとしたのよ」

「あぁ、なるほど」

「『お』しか合ってなかったわ」


 ちょっと待ってください。


「その『お』は接頭語ですから、だいたいの物に使える『お』ですよ」

「あらやだ、ほんと」

「合ってるって言わないでしょう」

「お風呂に入って、ちょっとゆっくりしたいなって考えてたから」

「混ざっちゃったんですか」

「そうなの」


 確かに、ゆっくりしたいと思うのもわかります。


「暑さだけでもしんどいのに、忙しかったですからねぇ。ちみたん甥っ子の愛称たち預かったりとか」

「そうねぇ……おちみさんは可愛いけど、1ヶ月以上はさすがにしんどかったわ」

「気を配るだけでも、相当でしたからね。『とにかく、怪我させたらダメ』って、ずっと思ってました」

「まるちゃん、体力ないのに、よく面倒見てくれたわね」

「母様たちもでしょう」


 ちみたんたちが帰って1ヶ月ほど経ったはずですが、我が家は全員、いまだに気力も体力も戻りません。


「まだ疲れが残ってるのに、母様たちはそれからまだ、田んぼとか畑とか、田んぼとかお掃除とかあったんですからね……」

「今、田んぼが多かったわ」

「えっ? あ、すみません」

「『おっ!?』って感じよ」

「その『お』は感嘆詞ですね」

「良くわかったわね、まるちゃん。偉いわ」

「ありがとうございます」


 ……あれ? 何か、話がずれているような……



「──おーい、お湯沸いたぞー」

「はーい」


 キッチンから飛んできた父の声に、母様が答えます。


「お湯を見ててもらったんですか」

「『沸いたら教えてね♡』って言ってきたの」

「なるほど」


 そんな可愛い言い方されたら、快諾しますよね。


「──うどん、茹でて良いのかー?」

「お願いしまーす♪」


 ……そうそう。お昼の献立の話でした。


「母様、座ったら立てなくなっちゃったんですね」

「そうなの」

「お疲れ様です」


 手の届く範囲で、母様の脚をマッサージします。


「お熱が上がるから、良いわよ」

「……はい」


 お熱が下がったらマッサージしますから。ちょっとだけ、お待ちください。



 その後3人で、おうどんをつるつるといただきました。


「まるちゃん、相変わらず麺がすすれないのねぇ」

「へたにすすると、むせるので」

「麺がお口に入っていくのを見てるのは、楽しいのよ」

「そうだな。鳥みたいで」


 ……鳥、ですか……?

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