母の日とは〝最強な母様を敬い奉るための日〟

 新元号を迎え、初の母の日がやってきました。


 私がうっかり、


「今日の母様は最強ですね。『母が敬われる日』ですから」


 などと口走ったせいで、母様に妙なスイッチが入ってしまったようで──



 ✽✽✽



 ──朝食時。


「さぁ。さぁ、食べるが良い!」


 〝誰だかわからないけど偉い人〟が、おかずを勧めてくれます。

 ……顔は母様なんですが。


「……ママはどうしたんだ」

「……母の日なので、最強なんです」


 困惑する父に、意味不明な説明をする私。こっそりと会話します。

 察してくれた父は、


「そうか……」


 と呟き、


「貰おうか」


 と母様に応えました。


「どんどん食べるが良い!」


 ……本当に、誰なんでしょうか。



 ✽✽✽



 ──昼食後。

 睡眠と運動についての番組を、父と見ていました。

 母様は新聞を読みながら、BGM程度に聞いています。


「……墨絵?」


 耳がピックアップした文字を組み合わせた結果ですね。

 番組が変わっちゃってますが。


「惜しいですねぇ。芸術の話はしてなかったですよ。〝す〟と〝み〟は合ってるんですけど」

「睡眠と運動だぞ」

「あらやだ、お父さんたら♪」


 父が間違えたように聞こえます。



 ✽✽✽



 ──夜。

 昨夜見ていた番組で正式な読み方を知った〝鳥栖とす〟について、母様と話していました。


「〝とす〟だったのね」

「ずっと〝とりす〟だと思ってました」

「ね」


 ──佐賀県鳥栖市の方々に、この場を借りてお詫び申し上げます──


 ……〝鳥〟で〝とす〟……


 ……ふと、思い浮かんでしまったんです。出来心でした。


 手を鳥のクチバシに見立てて、母様の肩口をつついてみました。


「……『とすっ』」

「まるちゃん?」

「鳥だけに」

「ふふっ。もう、おばか」

「わかっております。何となく、やってみたくなって」

「そう」

「はい」


 そこで調子にのった私が悪いんです。


「……『とすっ』」

「『ぼすっ』」

「『ごふっ』」


 つつく・寸止めパンチ・やられ声と、三拍子揃いました……!

 母様の寸止めも見事です。


 ──念のために申し上げておきますが、母様は子どもに手をあげるような人ではありません。私に合わせてくれただけですので、ご了承ください──


「何かこう……達成感がありますね……!」

「何の達成感なの」

「すごくリズミカルだったので、ちょっと感動して」

「そこで感動するの?」

「ネタ合わせも何もしてないのに、スゴくないですか?」

「いつものことじゃない?」

「……あっ」


 ……〝母の日〟に一番浮かれていたのは、私だったようです。



「お花ありがとう」

「こちらこそ、いつもありがとうございます」


 母の日らしいことも、ちゃんとしましたよ。

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