道草三人娘

 日頃お疲れの母様を、できれば毎日マッサージしてあげたいんですが……何しろHPがスズメくらいの〝キョジャクセンシ〟なものですから。


 母の日に焦点を絞って、体力を温存していました。



 当日、渾身の全身マッサージ──所要時間30分──が功を奏したようで、


「正座をしても楽なのよ♪」


 と大層お喜びになった母様。


 〝正しい正座の仕方講座 ~in 自宅~〟を開催してくれました。


「膝を拳ひとつぶん開いてね」

「はい」

「足の親指を重ねて、そこにおいどさんお尻を落とすのよ。お着物の時も、楽に座っていられるの」

「はい。……あの、母様」

「なぁに?」

「私、関節が弱くて正座ができない人でした。すみません」

「あら。じゃあ『正座はダメよー!』のほうが良かった?」


 ……誰でしたっけ。聞いたことのあるエピソードなんですが。


「えぇと、ほら『道草三人娘』のお母さんよ」

「『道草』……?」

「モデルさんじゃなかった? 娘さんたち」


 ……モデルさん……『道草』……あっ!


「母様。それ『道端三姉妹』のことですよね」

「そう! たぶんそれよ!」


 たぶんて……


 以前、トーク番組で、


「足の形が悪くなるから正座をしてはいけないと叱られた」


 という内容を語っていたことだと思います。


 『道端三姉妹』だと、美人姉妹の代名詞となりますが……


「『道草三人娘』だと、ランドセルを背負った女の子しか浮かびませんよ」

「あら」

「夕飯になっても帰らなくて、親御さんに叱られるパターンですね」

「それはかわいそうね」

「母様が言い出したんですが」

「ママは『道草』って言っただけだもの。発想を広げたのはまるちゃんでしょ」

「……確かに」


 正論だけに、反論もできません。



「まるちゃんは『道草』する?」

「途中で行き倒れるので、しません」

「そうよね」


 わかっているなら、何で質問したんですか。

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