ロミオとジュリエット効果

 田植えの時期は忙しいですね。

 特に水が少ない地域ですので、各農家さんが、てんやわんやしています。



 今年の我が家は、分業制です。

 田植えの準備担当主に家の外は父。

 衣替えなどの掃除担当主に家の中は母様。


 お互いの行動範囲が重ならないので、朝食後からすれ違っています。

 見つからないと、定位置にいる私のところへ来ます。


 ふたりとも忙しく動いてますので、ムダに探すより迷子センターに訊いたほうが早いんです。

 その際に、これから行く場所を伝言していってくれるので、やはり伝言係に訊いたほうが早いんです。



「お父さん、おトイレに来たわよね?」

「さっき、外に行きましたよ」

「あら」



 ✽✽✽



「ママの声がしないな」

「2階に行くって言ってましたけど」

「……そうか。水、見に行ってくる」

「はい。流れて来てるといいですね」


 田んぼに水が入らないと、死活問題になりますからね。



 ✽✽✽



「そろそろ水分を摂ったほうがいいのに、お父さんが捕まらないの」

アレ犯人みたいな言い方しないでください。今、電話をかけてみますから」


 ──プ、プ、プ……


「『おかけになった電話は──』」

「……たぶん、機械農機具の音で聞こえてません」

「んもう……ママ、おトイレ掃除したいから、携帯預かっててちょうだい」

「はい、お預かりします。もうちょっと経ってから、かけ直してみますね」

「お願いね」



 ✽✽✽



「不在が入ってたぞ。何だ?」

「母様が熱中症を心配してたので」

「お茶と塩分チャージ持ってたから、大丈夫だ」

「なら良かったです」

「ママはどこだ? 電話も出ないんだ」

「すいません。私が預かってます」


 さらに、母様の電話が鳴ったことにも気づかず、すみません。

 だんだん着信音が大きくなる仕様だと忘れてました。

 ……音楽をかけるのは、後にすれば良かったです。言い訳ですが。


「トイレ掃除してたか」


 さすが、ツーカーの仲ですね。

 「携帯を預かっている」のひと言で、電話に出なかった理由が〝おトイレのお掃除〟だとわかるとは。

 今朝、お互いの作業内容を伝えあっていたのもあるんでしょうけど。


「今は、奥の部屋にいますよ」


 母様の携帯は、まだ私の手元にあるんですけどね。

 さっき、母様が、


「しばらく奥にいるわね」


 と伝えにきた時、渡すのを忘れました。

 いやもう、本当にすみません。

 携帯しないと、携帯電話の意味がないですよね……


「そうか。ママさーん……」


 母様を迎えに行きました。

 出てくるのを待っていられなかったんですね。


「──、心配したのよ」

「すまん。お茶は持ってたんだ」


 お昼近くになって、ようやく二人は逢えました。

 しばらく会話の8割が、


「んもう」


 と、


「すまん」


 でした。

 次第に語尾にハートマークが飛び交うようになりましたが。



 食卓につく時、母様と父は並んで座ります。

 今日の食事時。

 二人の椅子の距離が、いつもより近いことに気づいて、口元が緩んでしまった私です。

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