ドラマティック春雨

 母様の特技のひとつに〝愉快な聞き間違い〟があります。

 作業時の発動率が高いですね。

 意識の配分が作業:雑談=9:1くらいだからでしょうか。



 この時の話題は、


『我が家で一時期ブームになったけど、すぐに廃れたもの』


 でした。


 ダンベル、食べるラー油、自家製ピクルス──

 次から次へと出ます。


『答えられないほうが負け』


 という勝負をしている訳ではないんですが。


「あと、豚キムチ春雨とかありましたね」


 ──キュピーン!


 ここで、母様が〝特技・愉快な聞き間違い〟を発動しました。


「ドラマティック春雨?」

「それ、逆に気になるんですけど」

「まるちゃん、そう言わなかった?」

「言ってないです。合ってるの『春雨』だけですから。豚キムチ春雨です」

「ドラマティック春雨……響きが素敵ね」


 聞きましょうよ。ちょっとで良いですから。


「どんなのだと思う?」


 そんな、期待した目で見つめないでください。

 ……可愛いなぁ、もう。


 母様のリクエストに応えるべく、長時間の作業で飽和状態の脳に、もう少し働いてもらうことにしました。


 ……ドラマティック……?


「……茹でたら実はビーフンで『あなた、デンプンじゃなくて、米粉じゃない……!』……みたいな?」

「それ、ドラマティック?」

「すいません。勢いで言いました」


 ……厳しいですわぁ……


「……『豚さん。あなたとの間を取り持ってくれたキムチさんに、私……ごめんなさい……!』……みたいな?」

「春雨の気持ち?」

「はい。キムチだけに」

「座布団取っていい?」

「大喜利じゃないんですから」


 座布団が取られそうになったところで、作業も終わりましたので、休憩へと移りました。



 ……『ドラマティック春雨』……

 何だか、ものすごい料理に使わないといけないような気になりました。

 普通に、スープとかじゃダメですかね。

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