見えますか?

 5月に入ったばかりだというのに……何でしょうね、この気温。

 おかげで、この日のお昼は残念ながら別々でした。



「まるちゃーん」


 母様が私のお部屋に来ました。


「どうしました?」

「ジャム用のスプーン、こっちにある?」

「えぇと……たぶん」


 箱をガサガサ。


「ありましたー。どうぞ」

「ありがとう」


 ──カアサマ は スプーン を じっと 見ている──


「……視力検査」

「うん。やると思いました」


 私もやるでしょうからね。ただ……


「それだと、ランドルト環どころか、景色も見えないでしょう」

「見ずらいわね」

「ですよね」


 あ、そうそう。顔に触れてはいないですよ。食器ですから。


「開いてるほうの目の前に、スプーンがありますもん」

「えっ」


 母様は顔からスプーンを離して──


「あら、ほんと。良く見えるわ♪」

「良かったです」

「まるちゃんたら。早く言って」

「結構早かったと思うんですけど」

「このスプーン邪魔ねって思ってたの」

「でしょうね」


 暑さと疲れで、母様の天然っぷりが上がっております。

 可愛いです。


「母様」

「なぁに?」

「午後はお昼寝をおすすめします」

「んー……」

「何かあります?」


 急ぎの用事とか。


「急ぎはないけど……」

「じゃあ、寝ましょう」


 お布団を敷いておけば、お昼を食べたら、スヤァ……ですよ。



 午後2時すぎ。


「……ふすー……」


 ……ね。

 おつかれさまです、母様。


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