翻訳機をください

 テレビを見ていた時のことです。M&A──企業の合併や買収──の話題が流れてくると、母様が何やら考え出しました。



「んー……」

「どうしました?」

「ママはね、M&Bが好き」


 ……M&B?

 M&B──後で調べてみたら、冷菓製造事業の会社名が検索欄に上がりました。


 今まで聞いたことがないので、フィーリングで喋っていると思われます。

 何を指しているのかわからないと首を傾げる私に、説明をしてくれます。


「ほら、あの、ころころしてる」

「ころころ?」


 〝M&B〟と〝ころころ〟が、結びつかないんですが。


「一袋がこのくらいなの」

「個包装……」


 5cm ×10cmほどの長方形の袋……ですか。


「いろんな色が入ってて」

「ほう」

「まるちゃんも食べるでしょ」

「ん……?」


 ……カラフルな〝ころころ〟とした食べ物……


 今、何か出てきそうな気配がしましたよ。


「ほら、あれよ。M&Bよ」

「ちょっと待ってください。思い出せそうですから」


 ……長方形の個包装に包まれた、カラフルな〝ころころ〟……


「あっ!」

「わかった? わかったでしょ?」

「m&m◯ですね」

「そう! それ!」


 商品名がわかったことには、すっきりしましたが。

 今度は別の問題が。


「……Bじゃないですけど」

「似たようなものじゃない」

「いや、アルファベットの並びはだいぶ遠いですし。〝エム〟と〝ビー〟じゃ、発音も違いますから」

「もう、細かいこと言わないの」


 細かい……ですかね。


「……とりあえず、カラフルチョコだとわかって良かったですね」

「そうね。明日、帰りに買ってくるわ♪」



 翌日。


「……スーパー閉まってたの……」

「……定休日でしたか……」


 お菓子ひとつで、この世の終わりのような顔をする母様も、可愛いです。

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