お互いに気が合うと思う瞬間
母様の好きなテレビ番組のひとつが『にっぽんの芸能』です。
テレビだと、普段は見られない角度からの舞台映像が見られます。さらに、興奮して声が大きくなっても、田舎なので近所迷惑にならないのが利点です。
……だいたい、興奮するのは私なんですが。
この回は、四場面で構成されたお祭りの舞踊でした。
出演なさるご兄弟のお二方が、場面ごとにそれぞれ四役を演じ分けられます。
いつものように、装束や所作などについて、母様とあれこれと話しながら見ていました。
第一場
「最初は古代のお話なんですね。あの透けてるの、ちょっと羽織ってみたいです」
「形が難しくない?」
「そっくりそのままじゃなくて、素材が気になるので……」
「なら、取り合わせを考えたら、良いんじゃないかしら」
「なるほど」
「所作も綺麗ねぇ」
「女帝役の方の、剣を扱う指先がしなやかですわー」
「身重で出征ですって」
「えっ!? 安静に、安静にしないと!」
「まるちゃん、お芝居だから」
「そうですけども……!」
✽✽✽
第二場
「次は口に咥えるお面ですか? あと二場あるんですけど……」
「息、苦しいでしょうね」
「ね。……あ。『善』と『悪』が顔になってますよ」
「あらほんと。……さっきの威厳のある雰囲気から、一変したわねぇ」
「動きも装束もコミカルですし」
「早替えの技術も素晴らしいわね」
「裏方さんたちと、裏で『急げ~』とか、ぱたぱたしていらっしゃるんでしょうねぇ」
「まるちゃんが言うと、緊迫感ゼロね」
「えっ? そんなことはないでしょう」
「……色が、お対になってるわよ」
「あれ? スルーされた? ……まぁ、良いです。前垂れが白と黒なんですね。善と悪だからですかね?」
「たぶんね」
✽✽✽
第三場
「いよいよ、弟さんが
「まるちゃんが張り切って、どうするの」
「だって、演じたことのない役だって仰ってたんですもん。早く見た──うわ、ちょっと、凄い!」
「語彙力 (*´艸`)」
「えっ? 本当に初?こんなに粋な雰囲気、初役で作れるものですか?」
「ママに訊かれても」
「すいません。ちょっと興奮して……うわ、ちょ、えぇ!?」
「語彙力 (*´艸`)」
「今の、見ました!? 扇捌き! ……足先とか……立ってるだけで、あの空気感……本当に、どれだけお稽古なさったんですかね……」
「1ヶ月くらいって、インタビューの時に仰ってたと思うけど」
「……『この演目は』ってことですよね。……日頃の積み重ねが大事なんですね」
「そうね」
✽✽✽
第四場
「えっ……」
「まぁ……」
「……もう、40分近く踊った後ですけど……」
「最後に連獅子は、しんどいわね」
「お祭りの舞踊だからって、ここまでします? 見てるほうは『紅白でめでたい!』とか盛り上がるでしょうけど」
「迫力は出るけど、役者さんは大変ね」
「……ああぁ……あんなに重たい
「腰から回すそうよ」
「豆知識ありがとうございます。……いや、もう、あんなに回さなくてもいいでしょう。役者さんを労って!」
「まるちゃん、落ち着いて」
「だって、母様……」
「ほら、台に乗ったから、もう少しよ」
「ここから、まだ回すじゃないですか。見せ場かもしれないですけど、あんなに長いしっぽがついてたら、体がもたないですよ」
「しっぽ……獅子だから、たてがみじゃないの?」
「えっ!? ……あー、そう、かも? まぁ、それは置いといて。あんなに長時間ぐるんぐるんしてたら、体に相当な負担がかかってるはずですよ。……あぁいう時、母様なら何を考えます?」
「『ラストスパートだから、気合いを入れるぞー』とか?」
「前向きですねぇ。私たぶん『長いー。しんどいー。お囃子、早く終われー』です──あ、ようやく台から降りられましたよ」
見栄を切って──
「「『ぴよ』って」」
母様と同時に握った手の親指を立てていました。
顔を見合わせて、大笑いです。
「お兄さんの、踏み出した足先に目が行ったの」
「あんまり親指の反り返りがすごいので、私も指が反応しましたよ」
「足で真似するとつりそうだったから……」
「「『ぴよ』って」」
「ですよね」
「ね」
気が合うわー、と二人で頷きました。
「……そういえば今さらですけど、赤の裏が緑とか、白の裏が紫って、インパクトありますね。あと、柄同士の取り合わせとか、違和感ないのが不思議ですね」
「お着物ならではよね」
「洋服で例えたら、着る人によって虎柄のシャツに薔薇柄のタイツが違和感なく見えたりする感じですかね?」
「……ちょっと違うと思うわ」
……違いましたか。
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