魔王軍襲来

 連休最終日の夜。

 実家で暮らす者の宿敵〝セッタイヅカーレ〟に襲撃された私は、さらなる敵〝ノドハレール〟にもダメージをくらいました。


 こうなったら、魔王〝カゼナガビーク〟に、小手先の抵抗など効きやしません。


 魔王軍に為す術もなく、確実にHPヘルスポイントを削られたLv.1の私は、瀕死状態です。

 回復薬〝カアサマノオカユ〟を作ってもらいました。



 魔王軍が残していった爪痕深い体風邪を少しでも癒すべく、カレーの匂いと家族の会話をおかずに、少しずつお粥を口に運びます。

 ……うーん。喉が痛くて、なかなか飲みこめな──


「このカレー、辛いな。……いや、甘いな」

「(どっちよ)」


 弟の呟きに、口に出してツッコめない、このもどかしさ。


「確かに辛いな」

「甘いわよ」

「(いや、だからどっち)」


 父と母様にも、ツッコミたい……!


 どういうことかと、弟に目で訊きます。


「……カレーは辛いんだよ。で、ジャガイモと一緒に食うと甘い」

「(なるほど)」

「でも辛い」

「(結局辛いのか)」

「甘口のまるちゃんが食べられないから、いつもよりちょっと辛いルーを使ったのよね」


 ……『甘口のまるちゃん』……


 何だか、妙な二つ名みたいでイヤです。


 二つ名の用途

 その一:強さを表すための特殊能力表示。

 その二:正体を隠すためのコードネーム。

 その三:魅力を伝えるためのキャッチコピー。


 ……『甘口のまるちゃん』……


 ──魔王軍には勝てそうもない二つ名ですが、カワイイキャラクターにつけるなら、良いかもしれません。


「気になるなら、ちょっとだけ舐めてみる?」


 カレーをちらちら見ながら考えていたので、母様が訊いてくれました。


「……イエ……のどガしぬノデ……」

「うわ。がらがらじゃねぇかよ。声絞り出さなくていいから、喋るな」


 弟が顔を引つらせました。


「……しゃべルナなんて、ひどイ……」

「ひどいのは姉貴の声だから。出なくなるからマジで喋るなよ」


 弟の忠告どおりに黙ったのですが、その後2日ほど声が出なくなったので、ジェスチャーで家族と会話をしました。

 ──お熱が上がって、余計にHPが減りました。



 母様たちの手を煩わせるのは申し訳ないので、来年こそは……

 来年こそは、魔王軍が来ませんように……!


 ……その前に、お盆とかありましたわ……(遠い目)

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