結婚○十年目の新婚さん

 週に一度の、ご近所スーパーの特売日。

 我が家からは母様と父が出陣しました。



「お父さんとお買い物に行ってくるわね♪」

「大葉もお願いします」

「あっ、忘れてたわ。んもう、早く言って♪」

「今言いましたので、お願いします」

「はぁい♪」


 出陣……するのは余所よその奥さんたちで、母様たちにとってはデートでした。


「お父さんとドライブ♪ お父さんとお買い物♪」


 と歌いながら、いそいそと支度をする姿は大変可愛らしいです。



 目的は特売でも、行き帰りの車の中からあちこち見て、


「あの家のお花が綺麗ね」

「今年は少し早いな」

「暖かいものね」


 とか、


「あそこは、もう起こしてあるなぁ」

「ほんとね。うねも立ててあるから、近いうちにお野菜植えるのね」

「うちは、あと何を植えるか」


 などと会話をしていくのも楽しいようです。


 何というかこう……新婚2日目のような甘さがあります。

 もう○十年も連れ添っているんですけどね。



 父は、


「ママが転ぶといけないから」


 と言って、手を繋いだり腕を組んだりが自然にできる人で。


 母様は、


「そうなの。転んだら大変だから♪」


 と父の気遣い愛情を嬉しそうに受け止めています。


 小さい頃は、ふたりの間に入って両側から手を繋いでもらうのが好きだったんですが。

 いつの間にか、ふたりが腕を組んで歩く姿を見るのが自然になりました。



 ✽✽✽



 一時間ほどのデート買い物から帰ってきたふたりに話を聞くと。


「買い物メモを忘れちゃったのよね。広告を見ながら、一生懸命書いたのに」

「だから違うコーナーに行くごとに『ここでは何かあるか?』って訊いたぞ」

「あー……お疲れさまです」

「でね、お父さんったら『これはどうだ』『これはどうだ』って、あんまり訊いてくるから、だんだんわからなくなってきて」


 ゲシュタルト崩壊起こしちゃったんですね。


「だから『これも胴よ』って」


 腰に手を当てて仁王立ちしたんですか。……お店の中で。

 そして父が、


「そうだな」


 と同意したと。


 いつものことながら不思議な会話ですが、気分はリセットされたようで。

 買う予定の物はだいたい買えたそうなので、良かったです。



「あっ、牛乳忘れちゃった!」

「……後で、コンビニ行きましょう」


 スーパーより近場ですから。

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