拠点壊滅

 弓を構えた鋼鉄人形、それはゼクローザス・アーチャーだった。黄金の矢をつがえもう一線の光条を放つ。その黄金の矢はハイペリオンの防御フィールドを貫いて左肩のロケットランチャーに突き刺さった。


「なんてこった。この絶対防御領域を突破する兵器があるなんて聞いていないぞ。ノラベル将軍」

「アリ・ハリラー様、落ち着いてください。あれはアルマ帝国の新型鋼鉄人形です。霊力を利用したチート能力を駆使しています。他にも二体。ゼクローザスの改良型と思われる機体が……赤外線カメラで画像を……よし、収めた。装甲と駆動系のバランスが絶妙だ。なるほど、これは高性能だぞ」

「何を悠長に情報収集をしているのだ。ノラベル将軍。ここは撤退せねば」

「そうだな」

「その声はジーク・バラモット様? どこにいらっしゃいますか? 先ほど、氷漬けに??」

「くくくっ。ここだ」


 闇をまとったその姿が現れたのはヴァイの背後だった。ジーク・バラモットはヴァイを背後から抱きしめ、その首に口づける。


「あっ。嫌っ。ダメ、体が!?」


 ヴァイの体が硬直し動かなくなる。ララが攻撃を加えようと身構えた瞬間に戦闘員のリュウが光剣をブランに突き付けていた。


「ララ室長。動かない方がいい。この͡娘の首、大事でしょ」

「くっ。何故、あの氷塊の戒めから出てこれたのだ」


 リュウはにやりと笑ったまま黙っている。その隙にジーク・バラモットはレイスの首にも口づけをした。そしてリュウもブランの首に口づけをする。ブランとレイスの体は硬直し身動きが取れなくなってしまった。


「あの程度の氷雪であれば私の対魔法障壁で簡単に防げますよ。大げさな塊で覆ってくれたおかげで良い欺瞞行動ができました」


 自慢げに語るジーク・バラモット。その隣でリュウが語り始めた。


「くくく。我らバラモットの口づけを受けると短時間ではあるが体の自由を奪える。この後じっくりと調教してやろう。くくく」

「リュウ。貴様バラモットに成り下がったと!?」

「いや、昇華したと言っていただきたい。人間を超越した存在。それがバラモット。俺は進化したのだ」


 ララの言葉に異を唱えるリュウ。その意識、いや肉体までも完全にバラモットに浸食されているようだった。


「様子見はこれで終わり。本番はこれからだ。ララ室長。デッドライジングにて待っているぞ。ふはははは」


 ヴァイとレイスを抱え闇に溶けていくジーク・バラモット。それに続きブランを抱えたリュウも闇に溶けていく。彼らを追おうとララが身構えた瞬間にハイペリオンの背から十数発の閃光弾が発射された。

 激しい閃光で周囲の視界を奪ったハイペリオン。眩い光が消え去った後にはその巨体はどこにも存在していなかった。


「テレポートした。逃げられた」

「ララ様。霊航跡探知できております。追跡しますか?」


 後から侵入してきた鋼鉄人形からの呼びかけに首を振るララ。


「生き残りの吸血鬼を掃討せよ。周囲数千メートルの範囲だ。霊力子ビームで消滅させろ」

「了解しました。ミハル中尉、コウ少尉かかれ」

「了解しました。大尉殿」

「了解」


 三機の鋼鉄人形はその額から霊力のビームを放つ。

 吸血鬼の肉体は実弾兵器で破壊されるものの、すぐに再生し復活する。しかし、この霊力子ビーム砲を受けた吸血鬼は灰となって崩れ落ちた。

 倉庫内の吸血鬼を掃討した時点で二機の鋼鉄人形は倉庫の外へと掃討範囲を広げた。外の路地や大通りにもビームの閃光が弾け、吸血鬼は灰となっていく。


 ララはエクセリオン二号のコクピットへと駆け寄り、鮮血にまみれたラシーカを抱きかかえていた。


「大丈夫か? 意識を保て」

「問題ありません。ゴホッ」


 鮮血を吐きながら返事をするラシーカ。しかし、出血量の割には顔色は良く表情も明るかった。


「本当に……問題なさそうだな」

「ええ、ドラゴン族はこの程度でへこたれません。そうですね。運動会ですっころんでひざをすりむいちゃったって感じでしょうか。まあ、すごく痛いんですけど」

「大口径機関砲弾喰らってすごく痛いで済めば世話はないな」

「えへ♡でも、ホシコちゃんの反応が無くなっちゃって心配なの」


 ラシーカの指摘した通りに、エクセリオン二号のAIホシコの反応はなかった。エクセリオンシリーズの5機全てが沈黙していた。


「せっかく仲良くなったのに……復活できないの?」

「大丈夫だ。ノラベル将軍をひっ捕まえて修理させる」

「元通りになるのかな?」

「問題ない。奴は天才だからな」

「本当に?」

「ああ。ハーゲンに回収させる。コクピットから降りようか」


 ラシーカをお姫様抱っこでかかえコクピットから飛び降りたララ。ラシーカの出血はすでに収まっていたが、彼女が着ていたセラー服は鮮血に染まり、いたるところに穴が開き裂けていた。


「この服、どうにかせんといかんな。穴だらけだ」

「そうですね。せっかくのセラー服がこんなになって残念」

「着替えないとな。ハーゲン。私とこの娘、ラシーカの着替えを用意しろ。戦闘服でいい」

「了解しました。ところで、そこに倒れているのは救出した人員では?」

「貴様の身内だ。正気に戻っているとは思うが一応注意しろ。こいつらも回収して手当してやれ」

「了解しました」


 ララとラシーカは倉庫より外へ出た。倉庫の上空には黒い三角錐のような形状をした宇宙巡洋艦が静止していた。その巡洋艦「ガウガメラ」の艦体側部が開き鋼鉄人形が二体飛び出してきた。また、複数の兵士と連絡艇が降下し、救出した人員を連絡艇へと回収する。


 建物の影から出てきた小柄な獣人はモナリザ・アライ。部下数名を引き連れララの前で恭しく礼をする。


「ララ様。この度はありがとうございました。ジーク・バラモットとその主力部隊はコロニー・デッドライジングへと撤退いたしました。今後は私の率いる治安維持部隊で対応可能であると思います。彼を退けてくれたことに感謝いたします」

「例には及ばん。それよりも、この付近結構破壊してしまったが」

「問題ありません。しかし、ジーク・バラモットがあのような巨大ロボットを使用するとは想定外でした。あの兵器を存分に使用されればこのコロニーは簡単に制圧されていたことと思います」

「そうだろうな。しかし、奴にはその気がなかったのだ」

「と申しますと?」

「奴は遊んでいるのだ。私とのゲームを楽しんでいる」

「傍迷惑ですね」

「ああ」


 ララは遠くを見つめ歯ぎしりをする。ここで救出できた人員はたったの三名だった。後六名はまだジーク・バラモットの手の内にある。しかも、アリ・ハリラーとノラベル将軍、戦闘員のリュウに関してはその精神まで汚染されているとララは判断していた。深刻な状況である。


 そして舞台はコロニー・デッドライジングへと移動する。

 金森が救出を望むオルガノ・ハナダがいる場所。そしてそこは、あの吸血鬼であるジーク・バラモットの本拠地でもある。


「明朝、日の出と共に行動を開始する。各員準備せよ」

「了解」


 ハーゲン大尉他の兵士が敬礼をして動き始めた。

 ララとラシーカも連絡艇に乗り、ガウガメラ艦内へと向かった。

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