闇夜の皇帝☆バラモットとの接触

 ジーク・バラモット。


 金森には聞き覚えの無い名。しかし、ララはここシーマンに到着した時に確認していた。それは、ララ宛に送付された送られてきた書状に記載された名であった。


 その書状とは脅迫状。

 

 ララは上着の内ポケットからその書状を取り出し金森に見せた。


「こ、これは!」


 目を丸くして金森が書状を読んでいる。その内容はこうだ。


※※※


拝啓


 新緑の候、貴殿に置かれましては益々ご清祥の事とお喜び申し上げます。

 この度私が筆を執りました理由は、貴方様、即ち内閣魔法調査室室長であるララ・東条様を所望している事をお伝えしたかったからでございます。

 所望、と云うのはつまり、貴方を食すると云う事でございます。

 貴方が私の食亊にふさわしい方であることに関しては疑う余地はございません。しかしながら、その情報は全て伝聞であるのも事実なのであります。ララ・東条様、どうか私にお見せください。貴方を食することが私にとって最高の晩餐となりうる事を。そして証明してください。ほかのどの存在よりも霊力に溢れ、生命に満ち、そして初々しい処女である事を。

 貴方にご足労頂くために少々愚策を講じました事、ご無礼であるとは存じますがお許しください。誘拐させていただいた人員は後ほど必ず解放すると約束いたします。

 貴方を倒し、貴方を喰らう事で私は名実ともに最強のヴァンパイアへと進化できるのです。それはヴァンパイアの王、闇夜の皇帝である証『バラモット』なのです。バラモットの存在、バラモットの意義、バラモットの栄誉、その全てをあまねく世界に知らしめる事を。


 貴方の霊と血と処女を贄に成すものであります。


                       敬具

      

内閣魔法対策室室長

ララ・東条・バーンスタイン様

                       ジーク・バラモット


※※※


 書状を読んだ金森の手は震えていた。


「信じられない。このメカチンゴンの暴走も奴が仕組んでいたというのでしょうか」

「そうだろうな。我々があたふたと戦っている様子をどこかで眺めて笑っているのだ」

「下劣ですね。こんな奴がララ室長を狙っているなんて」

「酔狂であろうな。こんな奴に食われてやるつもりはないが、この話には付き合ってやる必要がある。部下は救出せねばならん」

「そうですね。しかし、あの方たちは無事なのでしょうか」

「私を釣る餌にしている以上無事であろう。仮に私が破れて喰われてしまえばその時はお察しだな」

「まさか。そんな事はあり得ません」

「負けるつもりはない。ところで金森、お前はここに残ってこの縮退反応炉を停止、そして、メカチンゴンそのものを解体するのだ。いいな」

「はい。わかりました。ところで、残るのは私一人でしょうか?」

「案ずるな。護衛にシルビア部長と潰鬼を付ける」

「二週間程度かかりますがよろしいのでしょうか」

「問題ない」


 その一言に金森は安堵した表情を見せる。このような世界を滅ぼしかねない巨大兵器を一人で管理するなど、彼にとってはかなり大きな負担であっただろう。


 ララはコントロールルームから外へ出た。そこにはシルビア部長と通常サイズに戻った潰鬼とラシーカがいた。


「きゃーん。ララちゃんやったね。勝ったね。凄いね」


 ララの姿を見た瞬間、ララに抱きつくラシーカ。豊満な胸の谷間で翻弄されるララだったが、既に諦めているのか特に抵抗はしない。その様子を見つめる潰鬼は当然のごとく蒸気を噴き出している。その潰鬼に向かって飛翔してきた一本の槍が潰鬼の胸を貫いた。


「グハッ」

「キャー!」

「何だ」

「潰鬼!」


 槍に胸を貫かれた潰鬼はその場に倒れ、ラシーカはララを手放し悲鳴を上げた。

 シルビアは拳銃を抜き槍が投擲された方向へと向け発砲する。


 パンパンパン!


 数十メートル先の空間が歪み、大柄な、2m程の身長がある重装兵が姿を現す。

 ララは足元の石を拾いすかさずそれを投擲する。重装兵はその剛速球を難なく右掌で受け止めた。衝撃で石は砕け散る。


「なかなかの威力ですね。腕が痺れますよララ室長。これなら石ころで戦車の装甲も貫けそうだ」

「徹甲弾を投げれば貫通できるさ。石では無理だ」

「なるほど」


 重装兵デルラウェラ。とある宇宙軍の正式装備であり簡易宇宙服でもある装甲服を着こんだ兵士。その漆黒の鎧を身にまとった大柄な兵士は光剣レーザーソードを抜き切りかかって来た。

 光剣を抜き対応したのはララ。青白色と赤橙色の刃が接触して火花を散らす。


「良い反応だ。ララ室長」

「貴様は?」

「バラモット。ジーク・バラモットだ。ふははは」

 

 上段、下段と打ち込むララの光剣を的確に受け止めるジーク・バラモット。その隙を縫い一閃の光状その右肩に突き刺さる。そこにはシルビアが投げたナイフが突き刺さっていた。


「ほう。この装甲にナイフを通すとは素晴らしい」

「貴様の思い通りにはさせん」

「おお怖い。部長さんにはこれを」


 ジーク・バラモットが投げたのは閃光弾、それは眩い閃光を放ち周囲の視界を奪う。


「くっ」


 シルビアが目を閉じた瞬間にジーク・バラモットの蹴りがヒットする。シルビアは体を折り曲げて数メートル吹き飛ばされた。

 技を放った瞬間に隙はできる。ララはそれを見逃さず、ジーク・バラモットの腹部を蹴り上げた。


「グハッ」


 2メートル近い巨体が十数メートル吹き飛ばされる。追い打ちを掛けようとするララの顔面目掛けて閃光手りゅう弾が投擲された。

 激しい閃光に視界を奪われたララはジーク・バラモットを見失った。


「強い。ララ室長、それでこそだ。ふはははは」


 不気味な笑い声を残して気配が消えた。光学迷彩を駆使したのだろう。ジーク・バラモットの姿は何処にもなかった。


「逃げられた」

「そうだな」

「ところで部長、お体の方は?」

「大丈夫だ。何ともない」


 体を起こしたシルビアはパンパンと衣類のほこりを払う。その立ち振る舞いは負傷している風ではなかった。


「潰鬼ちゃん。目を覚ましてぇ!」


 その傍では潰鬼に寄り添うラシーカが涙を流している。胸に槍が刺さったまま仰向けで倒れている潰鬼はピクリとも動かなかった。

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