悪魔樹の森~エピローグ

攻略☆悪魔樹の森

 ララはハイペリオンの操縦席へと移動していた。ミスミス総統も程なく車長席へと座る。砲手のラシーカはハイペリオン内で待機していた。


 正面のモニターにはそこにはガウガメラから飛翔する鋼鉄人形。背に光り輝く法術の翼を備えた帝国唯一の飛行型の法術人形である。


「あれはランフォ・ルーザ……」

「ランフォ・ルーザ・グリフォンです。黒剣、いやシルビア部長が搭乗されていますね。補助にゲップハルト隊長と修理完了したセーズ型自動人形のジャスミンが搭乗しています」


 ララの問いにAIのレイカが返答する。既に戦術ネットワークが形成されているようだ。


「後方の鋼鉄人形は?」

「ハーゲン大尉のゼクローザス・クベーラとリオネ中尉のゼクローザス・ドーラ。そしてビアンカ中尉のインスパイア・トルネードです。政府ビルを囲み防御態勢を取っています」

「鋼鉄人形が二機降下した」

「アレはインスパイア・ファイアドラゴンです。強力な火炎放射器を装備している特殊型となります。搭乗者はミハル中尉とコウ少尉」

「バスガイドと黒猫か」

「そして、アルカディアが出撃しました。搭乗者はリュウとヴァイです」


 14m級の大柄な鋼鉄人形。アルマ帝国皇室専用の特殊な駆逐機黒龍騎士団に貸与されたのだ。異例中の異例であるが、その任務の重要性からは妥当な判断といえるのだろう。


「二機の戦闘人形が先行しております。これは便宜上戦闘人形の区分となっております。グレイ・サンクにはハルト君とレイスが搭乗しております。もう一機のエグゼ・リミテッドにはブレイとブランが搭乗。おや、ただいまその二機が悪魔樹より分離した木の巨人と接触しました」

「木の巨人だと?」

「はい。樹木の体躯を持つ大きな人型の……、まるで神話に出てくる巨人神話っていうよりは指輪物語のエントだよなです」


 その姿は樹木そのものであるが人の姿を模してもいる。身長はおよそ50mほど。それが数百体もこちらへと向かってきている。しかし、その上空は例の空中機雷で固められており、巨人に対する空爆は不可能であった。


「たかが樹木と侮っていた。これは攻略のし甲斐があるじゃないか」

「そうね。この進行を阻止できなければこのコロニーは全て悪魔樹に覆われる」

「その通りです姉さま」


 腕組みをしつつモニターを睨んでいるミスミス総統。ララも神妙な面持ちでモニターを睨む。


「特装防御型ガンシップをAIコントロールにて悪魔樹上空へと侵攻させよ。残っているガンシップ二機を護衛に付けよ」

「姉さま。それではガンシップが失われます」

「損害を恐れていては何も進まないわ。ガウガメラは対空戦闘。気化弾にて空中機雷を吹き飛ばせ」


『了解しました』


 ガウガメラより返答があった。


 ガウガメラ艦首より大型の魚雷が二本発射された。その魚雷は空中機雷のど真ん中で広範囲に可燃性燃料を拡散、そして一気に燃焼した。直径数百メートルの巨大な火球が空中機雷を焼き払う。そこに生じた大穴に特装型ガンシップが突っ込んでいく。


 森林迷彩を施した防御シールド強化型の特装ガンシップに対し、周囲に散開していた空中機雷が群がっていく。それらは特装型ガンシップのシールドに接触して次々と爆発していった。後続するガンシップはビーム砲を乱射しながらその空中機雷を焼き払う。そしてガウガメラの対空砲も焼夷弾を空中にバラ撒いていく。


「酸素の消費を無視できるなら焼き払うのが効率がいいですね」

「そうよ。どちらにしろこのコロニーは廃棄するしかない」

「そうですね」

「アルカディア聞こえる? 全力射撃で樹木の巨人を焼き払え。グレイ・サンクとエグゼ・リミテッドはアルカディアの援護だ」

『了解』

『了解です』

『わかりました』


 アルカディアの持つ霊力子ビーム砲が眩い閃光を放つ。その一閃は一薙ぎで数十の、樹木の巨人をなぎ倒した。まさに長大なビームの大剣であった。そしてその剣に払われた樹木の巨人は業火に包まれていく。


 その頃、空中機雷の突撃を一身に受けていた特装型ガンシップのシールドがその効力を失う。そこへ生き残りの空中機雷が集合してきた。間髪入れずガウガメラの主砲、IRフォトンレーザー砲がガンシップに着弾する。直径1000m以上の灼熱の光球が広がり、その範囲内にいた空中機雷は全て焼き尽くされた。


『ほぼ全ての空中機雷を撃破しました。これより空爆に移ります』

「了解。ゼクローザス・ドーラ。リオネ中尉は悪魔樹本体へ射撃開始せよ」

『了解』


 リオネ中尉のゼクローザス・ドーラの155㎜榴弾砲が火を吹いた。数キロ先の悪魔樹本体へと焼夷弾を放つ。それは悪魔樹本体にわずかな火災を発生させた。

 上空のバートラス数機も悪魔樹本体へと空爆を開始した。大型の魚雷を抱いたバートラスが悪魔樹へ対し雷撃を敢行する。その着弾点に爆炎が広がるものの、全体からすればそれは小さなマッチの火のようだ。


 しかし、本体への攻撃は悪魔樹の攻勢を鈍化させた。いや、樹木の巨人はその本体を防御するために後退していった。


「予想通りですか。姉さま」

「そうね。集中してくれると助かるわ」

「ラシーカ。重力子砲発射準備」

「了解」

「着弾点の座標を送る」

「了解……ってララちゃん?」

「何だ?」

「これって、変じゃないの? だって……弾は悪魔樹の周囲に落とすの?」


 ラシーカの指摘にララは頷いている。

 ラシーカが疑問に思った理由は、砲撃指示の座標が悪魔樹の周囲に対して等間隔に六ケ所であったからだ。


「これでは悪魔樹本体へのダメージはありません」

「それでいいんだ」

「え?」

「最後はあの出来の悪い上司に花を持たせねばな」

「部長さん?」

「うむ」


 後退していく樹木の巨人に対して追撃しているアルカディアら黒龍騎士団に対して退避命令が出された。


「黒龍騎士団。及び帝国軍の将兵に告ぐ。これより指示する攻撃範囲から速やかに退避せよ。繰り替えす。これより指示する攻撃範囲から速やかに退避せよ」


 良いタイミングで攻勢に出ていた黒龍騎士団のメンバーは一瞬躊躇していたようだが、その命令の意図を察知して後退を始めた。


「ラシーカ。重力子砲発射。六連射だ」

「了解」


 ハイペリオンの右肩、そこから突き出ている長大な重力子砲が6回火を噴いた。重力子砲弾は悪魔樹の周囲、均等な正6角形を描き着弾した。着弾点では一時的な重力崩壊が発生し、直径2㎞程の巨大な窪みが形成された。


「部長今です」

『ああ。分かっている』


 はるか上空から急降下してきた飛翔型の鋼鉄人形ランフォ・ルーザ。その胸に備えてある爆弾庫が開き、大型の戦略兵器が顔をのぞかせる。


 それは爆縮反応弾。


 極小のブラックホールを生成し、周囲のすべてを飲み込む戦略兵器だ。効果としては重力子砲と似ているが、発生する超重力は比較にならないほど強烈だ。ただし、その効果範囲は任意に調節できる。今回は直径5㎞に設定してある。その周囲を重力子砲で破壊し、中心部を爆縮反応弾で壊滅させる作戦だ。


 ランフォ・ルーザ・グリフォンから投下された爆縮反応弾が悪魔樹の本体へと突き刺さる。時限弾頭なのか直ぐには爆縮反応を示さない。ランフォ・ルーザは悠々と上昇し、そしてガウガメラへと飛翔していく。


 ランフォ・ルーザの背後で爆縮反応が始まった。

 最初はまばゆい閃光が広がり、次の瞬間効果範囲は真っ黒な球体へと変化した。繁茂していた悪魔樹の森はこの真っ黒な球体へと飲み込まれていく。


 数秒後、その真っ黒な球体は消失しその跡には綺麗な半球形の窪みが形成されていた。あの禍々しく繁茂していた悪魔樹の森はたった数秒の間に消滅してしまった。

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