決戦☆須王龍野vsジーク・バラモット…その②

 50トンの戦車を吹き飛ばすという尋常ではない膂力を操るジーク・バラモット。相対する龍野りゅうやももちろん格闘術に優れ、また魔力による障壁を展開しており戦闘力と防御力は高い。しかし現状は、攻撃・防御共にジーク・バラモットの方が上回っており、龍野は苦戦を強いられている。彼の攻撃はかわされ、そしてジークの攻撃を受け続けている。

 

「リュウと言いましたね。貴方、愚直ですね。でも、そんな貴方も大好きなのです。ああ、何故敵側にこのような魅力的な人材が溢れているのか」

「残念な奴だ。吸血鬼の下に集う輩は下衆だと決まっている」

「生意気ですね。しかしそこが良い。リュウ、貴方私の部下になりませんか?」

「お断りだ」


 龍野の持つ大剣から一閃のビームが迸る。心臓を狙ったその攻撃はジークの掌によって反射されてしまった。


「自慢の魔力光線も、その弾道とタイミングを読めばほらこの通り。我ら吸血鬼バラモットも魔力を扱う術には長けているのですよ」


 両掌を開き龍野へと向けたジーク。そこからは黒いもやが噴き出し龍野を包み込む。そのもやは龍野の周囲で蝙蝠こうもりと毒蛇に変化し龍野にまとわりついた。


「こんなもので俺は倒せんぞ!」


 龍野の黒い鎧から魔力が放出され、蝙蝠と毒蛇を吹き飛ばした。しかし、その隙に龍野の背後へと迫っていたジークは、龍野の鎧の隙間、首の部分にダガーを突き刺し彼の頸動脈を断ち切っていた。


 鮮血が噴き出す首を押さえ膝まづく龍野。

 その血を浴び高らかに笑うジーク・バラモット。


「ふはははは。蝙蝠や蛇は目くらましに決まっているでしょう。私はね。力でねじ伏せるのも好きですが、こういった欺瞞で嵌め殺すのも大好きなんですよ」


 窮地に陥った龍野に対し、ララは腕組みをしたままその様子を淡々と眺めている。


「ララ室長。次は貴方の番ですよ。そんな悠長に構えていてよろしいのですか」

「問題ない。何故ならば、まだ決着はついていないからだ」

「そんなはずは?」


 ジークは自身のダガーについている龍野の血をペロリと舐める。そして唾と共に吐き出した。


「これは血ではない。泥水? どうなっているんだ!?」

「こういう事さ」


 ジークの正面から突如現れ斬撃を加える龍野。

 胸を袈裟懸けに切り裂かれ、鮮血が噴き出す。それと同時に膝まづいていた龍野は土の塊となって崩れていく。


「貴方、忍者だったのですか?」

「違う。俺は土の魔術師、そして黒騎士だ」


 心臓を目掛けて突き出される大剣をダガーで弾くジーク。胸の傷は急速に治癒している。


「そろそろ飽きてきたぞ。決めてしまえ」

「了解しました。ララ様」

 

 龍野の全身から魔力が放出され、ジークを包み込んでいく。その魔力は当初はカーキ色のもやだったのだが次第に灼熱となり発火を始めた。


「ぐぐぐ。やりおる。しかし、この程度では?」


 切り込んでいく龍野大剣を交わすジークだが、それは龍野が作り出した分身であった。龍野の本体はジークの死角から大剣を心臓へと突き刺した。


「ぬかった。騎士が分身を使うとは……」

「この程度で驚くんじゃねえよ」


 龍野がその大剣に魔力を込める。その刀身は灼熱の炎を吹き出しジークの心臓を焼きつくす。


「何だ? この炎は? 再生しない。心臓が燃え尽きてしまう」

「大地の炎だ。美味いだろう」

「大地の炎??」

「大地の炎は物質を精製し、生命と悪魔を封じる」

「そんな魔力が存在していたと……」

「ご愁傷様だったな。俺の魔術はお前のような吸血鬼の天敵なんだよ」

「信じられない……」


 苦悶の表情を浮かべ炎に包まれているジーク・バラモット。

 その肉体は七回再生し七回焼き尽くされた。


「心臓のストックが尽きた……もはやこれまでか」


 その言葉を聞き大剣を抜く龍野。


「ふ。貴方と戦えてよかった。私は満足している」

「俺もだ」


 いつしかジークの表情は穏やかなものへと変化していた。そしてその体は完全に灰となって崩れていった。


「冷や冷やさせおって」

「失礼しました。ジークの手の内を探ってやや慎重に構えすぎたかと」

「まあ良い。勝ったのだからな」

「はい」

「ところで龍野。貴様まだ力を隠しているのだろう」

「いえ、そんなことは……」

「この後私と試合をしてみるか?」

「結構です。俺も命が惜しい」


 そう言って笑う龍野。その大剣を地面に突き刺し、再び魔力を放出した。その魔力は周囲の屍食鬼グール達を弾き飛ばし、そして発火した。


 燃え盛る炎の壁。

 ララの掌底の空突きでその一端が吹き飛ばされる。


「ここはもういいだろう。戻るぞ」

「はい」


 ララと龍野は地上へと向かう。正面入り口の前では真・ハイペリオンに搭乗しているラシーカが待機していた。


「ラシーカ。ミスミス総統が生存者を連れて脱出したことを確認次第、最大出力にて重力子砲を発射せよ。この朱雀を地上から抹消するのだ」

「了解」


 程なくして、ミスミス総統とハーゲン・クロイツ、そしてオルガノ・ハナダの三人が地上へと帰還した。彼らは数十名の生存者を率いていた。


 真・ハイペリオンの重力子砲が発射された。

 重力崩壊により、ショッピングモール朱雀は完全に潰れてしまい、更にそこを中心として直径数キロ巨大な窪みが形成された。


「バラモットに墓標は不要だ。ここで土に還るがいい」


 その一言を残し、ララはガウガメラへ乗艦した。

 ガウガメラは地中から浮上し、その鋭角的な艦体を空中に浮遊させている。その上空にはブーメラン型の戦闘機、バートラスが哨戒していた。


 朱雀が潰れてしまったことで、その向こうに悪魔樹をはっきりと見ることができた。


 最初に導入された親の樹。現在はそれは樹高数百メートルまで成長していた。そしてそれを中心として複数の悪魔樹が茂る森と化していた。その悪魔樹の森はガウガメラを敵だと認識したようだ。

 

 おびただしい数の種子を放出していた。ヘリコプターのように羽根を回転させ、ゆっくりと浮遊しながら接近してくる。

 その中の一つが艦載機バートラスに接触爆発した。


「まるで空中機雷だな」

「そうね。ララさんはハイペリオンへと乗り込んでください。オルガノさんは生存者たちを連れて後方へと下がってください」

「分かりました」

「了解です」


 オルガノは生存者を連れ、政府ビルへと向かう。

 ハーゲンとリオネ、ビアンカの鋼鉄人形がそのビルを防御する位置へと就いた。


「黒龍騎士団。出撃せよ!」


 ガウガメラから跳躍してハイペリオンの前へと躍り出る二機の機動兵器。

 それは銀色の騎士と黒色の竜騎士であった。


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