半分ドラゴン☆『岩山踏み』ラシーカさん攻略
「ララ室長。危険です。お戻りください!」
金森の呼びかけが聞こえていないのか、ララはそのまま尻尾の付け根に取り付いた。ブンブンと左右に振れる尻尾を華麗にかわす見事な体捌きだった。
ララは背の突起を器用によじ登る。暴れる巨体に振り回されながらも、暗黒の渦巻きを目前にして静止した。
「ララ室長!! その渦巻きは危険です。ゲートが不完全に起動していると思われます。下手をすると帰還できなくなります。こっちに戻って下さい」
金森は必至に呼びかけているのだが、ララは聞こうとしない。金森に向かって右手の親指を立て、にやりと笑った。
「行って来るぞ。はあっ!」
気合一発、ララの体はその場から垂直にジャンプし、黒い渦巻きの渦巻きに呑み込まれてしまった。
「ララ室長。ララ室長!」
金森は必至に叫んでいるが、その声はもうララには届かない。
一方、黒い渦巻の中へと飛び込んだララはドラゴンの肩へと飛び上がっていた。真っ赤な体躯のドラゴンは白目を剥き、口からは泡を吐き、両手を振り回していた。
「パニクってるな。正気に戻れよ!」
肩から額へとジャンプしたララは、そのまま眉間に痛烈なパンチを浴びせる。その瞬間、ドラゴンの両目が生き返りララを見つめた。
「痛い。ものすごく痛いわ。貴方、人間のくせになんて馬鹿力なの」
「馬鹿力で悪かったな。私はララ。お前は?」
「私はラシーカ。ゲートをくぐったらアッシュワールドへ着いてるはずなのに、どうなってるの? 私、お腹から下がなくなっちゃったの。ねえ、どうしたら良いの?」
「落ち着け、ラシーカ。今、お前が暴れているせいでアッシュワールド側は大変な被害が発生している。とりあえず静まれ」
「大変な被害って?」
「私が見ていただけでトラック三台、フォークリフト二台、クレーン車二台、転送用コンテナが二基をぶっ壊してる。ああ、電動スクーターも一台な」
「えーっと、それマジ?」
「マジだ」
ラシーカの額に立っているララと、ラシーカが会話をしている。ララは目が大きいラシーカの顔をみて、意外と愛らしいだと感じた。
「えーん、どうしよう。粗相がバレるとお嫁に行けなくなっちゃう」
「嫁に行けない位でギャーギャー騒ぐな。私だって嫁入り前だ」
「ララちゃん……だったっけ。未婚なの?」
「まあ、な。今のところ、小学生的な体格だからな。もう少し成長しないと難しいかも」
「そうなの? 人間の事よくわかんないけど、胸とか寂しいし」
「む、胸の話はするな。またぶん殴るぞ」
「ごめんなさい。胸の話はしません」
「ああ。そうしてくれ」
「ところで、私、どうしたら良いのでしょうか? このままだと、このままですよね」
「そうだな」
「このままだなんて……ぐすん」
ラシーカの瞳から大粒の涙がこぼれる。涙一粒が1m位ある。そして涙を拭う為、両手で瞼をこする。するとララの立っている場所がなくなる。ララはぴょんとジャンプして頭のてっぺんに飛び乗った。
「泣くな、馬鹿者。お前の手で危うく振り落とされる所だったぞ」
「ぐすん。ごめんなさい。でも、このままだとせっかく掴んだ留学のチャンスがダメになっちゃう」
「留学?」
「ぐすん。そう。留学。お友達いっぱい作って、いっぱいアニメ見て、コミケに行って同人誌買うの」
「勉強はするのか?」
「勿論、学校に行くのよ」
「学校って、その図体で通える学校なんてあるのか?」
「え? もちろん人間の学校に行くに決まってるじゃないの」
「行けるのか?」
「私達ドラゴン族は人間に擬態できるんです」
「人間に?」
「はい」
「それならすぐに擬態化しろ」
「あっ。そうか! てへっ」
軽くウインクしたラシーカは両掌を天にかざした。ラシーカの体が眩い光に包まれ、そして急激に小さくなった。ララも真下へと落ちていく。暗黒の渦巻きを通り過ぎ、アッシュワールドへ着地した。
ララの目の前には素っ裸で赤髪の少女が突っ立っていた。その裸体は色黒だが豊満で、どこぞのグラビアアイドルになれそうだった。
「最初からこうすればよかったんだ。ありがとうララちゃん」
「自分で気づけ。ところで服は着ないのか。素っ裸だぞ」
「え? 本当!? いやーん」
両手で胸を押さえてしゃがむラシーカ。ドラゴン族でも人間に擬態化すると羞恥心があるらしい。間の悪いことに、その場へ金森が走って来た。
「ララ室長、ご無事で!?」
「こっちを見るな馬鹿者」
ゴキ!
ララのキックが金森の脛にヒットする。金森は右脚を抱えてうずくまった。
「ララ室長、これは酷い」
「乙女の裸を無償で見るなど言語道断だ」
「そうかもしれませんが、これは不可抗力です」
「黙れ、馬鹿者。すぐに白衣を脱げ、そしてこの娘の服を持ってこい。直ぐにだ」
「は、はい!」
金森は涙を流しながら白衣を脱ぎ、そしてびっこを引きながら走っていく。ララはその白衣をラシーカの肩にかけてやった。転送ゲートはラシーカが通過したため自動で閉じ、黒い渦巻きはすでに消滅していた。
そして、周囲の惨状に目を見張るラシーカ。まるで爆撃でも受けたように破壊されてつくしている。
「これ、全て私がやったんですか?」
「そうだな。お前がやった」
「私の責任になるのでしょうか?」
「いや、それはない。運送中の事故で処理されるさ」
「本当に?」
すがるような瞳でララを見つめるラシーカ。ララは拳を握り締めにやりと笑う。
「文句を言う奴は私が黙らせるからな」
「ありがとう。ララちゃん」
「馬鹿、離せ」
「離しません」
ラシーカの豊満な胸に埋まるララ。しばらくの間、ラシーカはララを抱きしめ離そうとしなかった。
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