ブルマと体操服とフーダニット
金森が用意した衣類は何と!
えんじ色の縁取りの体操服と、同色のブルマだった。
「貴様、こういう趣味だったのか?」
「いえ、違います。突然だったので、これしか用意できませんでした」
「本当だな」
「天地神明に誓って」
と、金森とララが問答している脇で、ラシーカは瞳を輝かせて見つめている。どうやら、女の子の衣類というだけで興味津々のようだった。
「その服、着てもいいかしら?」
「着たいのか」
「ええ。だって可愛いじゃない」
「わかった」
ララと金森は顔を見合わせる。二人とも、体操服に飛びついてくるとは思ってもみなかったようだ。ラシーカが着替えている最中に、警官らしき集団に取り囲まれる。
「ララ様ですね。コロニーマスターがお会いしたいと申しております。ご同行願えますか?」
「わかった。ハンターの資格は?」
「勿論用意してございます。こちらへどうぞ」
ララ一行は警察の車両に乗り、コロニー中央へと向かう。そこにはいくつもの高層ビルが立ち並んでおり、その中の一つ、ホテルの様な建物の前で停車した。
車を降りた一行は建物の中へと入っていく。ロビーを抜け、エレベーターに乗り込み、そのまま最上階へと向かう。エレベーターが珍しいのか、ラシーカが一人だけはしゃいでいた。
「キャー。早いね、凄いね。エレベーターって初めて。外が見えるよ」
「そ、外など見せる必要などない」
「ええ? こんなにいい景色が見えるのに。まさかララちゃん高いところがダメなの?」
「そんな事はどうでもよいではないか。高所を好む奴の気がしれん」
「あー、そうなんだ。でも大丈夫だよ。私がついてるから」
そう言ってララに抱きつくラシーカ。
ちなみに、ララの服装はグレーの男性用スーツ。スーツ姿のちびっ子に体操服の豊満女子が抱きついて翻弄する姿はある意味奇特である。金森は目のやり場に困っている様子だった。
最上階でエレベーターは停止し、扉が開く。
正面にある執務室の扉は開いていた。
執務室の中には小柄な魔族の少女が立っていた。
「ララお姉さま。初めまして。p.w.カンパニーCEOのフーダニットです」
「一応、初対面だな」
ララは右手を差し出す。フーダニットはその手を取り両手で固く握りしめる。
「先般の戦いにおいては大変お世話になりました。ララお姉さまの活躍で今の私の地位があるのです。ありがとうございます」
「過剰な評価だ。私は私の祖国のために戦ったに過ぎない。奪われた機動兵器を回収し、さらわれた人員を救出しただけだ」
「それが結果的に、私の陣営に対する強力な援護となりました。いくら感謝しても足りない。そう思っています」
「そうかもな。ところで、今回は私の部下がこの異世界で行方不明になっている。捜索に協力して欲しいのだが」
「その件は承知しております。出来る限り協力いたしますが、私の権限はこの一番コロニー内に限られるのです」
力なく頭を振るフーダニット。ララはその手を握り締める。
「問題ない。ハンターの資格とある程度の物資の支援があれば何とかできるだろう」
「ララお姉さま。その力強い御心に感服いたします。私から提供できるのは各エリアの情報、そして自由な通行手形ともいえる特別ハンターの登録証です。お受け取り下さい」
「ありがとうフーダニット。ところで、私の部下たちの行先に心当たりはないかな?」
「そう。その情報です」
フーダニットはデスクの上に地図、アッシュワールドのコロニーが点在している地図を広げた。そこには12のコロニーが同心円状に並んでいる様子が記載されていた。①番から⑫番までが、番号順にほぼ等間隔で並んでいる。
「私達がいる場所、それがこの一番コロニー“ペーパープリーズ”です。ここは異世界へのゲートであり、各コロニーへの分岐点となります。異世界からの来訪者は、全てこのペーパープリーズを経由する必要があります」
「うむ」
「ララお姉さまの部下の方々は、ここから⑨エルダー・ドラゴン・ハイランダーのリゾート施設へと向かわれる予定でしたが、何故か⑦シーマンへと向かわれました。どうやら、ビーチで、水着ではしゃぎたかったようです」
「浮かれおって、馬鹿者どもが」
「その⑦シーマンで消息を絶たれました」
「なるほど。ではその⑦シーマンへと向かう。手配してくれ」
「わかりました」
フーダニットが頷き、秘書らしき女性へと指示を出す。そこに金森とラシーカが口を挟んできた。
「ちょっと待ってください」
「待ってよ」
「何だ」
ララを見つめる金森とラシーカ。二人は目配せをし、先ずはラシーカから話し始めた。
「私は、⑧スクールデイズ内の学園に留学する予定なのですが、ララちゃんについて行きたい。出来れば、ララちゃんの世界へ、日本へ行きたい。我が儘かもしれないけど、私のお願い叶えてくださいますか?」
フーダニットは笑いながら頷く。
「こちらの学園への転校はキャンセルですね。それは構いませんが、ララお姉さまのご都合は如何ですか?」
「ふん。今さら問題児が一人増えたところで大勢に影響はない。拠点は秋葉原ではなく吉原だがな。その点は我慢しろ」
「キャー。ララちゃん素敵ー。日本ですね、TOKIO! YOSIWARA万歳!!」
「意味分かってるのか。滞在費はお前の鱗とか角の欠片をミスミス総統の所へ持っていけば十分に賄えると思うぞ」
「ありがとうございます!!」
再びきつくララを抱きしめるラシーカ。ララは何を言っても無駄だと判断したのか、されるがままになっている。そこへ金森が口を開く。
「ララ室長。私からも一つお願いがあるのです」
「な、何だ。言ってみろ」
「私の元上司であるオルガノ・ハナダの件になります」
神妙な面持ちで話す金森。
黙ってそれを見つめるフーダニット。オルガノ・ハナダの事情については熟知していると言った風であった。
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