オルガノ・ハナダとp.w.カンパニーの闇

「オルガノ・ハナダを救出していただきたいのです」

「救出だと? 以前、我が帝国のドールマスターがそういった作戦に従事したことがあったが?」

「ええ。その時は、ハーゲン少尉とネーゼ皇女様には大変お世話になりました」

「うむ。またそのような事態が発生したと」


 ララの真摯な視線に金森は俯く。


「残念なことに」

「話してみろ」


 金森の話は以下の通りだった。

 ハーゲン少尉、リオネ・ガルシア中尉、そしてネーゼ皇女殿下の三名が金森と同行し、異世界ベイエリアにおいてカンパニーの用意した戦闘用サイボーグ、アルファベットシリーズと交戦しこれを撃破した。その際、中央の発電プラント内に、発電の為の燃料として拘束されていたハナダ氏を救出した。ハナダ氏は、彼に懐いていたR型サイボーグのラナと一緒に姿を隠した。

 R型サイボーグのラナは生体と機械の間に不具合を生じ死亡。それを機にハナダ氏はカンパニーへと戻って来た。それは、ララが参戦した異世界社長戦争が終了した後だった。

 ハナダ氏はアッシュワールドへと配属された。彼は元社長であったが、一社員からの再出発となる。彼の仕事は5番コロニーに設置された異世界難民キャンプにおける下働きだった。当初、5番コロニーはザ・レフュジーキングダム、難民王国と呼ばれていた。

 このコロニーに集う人々の7割以上は、カンパニーの施策に起因する紛争によって難民となった。贖罪の意識があったのだろうか、ハナダ氏は精力的に働き難民の救済と援助に尽くしていたと言う。当初、そのキャンプの経営は上手くいっていた。


 難民の中には犯罪者が紛れ込む。

 思想犯、殺人鬼、詐欺師、強姦魔、テロリスト、サイコパス、マッドサイエンティスト、そして邪悪な魔術師。

 ハナダ氏は、いつしかこの犯罪者と戦うようになる。彼は優秀な公認ハンターとして活躍していたのだが、彼の手に負えない事象が発生したのだ。


 それはゾンビの徘徊である。


 きっかけはとある魔術師の提供した、大変効率の良い光合成をおこなうと言う植物だった。名をエンジェルウィング(Angelwings:天使の羽根)と言った。

 その木は成長が早く、また光合成により大量の酸素を供給した。しかし、その成長と酸素生産の仕組みには秘密があった。それは、人間の魂を消費しながら活動するというものだった。その実体が明らかになり、その名はエンジェルウィングから悪魔樹(Deviltree)と呼ばれるようになった。

 その悪魔樹は自身の種子を人に寄生させ、その種子が成長するにしたがって寄生した人間の生命力、即ち魂を吸収していく。そのエネルギーは本体、親の木に送られる。寄生された人間は生命力(魂)を吸い尽くされ死亡するが、すぐに植物系ゾンビとして復活する。復活した植物系ゾンビは生きている人間に種子を寄生させ、活動エネルギーの総量を拡大していく。

 この段階で一致団結し、悪魔樹と植物系ゾンビの駆除を実施すればよかったのだがそうならなかった。つまり、コロニー内の覇権を悪魔樹に取られること恐れた犯罪者が他の系統のゾンビを導入し、自身の勢力を拡大しようとした。これにより、少なくとも数種類の別系統のゾンビが感染拡大していく。

 寄生虫型、バクテリア・細菌・ウィルス型、魔法・呪詛型、科学技術(ナノマシン)型、その他分類不能(チート)型等。

 同じ型に分類されていても、その中に数種類の近似系が含まれるため、ゾンビ系統の総数は把握できていない。

 結果、複数系統の入り混じるハイブリット型ゾンビが繁殖し、誰が覇権を握ったのかは不明瞭となった。また、これらのゾンビ系を持ち込んだ犯罪者自身もゾンビに感染、死亡してしまい、最早コントロールは不能となっている。


 ハナダ氏はその不死身の能力を使ってコロニー内の防衛に努めて来た。残念なことに上司は全て死亡したため、現在は彼がトップとなった。

 コロニーマスター、オルガノ・ハナダ。

 その特殊能力「死ぬべき運命フリージア」を駆使し、唯一人ゾンビに立ち向かっている。それは、生存している住民の身代わりとなって瀕死となり、そして復活すると言うものだった。


「凄まじい運命だな」

「ええ。他の誰にも真似はできません」


 ララの一言に頷き、金森は眼鏡を取りハンカチで涙を拭う。フーダニットの瞳にも涙がこぼれている。


「ふむ。オルガノ・ハナダ一人ぶん殴って連れ出すだけなら私一人でも可能だろう」

「ララ室長!」


 すがるような面持ちでララを見つめる金森。ララは続ける。


「しかし、それでは彼は納得しないだろう。連れ出してもすぐに戻るぞ」

「それはそうかもしれませんが、私には今現在進行しているあの惨状を見ていられないのです」

「なるほど。しかし、私は軍人だからな。最もリスクが少なく確実な方法を考える。ここではそのゾンビの元が拡散しない事が大前提になるぞ」

「それはもしかして、大量破壊兵器、戦術核を使用するとか」

「生ぬるい。戦術核ではゾンビの元が拡散してしまう可能性がある。爆心地を全て消滅させる為には戦略核が必要だな」

「戦略核ですか。それならば周囲のコロニーにも被害が発生します。承認は難しい」

「だろうな。私なら爆縮反応弾を使用する」

「爆縮反応弾?」

「通称ブラックホール爆弾だよ。私に運用の権限はないが、馬鹿なロリ兄貴なら用意するだろう」

「セルデラス総司令ですか、酷い言われようだ」


 金森は力なく首を振る。思春期の娘でもいるのだろうか。そういった年ごろの女の子が父親に辛く当たると言う話は多い。


「ララお姉さま。まさか、生存者も含めて破壊するのでしょうか」

「それが最善だ。救出作戦を実施するとしたら宇宙軍による大規模な作戦を必要とする。それは同時にゾンビの感染拡大を誘発する」

「それではハナダ氏まで犠牲に」

「奴は死なないのだろう。ブラックホール化し、素粒子に変換された後でも復活するのではないかな?」

「それはそうかもしれませんが、復活の確証はありません」

「私は賛同いたしかねます」


 フーダニットと金森の反対に会うララ。しかし、その表情は明るい。他に代案でもあると言うのだろうか。


「ふふふ。私もこのような非人道的な作戦を実施するつもりなどない。軍の合理的な発想ならこうなると言う話をしたまで」

「では、他にどういう作戦があるのでしょうか」

「黒龍騎士団」

「え?」

「それは?」

「彼らがこの任務に最適なのだよ」


 フーダニットと金森はきょとんと呆けた表情だ。黒龍騎士団の存在を知らないのだろう。

 ララがその騎士団についての説明をしようとしたその時、窓の外に巨大な黒い顔が現れた。 全長15m以上はありそうな、黒色の人型機動ロボット兵器が、窓の外から睨んでいた。


「やっと見つけた。ララ・バーンスタイン」


 その声に窓ガラスは震え、そしてひびが入った。

 そしてララは、両手を握り締めにやりと笑った。


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