対決☆ジーク・バラモット

 夕日に赤く染まるホテル街。そこはいくつものブランドショップが立ち並ぶ目抜き通りだ。しかし、人影は全くない。誰もいない。

 くだんの倉庫へと歩くララとラシーカ。その二人に近づく人影が二つ。一人は二メートル近い大柄な体躯と頭部に突き出ている狐耳が目立つ。もう一人は小柄で華奢きゃしゃな体形だったが、こちらの頭部にもぴょこんと飛び出ている狐耳が目立つ。二人とも狐型の獣人で大柄な方はきつね色の毛並み、小柄な方は銀色の毛並みを持っていた。


「ララ様。新造艦ガウガメラ着任しました」

「早かったな。装備は?」

「問題ありません。私の新しい乗機も待機中です。また、ララ様用にアルカディアも持参しておりますが」

「不要だ。フェイス!」

「はい」

「貴様は索敵に専念しろ」

「はい」

「ハーゲン」

「はっ」

「現状稼働可能な鋼鉄人形は?」

「私のゼクローザス・クベーラ、他に二機であります」

「出撃させろ。倉庫を包囲し逃亡を企てた者は殲滅せんめつしろ」

「了解」


 二人の獣人は姿を消した。

 ララとラシーカはホテル街の片隅にある倉庫の入り口へと向かう。


 そこはシャッターが解放され広大な空間がその奥に広がっていた。しかし、一切の照明が灯っておらず、中は漆黒の闇となっていた。その闇の中へと進んでいくララとラシーカ。闇の中へと飲み込まれていく二人。しかし、ララは構わず奥へと進んでいった。


「よくぞここまでおいでになりました。ララ・バーンスタイン様」


 笑い声とともに灯りが点る。

 十分な光量とは言えない薄暗い灯りではあったが、そこには装甲服を身に着けていないジーク・バラモットの姿があった。貨車用コンテナの上に立っていた。

 真っ白な肌に深紅の瞳が目立つ。190センチ以上ありそうな大柄な体躯。そして輝かしい黄金の毛髪。

 羽織っていた黒いマントを放り投げる。その下には中世の貴族を思わせるような豪奢な衣類が覗く。白いシャツにベスト姿なのだが、要所に刺しゅうが施されている。足元の黒いブーツも同様だった。


「貴様の望み通り来てやったぞ。さあ、私の部下を開放しろ」

「そうですね。約束は守りましょう。あなたの部下は開放します」


 その一言で、ジーク・バラモットの足元にあった貨車用のコンテナの扉が開いた。そこから出てきたのはアルヴァーレの三人娘。


「ララ室長♡」

「ララさま♡」

「(⋈◍>◡<◍)。✧♡」


 ヴァイス、ブラン、レイスの三人だった。

 その三人がララに飛びつこうとするのだが、ラシーカは身を挺してそれを阻止した。


「ララちゃんに不用意に近づいてはいけません。先般吸血鬼がララちゃんの部下に擬態して接近したという事例が発生しました」


 小首をかしげるヴァイ。


「あら、そこの赤毛の豊満女子は誰かしら?」


 腰に両手を当てぷんすかとまゆを顰めるブラン。


「ララさまの護衛気取り? それは私の役目ですわ」


 狐耳をぴくぴくを震わせながら抗議するレイス。


「お揃いのセーラー服が超羨ましいんですけど!!」


 そんな非難をものともせずにラシーカは意気揚々とふるまう。


「私はラシーカ。これでもドラゴン族なんだからね。喧嘩はめっぽう強いわよ。ララちゃんに悪さする奴はぎったんぎったんにぶっ飛ばすんだから覚悟しなさい!!」

「ラシーカ。問題ない。そいつらは本物だ」

「え!? そうなの」


 後ろ側、ララの方を振り向いたラシーカ。その隙にアルヴァーレの三人娘がララに飛びついた。三人に揉みくちゃにされながらもララは諦めているのか何も言わない。


「感動の再会ですかな? ララ・バーンスタイン。人質は返したぞ」

「まだだ。後7名、いや、6名と一体か。すぐに開放しろ」

「ふふふ。タダで解放するのは面白くない。貴方がゲームに勝てば一人づつ解放しようではないか」

「驕るなジーク・バラモット。こちらの要求はすべての人質の解放だ。要求を飲まねば貴様を抹消する」

「ほほー。出来ますかな?」


 ジーク・バラモットがパチンと指を鳴らす。

 するとコンテナの影から一つ人影が躍り出てきた。その人影は素早い動きでララたちに迫り、そしてナイフで切り付けてきた。

 ララはナイフを交わしてその心臓に拳を打ち込む。

 

 ドガッ!


 ララの拳はその胸にめり込んだ。

 心臓を破壊され沈黙した自動人形。セーズ型のジャスミンだった。


「ジャスミン!」

 

 そう叫んで駆け寄ったのはリーダーのヴァイだった。


「ララ室長。破壊しなくても」

「お前たちがこんな目にあったのはそいつの策略だ。既に疑似霊魂が汚染されている」

「そんな……」

「一旦機能停止させ、法術士に治癒させる必要がある。これ以上壊れないよう面倒を見てやれ」

「はい」


 ララは光剣を抜きジーク・バラモットに斬りかかる。しかし、それを阻止しようと光剣を抜き立ちはだかる者がいた。長身の偉丈夫、戦闘員のリュウだった。

 そしてその奥から現れたのが5m級エクセリオン型の人型機動兵器が三機、そして10m級だが下半身が無限軌道になっている人型兵器機動兵器が一機。肩に大型の砲を装備し、両腕にも火砲を装備しているのが見て取れた。


 ララは咄嗟にヴァイ達の元へと下がる。


「こんな大仰な準備をしていたとはな」

「参りましたかな? ララ・バーンスタイン」


 笑いながら話しかけてくるジーク・バラモット。その横で戦闘員のリュウも笑っている。エクセリオン型三機のコクピットにはハルト君とブレイ、そして隊長のゲップハルトの姿が見えた。


「ほほー。そのゲテモノ趣味のロボを倒し、それに乗り込んだ連中を救出しろと。なかなか難儀なゲームだな」

「ふふふ。そうです。彼らは血の契約によって私が支配しております。そこの娘三人を拷問すると脅しましたらあっさりと支配下に。ふふふ。人間とは弱く愚かな生き物です」

「そんなことはありません。人は、人間は、他の人、愛する人を守りたいから強くなれるのです。貴方の言っていることは間違っています!」


 立ち上がって啖呵を切ったのはラシーカだった。


「自分を犠牲にしても愛する人を助けたい! 貴方にはそんな人の心が無いのですか!!」


 尚も反論を続けるラシーカ。

 彼女の両手を握ったのはブランとレイス。そしてヴァイはラシーカの前に立ち、人差し指をジーク・バラモットへと向ける。


「あなたのような者は人の皮をかぶった悪魔と言います。私たちアルヴァーレは、貴方のことを断固非難します。そして、アリ・ハリラー党のメンバー全員を救出します。覚悟なさい!!」


 4機の人型機動兵器の合間からぞろぞろと人影が現れる。

 赤く輝く瞳、よだれを垂らした口元から覗く太い犬歯。それらの特徴からバンパイアではないかと推測された。その数は100名以上だった。

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