アリ・ハリラー党vs魔女っ娘探偵アルヴァーレ

 ララの眼前に立つジーク・バラモット。その脇に控えているのはアリ・ハリラー党の戦闘員リュウ。その背後には下半身が無限軌道で構成されている巨大人型機動兵器。それを囲むようにエクセリオン級の人型兵器が三機。そしてララたちを包囲している吸血鬼の群れは約100名。


 完全に包囲されているというのに、ララは落ち着いていた。こそこそと小声でラシーカとアルヴァーレのメンバーへと指示を出している。


「では手はず通りに」

「了解!」


 四人の少女が元気のよい返事をした。

 狐耳をピクピクと動かしながらレイスが掌から幾多の小火球を生成した。ブランの掌からは疾風が巻き起こりその小火球を周囲へと拡散する。

 薄暗い倉庫内はその火球によって昼間のような明るさとなった。吸血鬼たちはその火球から逃げ惑う。

 その刹那、ララはエクセリオン級の一機へと走り出し、そのコクピットへと飛び乗った。それはエクセリオン四号、搭乗者はハルト君である。ララは両手に霊力を集め、その光輝く掌底でハルト君の眉間と心臓を打つ。


「ぐはっ」


 ハルト君は抵抗する間もなく昏倒した。


 ララの行動と同時にブランは雪の結晶を振り撒きながら飛翔しリュウの前面へと躍り出た。そして全身から大量の雪の結晶を放ちリュウとジーク・バラモットを押し包む。


「貴様の名は?」


 ララが乗り込んだエクセリオンのAIが返答した。


「私はエクセリオン四号のAIコニーです。ララ室長のご命令を待ちしておりました」

「いい返事だ。他のエクセリオンも制圧する。クラッキングに協力しろ」

「御心配には及びません。我がエクセリオンシリーズは全機ララ室長へ忠誠を誓っております。他の機体もほら」


 胸部のガトリング砲を吸血鬼へ向け発砲しているのはエクセリオン五号。搭乗者のゲップハルトはコントロールを取り戻そうと四苦八苦しているがまるでいう事を聞かない。密閉型コクピットのエクセリオン三号はその風防を開き発行信号でララに合図を送る。


 ララはエクセリオン三号に飛び乗り、霊力を込めた光る掌底で搭乗者のブレイを打ち付ける。ブレイは狐耳と尻尾を痙攣させながら悶絶した。


「私はエクセリオン三号にAIトモコです。ララ室長、指示を」

「吸血鬼に対して攻勢に出ろ。近づけさせるな」

「了解」


 エクセリオン五号のコクピットにはヴァイが飛び乗っていた。ゲップハルトを睨みつける。ゲップハルトはエクセリオンを操縦しようと必死に操作しておりヴァイに気づいていない。


「なぜコントロールが奪われている。いうことを聞け、このポンコツが」

「私はエクセリオン五号のAIギイチロウです。私たちエクセリオンシリーズは、そもそもアルマ帝国の皇族方に従うようプログラミングされております。ララ皇女やミサキ皇女に対する敬意は全てに優先されます。これは製作者のノラベル将軍により課せられた義務なのです」

「余計な機能を付けやげって馬鹿ハゲめ!!」


「下品な殿方には幻滅しますわ」


 その一言で、ゲップハルトは背後にヴァイがいることに気づいた。しかし、振り向いた途端ゲップハルト雪の結晶に包まれて身動きが取れなくなってしまう。

 ヴァイの魔法で氷漬けとなったゲップハルトは空中を漂いながらライスとブランのいるところへと着地した。そこへ気絶しているハルト君と戦闘員ブレイもララに放り投げられて落下した。


「あら、ハルト君が物凄く痛そうですわ」

「ブレイ君も痙攣してる。大丈夫かしら?」


 等と言いながら呑気に笑っているのはブランとレイスだった。


 突如、壁を破壊して侵入してきた二機のエクセリオン。先般制圧したエクセリオン二号と、今回出撃していなかったエクセリオン一号が自主的に駆けつけて来たのだ。

 エクセリオン二号のコクピットにはちゃっかりとラシーカが座っている。


「ララちゃん。手はず通り合流したよ。一号も来てくれたよ」

「私はエクセリオン一号のAIハリです。ララちゃまの危機と聞き馳せ参じてまいりました」

「エクセリオン二号のAIホシコも同じ気持ちです。さあ悪いお兄さんをぶっ飛ばしましょう」

「ホシコちゃんやっちゃえ!」


 ラシーカの合図で、エクセリオン二号が胸部から突き出ている35㎜砲を上半身だけの巨大人型兵器へ向けて射撃を開始した。それに同調し、他のエクセリオンも機関砲やビーム砲を射撃する。しかし、そこにいた上半身だけの人型兵器にはダメージを与えられない。すべての弾道はひん曲がりあらぬ方向へと弾は逸れていく。エクセリオン四号のビーム砲でさえその射線はぐにゃりと曲がって天井へと突き刺さった。


「撃ち方止め」


 ララの号令で射撃は止んだ。


「まるで歯が立たんな」

「重厚な防御フィールドが展開されているようです」


 ララとヴァイが状況を確認する。直接的な物理剛撃や魔法による攻撃ではその防御フィールドは突破できないと判断したようだ。


「フハハハハハ。ララちゃまにヴァイ。二人並んだときの、そのおっぱいサイズの対比は相変わらずだ。天文学的な隔絶性の下に語られる壮大な物語になあ……ゴキ!」

「アリ・ハリラー様。このような場所での暴言はお控えください」

「なに!? 私が何をしたというのだ。事実をありのまま……ゴキ!」

「人様の容姿をネタにその人を蔑むことは許されません」

「私は蔑んではいない。ララちゃまを愛するがゆえにおちょくりたいのだ……ゴキ!」

「あなたの本心がどうであれ、世間一般では差別表現と受け取られます。控えてください。こんな会話を拡声器を使って話すことじゃないでしょう。もう恥ずかしい」

「ノラベル将軍。そう堅苦しい態度をとるんじゃない。ララちゃまへの愛が溢れていることにララちゃま本人が気づいているではないか。見よあのほっぺ。熟れたリンゴのように真っ赤ではないか」


 ララは口角をゆがめ歯ぎしりをしていた。ポケットから小刀(肥後守)を取り出しその刃を伸ばす。そして上半身だけの機動兵器へと向かって投擲する。


 一線の光条が胸部に吸い込まれる。

 並列複座となっているコクピット内にその刃は飛び込んできた。そして、アリ・ハリラーの座っているシートの横に突き刺さった。


「うわ。危ねえ。何だこりゃ」

「名刀肥後守。ララさまが投擲されたようです」

「なんでこのハイペリオンの防護フィールドが突破されるんだ。ノラベル将軍!」

「それはララ様のチート能力です。あの方は時空を超えて色々なモノを投擲されるのです」


 再びララが何かを投擲した。銀色の光条が一線、ハイペリオンの胸部へと吸い込まれる。


「痛い。なな何なんだ。眉間に激痛が」

「アリ・ハリラー様、100円玉が眉間に張り付いています」

「ば、化け物かララちゃま。アケヒト、全力射撃だ。ララちゃまを粉砕するのだ」

「元締め、その命令は不味い」

「アケヒト了解しました。これより全力射撃を開始します」


 ハイペリオンの右腕に仕込まれている35㎜機関砲と、左腕に仕込まれている25㎜ガトリング砲が火を噴いた。

 その火線はララたちを目掛けて伸びてくる。


「させません」


 エクセリオン二号がララたちの前面に躍り出て、その火線を遮った。

 穴だらけになり出火するエクセリオン二号。そのコクピットに座るラシーカも砲弾を受け血まみれになっていた。


「ララちゃんを守ります。エクセリオン達、頑張って!!」


 まさに血を吐きながら号令するラシーカ。彼女に応え、他のエクセリオンも火線の盾となった。十数秒間の攻撃で砲弾を打ち尽くしたハイペリオン。右肩の大口径砲を俯角に取り、その照準をララに合わせた。


「出来損ないの邪魔なエクセリオンも、生意気なララちゃまもまとめて一掃する。アケヒト、やれ」


 ハイペリオンがその大口径砲を発射しようとしたその瞬間に、外部から飛来した黄金の矢が肩部に突き刺さった。


「砲身懸架部に被弾。射撃不能です」

「何? 誰だ邪魔をするのは」


 エクセリオンの壊した壁の穴からは弓を構えた人型機動兵器が、また、他に二方の壁を破壊して侵入してきた人型機動兵器。それはアルマ帝国の鋼鉄人形であった。

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