対決バラモット軍団

朱雀突入vsバラモットの騎士グイード・シュルバ 

 ミスミス総統を拉致したのはバラモットの騎士グイード・シュルバだった。

 かつて某王国の戦士長を務めた騎士。その高潔な人材が何故かここアッシュワールドでは吸血鬼バラモットとなりジーク・バラモットの部下として暗躍していた。


 太陽光が遮断された朱雀の地下施設。

 そこへミスミス総統を連行したグイード・シュルバ。彼はデルラウェラのヘルメットを脱ぎにやりと笑う。


「貴方が黒幕である事、確信しておりましたよ。ミスミス総統閣下」


 金髪の巻き毛が揺らめくイケメン騎士だった。ミスミス総統は平然と彼を見つめている。


「だから何? 私を拉致したら勝てるとでも思ったのかしら?」

「貴方は魔力……いや、法術に秀でた方。たった一人でもこの朱雀を壊滅させるほどの法力を発揮される可能性がある事は承知しておりますよ。だからこそです。貴方の生き血を、その法術の源である精力をいただきたいと思いまして」

「私の血を欲すると言うのですか。そうですか。お下劣ですわね」

「ふふふ。能力値の高い人間の血は、それはそれは私たちの力を高めてくれるのです。その辺に転がっている一般人の血とは比べ物にならない貴重なものですよ」


 髭をそった端正な顔が笑う。その背後には黄金の長髪をたなびかせているジーク・バラモットがいた。そして他には三名の吸血鬼バラモットと思しき人影があった。


「そう。私の血が欲しいのね。私の血を吸って何がしたいのかしら?」


 ミスミス総統は人外の吸血鬼に囲まれても気丈な態度が崩れない。それは単に鈍感であるとか、力量をわきまえない強がりであるとかではない自身に満ち溢れた態度だった。


「カンパニーに復讐するため。私が生きていた世界。私が仕えていた気高い王国を滅ぼした罪を贖わせるのさ」

「ふーん。復讐の為に吸血鬼となった。そして復讐を成し遂げる為、罪なき人の生き血を求めると」

「そうだ。この非道な犯罪者集団に鉄槌を下す。それが私の唯一の望みなのさ」

「哀れですね。そして下衆。吸血鬼になるとその根性も腐ってしまうようで何とも言えませんね」

「私の高潔な精神を下衆だと言うのか。この女狐め!!」


 グイード・シュルバがダッシュしてミスミス総統へと突っ込んでいく。しかし、その動きをタックルで阻止した者がいた。オルガノ・ハナダだった。


「お前の悪行三昧は既に知れ渡っているぞ。グイード・シュルバ。元々は高潔な騎士だっかたか知らんが、人々の生き血をすするお前は三流以下のクソ野郎だ」


 スラリと日本刀を抜刀しグイード・シュルバに斬りかかるオルガノ。グイードも腰にぶら下げていた大剣を構えて応戦する。


 キン!

 キン!


 薄暗い地下での剣撃に火花が飛び散る。剣技ではグイードの方が優れているようで、オルガノは徐々に後退していく。

 その時、影のように近寄っていた人物が眩い光剣を抜き、その光剣で周囲にいた吸血鬼バラモットの心臓を貫いた。


 一人の吸血鬼バラモットが苦悶の表情を浮かべ灰となっていく。


 光剣を構えているのは大柄で狐耳の獣人、ハーゲン・クロイツ。そしてその脇にちょこんと立っている小柄な金髪ツインテールの少女はララ・東条・バーンスタインだった。 


「姉さま。遅くなりました」

「外は大丈夫かしら」

「はい。黒龍騎士団を配置しました。問題ありません」


 剣を抜いてハーゲンとララに襲い掛かる二名の吸血鬼バラモット。ララも光剣を抜き応戦する。剣技に優れるハーゲンはあっさりと吸血鬼バラモットを仕留めた。ララもまた難なく光剣でその心臓を貫く。二人の吸血鬼バラモットは灰となって崩れていく。


 キン!


 オルガノの持つ日本刀が目元から折れた。その隙を見逃すはずもなく、グイードの大剣がオルガノの心臓を貫く。鮮血を吐きその場に倒れるオルガノだったが、傷は直ぐにふさがり出血も止まる。そして立ち上がった。


「俺は止まらない。このコロニーを守り抜く」


 そう言って折れた日本刀の柄を放り投げ、懐から自動拳銃を取り出す。


 パン! パン! パン!


 グイードに向けられて発射された弾丸は二発は装甲服の表面で火花を散らし、一発はグイードの額で火花を放った。


「ぐっ。何だこの弾丸は!? 拳銃弾ごときで我ら吸血鬼バラモットが影響を受けるなど有り得ん」


 額の組織ごと焼夷弾を抜き取り悪態をつくグイード。オルガノはにやりと笑う。


「どうだ。新型の弱装焼夷弾だ。貫通力が抑えてある代わりに激しく発火するぞ」

「人間のくせに生意気な。バラバラにして再生できなくしてやる」


 鬼の形相というべきか。鬼気迫る顔でオルガノの斬りかかるグイード・シュルバ。そこに光剣を振り割って入ったのはハーゲン・クロイツだった。

 ハーゲンの光剣はグイードの持つ大剣を真っ二つに切断した。そして心臓を狙って突き立てるのだが、装甲服の対ビームコーティングに弾かれてしまう。


「二人掛りか。卑怯だぞ」

「ふっ」


 その言葉を気にも留めないハーゲンの回し蹴りがグリードの脇を捕らえる。数メートル吹き飛ばされたグイードの背後から、ララの拳が彼の心臓を穿った。


「うがっ」


 苦悶の表情を浮かべるグイード。そしてララはその心臓に手りゅう弾を突っ込んだ。その手りゅう弾は焼夷弾。ボンと弾けた瞬間に強烈な火花を放ち続ける。

 その場に倒れこむグリード。彼は鮮血を吐きながらもまだ生きていた。


「三人がかりで、しかも私の弱点を狙うとは卑怯だぞ」

「私一人で相手をしてもよかったのだがな。それではそこの二人が承服せんからな」

「そんな理由で……」

「ふん。モンスター相手に協力プレイをするのは人類共通の作戦だ」

「私を倒すのはゲームか何かなのか……」

「残念だが貴様を人間扱いする気はない」


 心臓から火花を散らしているグイード。その強烈な高温は彼の肉体に火をつけた。


「あああ。私はこのまま燃えてしまうのか」

「成仏しろ」


 ララは拳銃を引き抜き、グイードの顔面に数発撃ち込んだ。彼の頭部も炎に包まれ、もはや再生する気配もない。


「無……無念」


 それだけを言い残して灰となっていくグイード・シュルバ。装甲服を残しその肉体は灰となって崩れ落ちた。


「役立たずは役立たず。三流騎士はやはり三流騎士でしたね」


 そう言ってのけたのは一人残っているジーク・バラモットだった。いつの間にかその横に子供を一人侍らせていたのだが、その子供の首をつかんで噛みついた。

 頸動脈を切断され鮮血が噴き出す。その傷口に口を当て、嬉々として鮮血を頬張るジーク・バラモット。


「ふふふ。美味い。子供の血は非常に美味い。これはたまりませんねぇ」


 その子供は僅か数秒で血と精を吸いつくされた。

 青白く、そして痩せこけたその瞳には狂気の光が宿る。子供は既に屍食鬼グールと化していた。

 オルガノは手に持った拳銃でその子供の額と心臓を撃ち抜いた。その子供は火花を散らしながら発火し、そしてその炎は全身を包み程なく灰となった。


「オルガノ・ハナダ。君は容赦がないね。まだ子供だと言うのに燃やしてしまうとは」

屍食鬼グールとなっては助からない。俺はこのコロニーに潜む全ての吸血鬼とゾンビを排除する」

「ははは。いい心がけだ。ならばこの朱雀に残る数千人も燃やしてみろよ。既に私の配下。屍食鬼グールになっているぞ」


 高笑いをしているジーク・バラモット。その背後には青白い顔の、おびただしい数の屍食鬼グールがいた。この朱雀は既に全滅していたのだ。

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